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第4話 隊服とニルドラ先生
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俺はアイン・ビロクシス。今日からラドニール魔法部隊に所属することになった、ラドニール魔法学園魔道科の高校2年生だ。
「よろしくお願いします!」
「はは、元気いいなあ。よろしくな、アイン」
「気合い入ってるとこ悪いんだけど、まず書類仕事をお願いね」
俺が入ることになったラドニール魔法部隊には隊長で悪魔使いのジェイソンさん、回復魔法使いのメアリーさん、召喚士で物理攻撃担当のケビンさんがいる。
メアリーさんが出してきた書類は膨大で、所属が高等部から魔法部隊に変わる申請書類、給料の振込み先、戦闘行為に関係する誓約書、部隊員が入ることになる寮の手続き書類、その他にも親のサインが要る書類などものすごい量だった。
「すごい量ですね」
「ごめんごめん、ラドニール魔法学園所属とは言うものの国のプロジェクトの一環らしくて書類が多いんだよね~。それにアインくんはまだ未成人だから親御さんのサインがいる書類もあるし。サインもらったらまた持ってきて」
せっせと書き物を進めているところに、来客があった。まさか俺のようにケビンさんに捕まった生徒でもいるのだろうか……と思いきや、あの日勧誘ポスターを掲示していたニルドラ先生だった。
「にっ、ニルドラ先生?!」
「おーアイン!お前かぁ」
「イケダンディ、来てくれた!やったぁ、百人力だね」
「メアリー、また変な呼び方しやがって。セインって呼べセインって」
「えへへっ、ごめんなさーい」
「ニルドラ先生、なんでまた……?」
「そりゃお前、勧誘こそ力を貸したが本当に高校生が入隊するってなったら教員一人くらいいねえとまずいだろうってことよ」
さっぱり状況が分からない。俺の知らないところで話が進んでいてニルドラ先生も部隊員らしいことしか分からないし、それがあってるのかもよく分からない。
「アイン、何がなんだか分からねえって顔をしてるなぁ。そりゃ無理もねえな!一言で言うと、俺も隊員になるってことだ。よろしくな」
「ニルドラ先生は私たちもお世話になった先生なの。アインも教わることが多いと思うよ」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「さて、そろそろ書類も終わった頃かな?今日はやることが多いよ~。次は採寸っ!」
「……俺だけですか?」
そう言ってそれとなくニルドラ先生の方を見ると、ニルドラ先生はさも当たり前かのように赤い外套を羽織った。隊服あるのかよ!
「そりゃそうよ。先生にはもう隊服があるんでね。そういやケビンはどこにいるんだ?」
「今日はケビンがパトロールの当番だからな、外出してるよ」
「パトロール?」
「学内とラドニール市街地の見回りだ。アインにもそのうち頼むことになるけど……」
「ほとんどお散歩同然だよねえ。平和で何よりだけど」
「そうそう。経費でおやつの買い食いしてな」
「あ、ジェイソンもやってるんだ。ジェイソンがそういうの一番怒りそうなのに意外」
「お前らどおりで……」
「あそっか、セインは予算周り把握してるのか」
「あんまり豪遊するなよ!雑費で言い訳できない額になると面倒なんだからな」
「はぁーい」
そうこうしているうちに採寸が終わり、ツクレシーさん (部隊のオペレーターのお姉さん)がいろいろとジャケットやズボンの見本を持ってきてくれた。
「どんなデザインで頼みます?これは採寸結果から適当に切り出してきたやつですけど、参考になれば」
「すご、さっき採寸取ったばっかりなのに」
「魔術師ならこれくらい朝飯前ですよ、私も少しばかり心得がありまして」
「ツクレシーさん、すごいんですね」
「ありがとうございます。私は皆さんのサポートをすることが仕事ですから、隊服でもその他でも、困ったことは何でもお申し付けくださいね」
襟の形やジャケットの丈、ブーツの丈などいろいろ選べるみたいなんだが、俺にはどうしたものか皆目見当もつかない。
「メアリーさんジェイソンさん、俺わかんないんで決めてくれませんか?」
