魔法学校のしがない学生の俺が魔法部隊のエースになった件

ひなた紫織

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第5話 ジェイソンさんとのパトロール

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俺はアイン・ビロクシス。
ラドニール魔法部隊に入るために、あのあと家に帰って親にハンコを押してもらった。てっきり反対されたりするかと思ったが、「ラドニール魔法部隊?ってなんなの?」「ふーん、よく知らないけどがんばれ~」「寮住みになるんだ。学校近くていいじゃん」とずいぶんと適当な反応だった。

何はともあれ無事入隊が決まった俺は、早速ジェイソンさんケビンさん達と一緒にラドニールの寮で生活することになった。ラドニール魔法学園はメアリーさんのように外国や遠方からの生徒もいるため、大きな学生寮があるのだが、ラドニール魔法部隊は学生寮とは少し離れたところに小さな寮を構えており、本部と接続していた。

「学生寮とは別なんですね」
「いちおう機密情報も扱う予定だからな。セキュリティ的にも建物は分けるってことになったんだよ」
「いいだろ~、広々使えて。ま、男女別とはいえ風呂は共用だけど」

入隊して1週間くらい経っただろうか。結局俺の生活スタイルはというと、放課後に本部に行って、学校の宿題を見てもらい、軽く魔道演習 (攻撃魔法の扱い方のことだ)の稽古をつけてもらうといったものだった。

「アイン、ここでの生活も慣れてきたころかな」
「はいっ。た、隊長」

ラドニール魔法部隊の隊長はジェイソンさんといって、一言で言うと仕事がめっちゃできるインテリお兄さんだ。悪魔を使役する魔法の使い手で、頭もすごくいい。

「そろそろパトロールも頼もうかと思うんだが、最初のうちは俺たちの誰かと2人で街を巡回するのがいいかと思う。さっそく初日は俺と行こうか」

ジェイソンさんはさわやかな笑顔で当たり前みたいに俺を連れ出した。俺がそのへんの女子生徒だったら一発で落ちてたと思う。

ラドニール魔法部隊にはジェイソンさんの他にメアリーさんという女性と、ケビンさんと言う男性がいる。ケビンさんはこれまで何回か一緒に行動したから除外、メアリーさんはおそらくケビンさんがうるさいから除外……で、消去法的に隊長とサシなんだろう。

「アイン、部隊での活動はどうだ?学校もあるから大変だったりする?」
「いえ、隊長たちが見てくれるので、なんなら助かってるまであります」
「それは嬉しいな。なんでも頼ってくれよ」
「ありがとうございます。これからもよろしくお願いします」
「はは、あいかわらず堅いなあ。ケビンみたいに気さくにってわけにはいかないかぁ」
「す、すみません」
「ははは、そう気にしないで。少しずつでいいよ」

ジェイソンさんと話しながらラドニールの街をパトロール……しているはずなのだが、以前メアリーさんがぽろっといっていた通り、本当にお散歩みたいだ。

「パトロールとは言うが、街の掲示板の確認が主な目的なんだよ」
「掲示板」
「街の中央と東西南北の5箇所にあるから、依頼がないか確認する。アインの村やこの間のラドニール平原の件みたいに直接連絡が来ることもあるけど、緊急性が低いものは掲示板に相談事が載っていることもあるからね。そういう依頼を積極的にすくい上げるのが俺たちの仕事ってわけ……さて、今日も特に何もないみたいだし、もう本部に帰るか」

ジェイソンさんはそういって本部に向かおうとしたが、思い出したかのように俺の方に振り返ってこう言った。

「アイン、帰る前に寄り道していかないか?」

ジェイソンさんに誘われて、ラドニールの街にあるカフェに入った。俺も一応ラドニール魔法学園の生徒だからラドニールの街はよく利用するのだが、ジェイソンさんと入ったのは俺ならまず近づかない、ザ・大人!な雰囲気のオシャレなカフェだ。ジェイソンさんなら、こういう場所でコーヒーをブラックで頼んだりとかするんだろうなあ……

……と思いきや、ジェイソンさんが頼んでいたのはなかなかなボリュームのパフェで、俺はカフェオレを頼んだ。

「隊長って甘いもの好きなんですね」
「うん。アインもひとくちいるか?」
「あ、いえ俺は遠慮しときます」
「昔付き合ってた彼女が甘いもの好きでね。まあ、俺ももともと甘党なんだけど……ここもそのとき発掘したんだ。静かでいい雰囲気だろ。メアリーやケビンもよく来るらしいから、機会があったらねだってみるといい」
「……昔ってことは今は別れちゃったんですか?部隊の仕事が忙しくってとかですか」
「いや、彼女とは一緒に部隊をやってたんだ。3年前に死んだよ」
「…………」