「え?別にいいけど……希望ある?丈の長いジャケットがいいとか、ブーツは嫌とか」
「それでいくと、ブーツがいいですね。ジャケット丈は特に希望ないです」
あのスライム退治の時みたいにモンスターを踏みつけることもあるだろうし、俺はメアリーさん (タイツにローファーだ)やジェイソンさん (なんとこの人は革靴なのだ)みたいに器用に闘える気がしない。ブーツなら多少汚れてもなんとかなるだろう。ここだけは我ながら合理的判断だと思う。
「オーケー。そしたらさぁ、襟は学生らしくブレザーみたいなやつにして、せっかくだからジャケット丈は膝にしちゃってさ、膝くらいの長めのブーツを合わせるの。どう?それで、チラッとネクタイが見える感じ……」
「メアリー、楽しそうだな」
「えへへ……アインくんには悪いけど、着せ替え人形やってるみたいで楽しくて」
「でもメアリーさんの組み合わせでしっくりきます。俺これでお願いします」
「えっ、本当にいいの?もっと迷ってもいいんだよ!ケビンなんかボタンの数をいくつにするかで私たちの中でいちばん時間かけてたし」
「アインはどうする?上着のボタンはいくつにする?ダブルでもいいぞ」
「えっ……どっちでもいいです……」
「ちょっとジェイソン、それ言い始めたら大変なことになっちゃうから……いや言い始めたの私だけどさぁ」
「そうそう、カフスボタンつけるかとかベルトのバックルのデザインはどうするかとか」
「ニルドラ先生まで……なんでもいいですよいちばんシンプルなやつで……」
「ねえーほらアインくん困ってるから」
「あと汚したり壊したりしたら仕立て直しだし……俺そんな器用じゃないんでほんと……」
「アインくんって結構リアリストなんだね」
メアリーさんがデザイン画のようなものを起こしてくれて、俺の隊服が決まった。デザイン画をツクレシーさんに渡すと、遅くとも明日には仕上がっているらしい。
「決まりました?」
「はい。これです」
「良い型ですね、きっとアインさんに似合いますよ!この型ならすぐ仕上がりますから、ちょっと待っていてくださいね」
ツクレシーさんはウキウキして作業場に消えていった。最初見た時はかっちりしていてなんとなくとっつきづらい印象だったが、なかなかお茶目な人だ。
「ツクレシーさんはラドニール魔法大学の魔術学部を飛び級してるんだよ。すごいよね」
「ツクレシーさんまで規格外人間なんですか!?」
「までって何よ「まで」って」
「だってケビンさんがジェイソンさん達は成績優秀者で中等部トップを席巻してて魔法部隊立ち上げてって……」
「あーそういえば確かにそうか……」
「そうだったね。ジェイソンが2番で私が3番、ケビンは4番だったっけね」
「意味わかんない……」
「ちなみに先生は魔装剣研究のパイオニアで~す。ラドニール魔法部隊の立ち上げも手伝いました~」
「ニルドラ先生もですか……」
そんなことを言っていたらツクレシーさんが戻ってきた。
「あれ、ツクレシーさん。どうしました?何かトラブルでも」
ジェイソンさんが聞いた。この人はこういう所がさりげなくかっこいいんだよな。
「いいえ。アインさんの隊服なんですが、あと1時間もあればできそうなんです。アインさん、受け取りはどうされます?明日でも今日でもいいですよ」
「そしたら今日でお願いします。親の説得がしやすいので……」
「アインくん、親御さんに反対されてるの?」
「いえ、まだ何も言ってなくて」
「えっ!?あ、まあそうか……」
「メアリー、お前らの方が酷かっただろうが……スノースの実家に事後報告だぞ」
「メアリーさん、スノースのご出身なんですか」
「えへへ、実はね。中等部のときからこっちにいるけど」
スノースというのは、今俺たちがいるラドニールのあるランスブルク共和国とは別の国、スノース連邦のことだ。
「すごいですね、中等部から海外留学……言葉とか、困らなかったんですか」
「さいわいスノースはランスブルクの近所だし、言葉も似てたからそんなに困らなかったよ」
「そうそう。初めて会った時からランスブルク語はペラペラだったしな」
「ご実家には戻られないんですか?」
「うーん、こっちの仕事もあるし……っていうか、実際私が仕送りしてるんだよね。だから戻んない方が都合が良くて」
「そうなんですね……っていうか、メアリーさん達はこれお仕事」
「アインくんもだよ?」
「えっ……あ、そうか」
そういえば今日は山のような量の書類を書かされた訳だが、それもこれもラドニール魔法部隊の隊員として仕事をする申請に関わる書類だった。
俺の隊服が仕上がるまであと1時間、どうしたものかと思いつつ雑談に花を咲かせていると、ケビンさんが見回りから帰ってきた。
「ただいまー。ありゃ?アイン、まだいたのか」
「隊服が今日中に仕上がりそうだから待つって言ってな。せっかくだから色々話を聞いてたところだ。ツクレシーさんが言ってた感じだと、あと30分ってところか?メアリー、合ってるか?」
「うん、そのくらいだよ」
「……ってセイン、あんたも来てたんか」
「あんたとはなんだあんたとは!アインが入隊するって言うから教員も入らざるを得なくなったんだよ……まったく、びっくりさせてくれるよお前らは」
「で、なんの話をしてたの」
ケビンさんは意地悪っぽく笑いながら聞いてきた。メアリーさんが答える。
「アインくんの得意な魔法とか、あと地元のことを聞いてたよ~。プロビンス村って結構田舎なんだね」
「こことは大違いですよ。テレポート魔法交通がなきゃ通えてませんね」
俺はそれとなく話題を「プロビンス村」に向けてしまったことを後悔した。ケビンさんが話を差し込みたそうにしているが、確実にセリアのことを言いたがっている。言わせるとめんどくさいんだよ……
「幼なじみの友達もいるんだろう?どうしてるんだ?」
そこにジェイソンさんがまさかの発言!
詰んだ。
「アインお前話してなかったのか?地元に彼女いるじゃん。しかもラドニールの魔術科」
ここぞとばかりにケビンさんがぶっこむ。
終わった。
「えー?なにそれ!初耳!!」
メアリーさんもノリノリだ。
「そういう話は早く言ってくれよな、アイン」
ジェイソンさんまでニヤニヤしてる。
最悪だ……。
「彼女じゃないですって!ケビンさんには再三念押ししてるんですけどねっ」
「だってスライム討伐の時お前らぴったりくっついてたじゃん。あの距離感をカレカノと言わずしてなんとするよ」
「あらーアツアツ」
「アインはそう思ってなくても彼女の方はどうなんだろうな?こんど聞いてみたらいいんじゃないか」
「聞けるわけないでしょ!なんか思わせぶりなだけになるじゃないですか!!」
「いいじゃん両想いならそのまま付き合っちゃえば」
「ケビンさんも隊長も適当なことばっか……」
「でもアインくん、二人ともほら、人生と恋愛の先輩だから、アドバイス聞いておいたらいいんじゃないかな」
「そうそう。今はフリーだけど彼女がいたことはあるからね。アインと違って」
「彼女いたマウントですかっ、やめてくださいよ」
「ひどいな~、俺、アインのこと応援してるんだぜ」
「じゃあ彼女だなんだって騒ぎ立てないでくださいよ!学校一緒なんですよ俺!セリアと!!」
「ああ、魔術科の子か」
「ニルドラせんせい!!!!!!」
「アイン、黙ってるので安心してくれ……俺はこれでも大人だし教員なので下手したら首が飛びます……」
「……先生も大変なんですね」
「しかし……いいなぁ、青春って感じだな!」
「結局からかってくるのやめてくださいよ」
そうこうしてるうちに俺の隊服が仕上がった。俺は逃げるように帰った。ケビンさんがいて、セリアの話が出ると、高確率で地獄だ……。
「あっ、じゃあ、親のサインとかもらってくるのでっ!また明日お願いします!」
「はーい、また明日ね~」
メアリーさんがにこにこして手を振ってくれた。あの人いい人だ……。
「ケビン、あんまりからかっちゃかわいそうだよ。アインくん、結構本気で嫌がってたね」
「そうか……悪いことしたな、いつもあんな感じだからついいじっちゃって」
「……まあ、善は急げだからな。俺としては、アインの背中を押してやりたいな」
「うふふ、ニヤニヤしちゃってえ、ジェイソン、リリアのこと思い出してるでしょ」
「そりゃあね」
「ちょっとあれはすごかったよな、ジェイソンの決断と告白の早さったらなかった」
「私たちが背中を押すとかそういう次元じゃなかったもんね。両想いだったのも含めて奇跡だったよね~」
その日、俺は家路に着く間に、見慣れぬ新居が建てられているのを見た。この時期に引っ越しかぁ。緑の多い片田舎に移住みたいな……?