軽い気持ちで聞くんじゃなかったと、俺はめちゃくちゃ後悔した。でも、ジェイソンさんはなんでもなさそうにパフェを頬張りながら話を続ける。

「はは、そう気にするなよ。でもまあ、ラドニール平原に行くときメアリーがピリついてたのも納得するだろ?あれは本当にヤバかったからな……ヘタしたら全滅もあり得たし。リリアっていうんだ。写真あるからよかったら見てよ」
「あ、はい」

ジェイソンさんは隊服の胸ポケットから写真を取り出して見せてくれた。写真に写っていたのは長くて淡い紫色の髪を切り揃えていて、ジェイソンさんと似た緑色の瞳をした美しい女性だった。

「どう、美人だろ」
「そうですね……」
「この眼鏡もリリアが選んでくれたんだ」
「えっ、そうだったんですか」
「似合ってるだろ」
「はい……」
「ここだけの話、結婚も考えて2人で話してたんだ。メアリーとケビンには内緒な」

めっちゃのろけるじゃんこの人。顔もニヤけてるし。

「ところでアイン、もう飲みきってるみたいだけどおかわりはどうする?なにか食べ物をつまむでもいいけど」
「……そしたら、おかわりをいただきます」

俺はカフェオレのおかわりを頼んだ。到着を待つ間、そういえば前にケビンさんが言っていたあの人がそのリリアさんということに勘づいた。

「……あ!もしかして前にケビンさんが言ってた……魔法生物に詳しい同期ってリリアさんのことですか?」
「ん?ああ、たぶんそうだな。リリアは魔法生物学を取ってたし、召喚魔法が専門だったんだ。俺とかケビンとはまた違って、星の流れを読んで星座の力を呼び出す魔法。ずいぶん術式が入り組んでて俺はまったく理解できなかったけど」
「すごい……みなさん召喚魔法がお得意なんですね」
「たまたまだよ。そのせいでアインみたいな攻撃魔法を扱える奴がぜんぜんいないから参ってたんだよな。アインがいてくれて嬉しいよ」
「隊長……」

そうこうしている間にカフェオレのおかわりが届き、ジェイソンさんもあれだけあったパフェを食べきるころ、おもむろにジェイソンさんが口を開いた。

「まあ、重い話もしたが……俺が何を言いたいかと言うとだな」

ん?なんか流れが変わってきたな……

「アイン、お前も後悔がないようにしろよということでだな」

なんとなく言わんとしていることは伝わってくるが、例によって隊長もまだ誤解をしているらしい……

「……幼なじみのことを言ってます?」
「うん、セリアちゃん」
「あのですね、俺はあいつのことそういうんじゃないんだって何度言えば」
「まあまあまあ。実はな、今度隊員全員でランスブルク村に向かう用事があるから。その時セリアちゃんと会って話をしてみろ。アインにその気がなくたって、向こうはどうだかわからんぞ?」
「あいつとは学校でも会ってますけど、普通に研究一筋の魔術バカですよ」
「……バカはアインの方かもしれんな」
「なんて?」
「なんでもない。さ、本部に帰るか!」

本部に帰ると、メアリーさんとケビンさん、それから学園の先生もやっているニルドラ先生がオペレータのツクレシーさんと話し合いをしていた。

「おかえりー。もうジェイソン、戻るの遅いよ!どうせ寄り道してたんでしょ」
「ひどい言いがかりだな。今日はアインも一緒だったから時間がかかったんだよ」
「ふーん。どうだか」

ジェイソンさんはパトロールが長引いたのを俺のせいにしてシレッとしているが、まあまあな時間をカフェでの寄り道で過ごしていたので、メアリーさんは侮れない。

そして、真面目そうに見えてジェイソンさんも案外テキトーっぽい。

「ランスブルク村から来た入隊希望?っぽい人を迎えに行く話なんだけど、明日にでも行こうかと思って。ちょうど休日だから、アインくんは学校も大丈夫だよね?」
「俺は大丈夫です。すごいですね、入隊希望者って学外の人ですか?」
「うん。ここ最近プロビンス村に引っ越してきたみたい。直接本部に来てくれればいいのに、なんでまたプロビンス村で話がしたいんだろう?」
「別にいいんじゃね?最近は任務もないし、ヒマじゃん」
「プロビンスといえば、アインは入隊してからずっとラドニールにいるから逆によく知らないのか」

ニルドラ先生はこう言っていたが、俺は少しだけ心当たりがあった。もしかしたら、ラドニール魔法部隊に入ることにした日に見たかもしれない。

しかし……プロビンスかぁ。

またケビンさんとかジェイソンさんにどやされるんだろうなぁ……

つづく
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