続く……
「よろしくお願いします!」
「はは、元気いいなあ。よろしくな、アイン」
「気合い入ってるとこ悪いんだけど、まず書類仕事をお願いね」
俺が入ることになったラドニール魔法部隊には隊長で悪魔使いのジェイソンさん、回復魔法使いのメアリーさん、召喚士で物理攻撃担当のケビンさんがいる。
メアリーさんが出してきた書類は膨大で、所属が高等部から魔法部隊に変わる申請書類、給料の振込み先、戦闘行為に関係する誓約書、部隊員が入ることになる寮の手続き書類、その他にも親のサインが要る書類などものすごい量だった。
「すごい量ですね」
「ごめんごめん、ラドニール魔法学園所属とは言うものの国のプロジェクトの一環らしくて書類が多いんだよね~。それにアインくんはまだ未成人だから親御さんのサインがいる書類もあるし。サインもらったらまた持ってきて」
せっせと書き物を進めているところに、来客があった。まさか俺のようにケビンさんに捕まった生徒でもいるのだろうか……と思いきや、あの日勧誘ポスターを掲示していたニルドラ先生だった。
「にっ、ニルドラ先生?!」
「おーアイン!お前かぁ」
「イケダンディ、来てくれた!やったぁ、百人力だね」
「メアリー、また変な呼び方しやがって。セインって呼べセインって」
「えへへっ、ごめんなさーい」
「ニルドラ先生、なんでまた……?」
「そりゃお前、勧誘こそ力を貸したが本当に高校生が入隊するってなったら教員一人くらいいねえとまずいだろうってことよ」
さっぱり状況が分からない。俺の知らないところで話が進んでいてニルドラ先生も部隊員らしいことしか分からないし、それがあってるのかもよく分からない。
「アイン、何がなんだか分からねえって顔をしてるなぁ。そりゃ無理もねえな!一言で言うと、俺も隊員になるってことだ。よろしくな」
「ニルドラ先生は私たちもお世話になった先生なの。アインも教わることが多いと思うよ」
「は、はい!よろしくお願いします!」
「さて、そろそろ書類も終わった頃かな?今日はやることが多いよ~。次は採寸っ!」
「……俺だけですか?」
そう言ってそれとなくニルドラ先生の方を見ると、ニルドラ先生はさも当たり前かのように赤い外套を羽織った。隊服あるのかよ!
「そりゃそうよ。先生にはもう隊服があるんでね。そういやケビンはどこにいるんだ?」
「今日はケビンがパトロールの当番だからな、外出してるよ」
「パトロール?」
「学内とラドニール市街地の見回りだ。アインにもそのうち頼むことになるけど……」
「ほとんどお散歩同然だよねえ。平和で何よりだけど」
「そうそう。経費でおやつの買い食いしてな」
「あ、ジェイソンもやってるんだ。ジェイソンがそういうの一番怒りそうなのに意外」
「お前らどおりで……」
「あそっか、セインは予算周り把握してるのか」
「あんまり豪遊するなよ!雑費で言い訳できない額になると面倒なんだからな」
「はぁーい」
そうこうしているうちに採寸が終わり、ツクレシーさん (部隊のオペレーターのお姉さん)がいろいろとジャケットやズボンの見本を持ってきてくれた。
「どんなデザインで頼みます?これは採寸結果から適当に切り出してきたやつですけど、参考になれば」
「すご、さっき採寸取ったばっかりなのに」
「魔術師ならこれくらい朝飯前ですよ、私も少しばかり心得がありまして」
「ツクレシーさん、すごいんですね」
「ありがとうございます。私は皆さんのサポートをすることが仕事ですから、隊服でもその他でも、困ったことは何でもお申し付けくださいね」
襟の形やジャケットの丈、ブーツの丈などいろいろ選べるみたいなんだが、俺にはどうしたものか皆目見当もつかない。
「メアリーさんジェイソンさん、俺わかんないんで決めてくれませんか?」
「え?別にいいけど……希望ある?丈の長いジャケットがいいとか、ブーツは嫌とか」
「それでいくと、ブーツがいいですね。ジャケット丈は特に希望ないです」
あのスライム退治の時みたいにモンスターを踏みつけることもあるだろうし、俺はメアリーさん (タイツにローファーだ)やジェイソンさん (なんとこの人は革靴なのだ)みたいに器用に闘える気がしない。ブーツなら多少汚れてもなんとかなるだろう。ここだけは我ながら合理的判断だと思う。
「オーケー。そしたらさぁ、襟は学生らしくブレザーみたいなやつにして、せっかくだからジャケット丈は膝にしちゃってさ、膝くらいの長めのブーツを合わせるの。どう?それで、チラッとネクタイが見える感じ……」
「メアリー、楽しそうだな」
「えへへ……アインくんには悪いけど、着せ替え人形やってるみたいで楽しくて」
「でもメアリーさんの組み合わせでしっくりきます。俺これでお願いします」
「えっ、本当にいいの?もっと迷ってもいいんだよ!ケビンなんかボタンの数をいくつにするかで私たちの中でいちばん時間かけてたし」
「アインはどうする?上着のボタンはいくつにする?ダブルでもいいぞ」
「えっ……どっちでもいいです……」
「ちょっとジェイソン、それ言い始めたら大変なことになっちゃうから……いや言い始めたの私だけどさぁ」
「そうそう、カフスボタンつけるかとかベルトのバックルのデザインはどうするかとか」
「ニルドラ先生まで……なんでもいいですよいちばんシンプルなやつで……」
「ねえーほらアインくん困ってるから」
「あと汚したり壊したりしたら仕立て直しだし……俺そんな器用じゃないんでほんと……」
「アインくんって結構リアリストなんだね」
メアリーさんがデザイン画のようなものを起こしてくれて、俺の隊服が決まった。デザイン画をツクレシーさんに渡すと、遅くとも明日には仕上がっているらしい。
「決まりました?」
「はい。これです」
「良い型ですね、きっとアインさんに似合いますよ!この型ならすぐ仕上がりますから、ちょっと待っていてくださいね」
ツクレシーさんはウキウキして作業場に消えていった。最初見た時はかっちりしていてなんとなくとっつきづらい印象だったが、なかなかお茶目な人だ。
「ツクレシーさんはラドニール魔法大学の魔術学部を飛び級してるんだよ。すごいよね」
「ツクレシーさんまで規格外人間なんですか!?」
「までって何よ「まで」って」
「だってケビンさんがジェイソンさん達は成績優秀者で中等部トップを席巻してて魔法部隊立ち上げてって……」
「あーそういえば確かにそうか……」
「そうだったね。ジェイソンが2番で私が3番、ケビンは4番だったっけね」
「意味わかんない……」
「ちなみに先生は魔装剣研究のパイオニアで~す。ラドニール魔法部隊の立ち上げも手伝いました~」
「ニルドラ先生もですか……」
そんなことを言っていたらツクレシーさんが戻ってきた。
「あれ、ツクレシーさん。どうしました?何かトラブルでも」
ジェイソンさんが聞いた。この人はこういう所がさりげなくかっこいいんだよな。
「いいえ。アインさんの隊服なんですが、あと1時間もあればできそうなんです。アインさん、受け取りはどうされます?明日でも今日でもいいですよ」
「そしたら今日でお願いします。親の説得がしやすいので……」
「アインくん、親御さんに反対されてるの?」
「いえ、まだ何も言ってなくて」
「えっ!?あ、まあそうか……」
「メアリー、お前らの方が酷かっただろうが……スノースの実家に事後報告だぞ」
「メアリーさん、スノースのご出身なんですか」
「えへへ、実はね。中等部のときからこっちにいるけど」
スノースというのは、今俺たちがいるラドニールのあるランスブルク共和国とは別の国、スノース連邦のことだ。
「すごいですね、中等部から海外留学……言葉とか、困らなかったんですか」
「さいわいスノースはランスブルクの近所だし、言葉も似てたからそんなに困らなかったよ」
「そうそう。初めて会った時からランスブルク語はペラペラだったしな」
「ご実家には戻られないんですか?」
「うーん、こっちの仕事もあるし……っていうか、実際私が仕送りしてるんだよね。だから戻んない方が都合が良くて」
「そうなんですね……っていうか、メアリーさん達はこれお仕事」
「アインくんもだよ?」
「えっ……あ、そうか」
そういえば今日は山のような量の書類を書かされた訳だが、それもこれもラドニール魔法部隊の隊員として仕事をする申請に関わる書類だった。
俺の隊服が仕上がるまであと1時間、どうしたものかと思いつつ雑談に花を咲かせていると、ケビンさんが見回りから帰ってきた。
「ただいまー。ありゃ?アイン、まだいたのか」
「隊服が今日中に仕上がりそうだから待つって言ってな。せっかくだから色々話を聞いてたところだ。ツクレシーさんが言ってた感じだと、あと30分ってところか?メアリー、合ってるか?」
「うん、そのくらいだよ」
「……ってセイン、あんたも来てたんか」
「あんたとはなんだあんたとは!アインが入隊するって言うから教員も入らざるを得なくなったんだよ……まったく、びっくりさせてくれるよお前らは」
「で、なんの話をしてたの」
ケビンさんは意地悪っぽく笑いながら聞いてきた。メアリーさんが答える。
「アインくんの得意な魔法とか、あと地元のことを聞いてたよ~。プロビンス村って結構田舎なんだね」
「こことは大違いですよ。テレポート魔法交通がなきゃ通えてませんね」
俺はそれとなく話題を「プロビンス村」に向けてしまったことを後悔した。ケビンさんが話を差し込みたそうにしているが、確実にセリアのことを言いたがっている。言わせるとめんどくさいんだよ……
「幼なじみの友達もいるんだろう?どうしてるんだ?」
そこにジェイソンさんがまさかの発言!
詰んだ。
「アインお前話してなかったのか?地元に彼女いるじゃん。しかもラドニールの魔術科」
ここぞとばかりにケビンさんがぶっこむ。
終わった。
「えー?なにそれ!初耳!!」
メアリーさんもノリノリだ。
「そういう話は早く言ってくれよな、アイン」
ジェイソンさんまでニヤニヤしてる。
最悪だ……。
「彼女じゃないですって!ケビンさんには再三念押ししてるんですけどねっ」
「だってスライム討伐の時お前らぴったりくっついてたじゃん。あの距離感をカレカノと言わずしてなんとするよ」
「あらーアツアツ」
「アインはそう思ってなくても彼女の方はどうなんだろうな?こんど聞いてみたらいいんじゃないか」
「聞けるわけないでしょ!なんか思わせぶりなだけになるじゃないですか!!」
「いいじゃん両想いならそのまま付き合っちゃえば」
「ケビンさんも隊長も適当なことばっか……」
「でもアインくん、二人ともほら、人生と恋愛の先輩だから、アドバイス聞いておいたらいいんじゃないかな」
「そうそう。今はフリーだけど彼女がいたことはあるからね。アインと違って」
「彼女いたマウントですかっ、やめてくださいよ」
「ひどいな~、俺、アインのこと応援してるんだぜ」
「じゃあ彼女だなんだって騒ぎ立てないでくださいよ!学校一緒なんですよ俺!セリアと!!」
「ああ、魔術科の子か」
「ニルドラせんせい!!!!!!」
「アイン、黙ってるので安心してくれ……俺はこれでも大人だし教員なので下手したら首が飛びます……」
「……先生も大変なんですね」
「しかし……いいなぁ、青春って感じだな!」
「結局からかってくるのやめてくださいよ」
そうこうしてるうちに俺の隊服が仕上がった。俺は逃げるように帰った。ケビンさんがいて、セリアの話が出ると、高確率で地獄だ……。
「あっ、じゃあ、親のサインとかもらってくるのでっ!また明日お願いします!」
「はーい、また明日ね~」
メアリーさんがにこにこして手を振ってくれた。あの人いい人だ……。
「ケビン、あんまりからかっちゃかわいそうだよ。アインくん、結構本気で嫌がってたね」
「そうか……悪いことしたな、いつもあんな感じだからついいじっちゃって」
「……まあ、善は急げだからな。俺としては、アインの背中を押してやりたいな」
「うふふ、ニヤニヤしちゃってえ、ジェイソン、リリアのこと思い出してるでしょ」
「そりゃあね」
「ちょっとあれはすごかったよな、ジェイソンの決断と告白の早さったらなかった」
「私たちが背中を押すとかそういう次元じゃなかったもんね。両想いだったのも含めて奇跡だったよね~」
その日、俺は家路に着く間に、見慣れぬ新居が建てられているのを見た。この時期に引っ越しかぁ。緑の多い片田舎に移住みたいな……?
続く……
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