普通の転生者は幸せになる計画を立てる。でも幸せって何?

tamura-k

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27普通の転生者、色石を贈られる

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 フィルは怒ったというよりは呆れているような顔をしていた。失礼な話だけど、きちんとした格好をしているフィルは中々イケているんだなって思って、ちょっと口惜しい気持ちになったけれど、その感情もよく分からない。

「僕は本当に色々と分からない事だらけだったんだな」
「はぁ?」
「ううん。何でもないよ。今まで本当にありがとう。これからはそれぞれの道になるけれどお互いに頑張ろうね」

 ああ、なんだかイガイガする。

「サミー、お前何言ってるんだ?」
「何って、卒業だもの。僕はこれから王都の宿舎に行くし、フィルは……どうするのかは分からないけど、ここでお別れだよね。何だかさ、隣にいるのが当り前だったから離れるっていうのがちょっと実感出来な、痛い! 何? なんでおでこを弾くのさ! これきっと赤くなっている!」
「おかしな事をぐだぐだ言っているからだろう。ほら、王都に行くんだろう。行くぞ」
「…………へ?」

 何? ちょっと待ってどう言う事? え?

「ちょっと待って! なんで? どうしてフィルが一緒に行くの?」
「ああ?」

 僕が思わず声を出すとフィルはニヤリと笑った。

「何言ってんだ、お前。俺はお前の護衛を俺の家からも領主からも任されているんだぞ。ここに一緒に来る時にそう言っただろう」
「え?  だってそれは学園の……」

 そう、成人になるまで。つまりは学生の間の筈だ。学園に来る時にフィル自身がそう言っていたじゃないか。それにフィルにはフィルの人生がある。
 それに王城の中で働く下っ端の文官に護衛なんて付けれる筈がないじゃないか。

「サミー」
「……なに?」
「これ」

 フィルはポケットから何かを取り出して、僕の手の中にポトリと落とした。

「え?」

 手の中にあったのは、フィルの瞳と同じ色の、深いグリーンの石だった。
 さすがにさっきブラッドから聞いたばかりだから渡された石の意味が分からないほど馬鹿じゃない。馬鹿じゃないつもりなんだけど、どうしてそれをフィルが僕に渡すのかが分からない。

「あ、あの……」

 これはどう考えたらいいんだろう? それがそのまま顔に出ていたんだろう、フィルは「そのままの意味だ」と言った。

「そ、そのまま……え、え? えぇぇぇぇ?」
「そこでどうして疑問形なんだ。全くお前は最後の最後まで……。ああ、ちゃんと言わなきゃ分からない。お前はそういう奴だよな」

 フィルははぁと息を吐いて、せっかく綺麗に整えていた髪を片手でガシガシと掻くと再び口を開いた。

「サミュエル・エマーソン様、お慕い申し上げております。私の色石を贈らせて下さい。そして、叶うことならばこれからも貴方のお側に居させて下さい」

 周囲から「キャー」とか「わぁ!」とか「うそ!」とか、何だかよく分からない声が上がった。

「フィ、フィル?」

 お慕い? え? 何? 
 頭の中は混乱していて、どうしてフィルがこんな事をするんだろうとか、何が起きているんだろうとか、グルグルしているんだけど、胸のどこかでそれを嬉しいって思う自分が居るような気がするのは何故なのかな?
 さっきフィルが沢山の人に囲まれて石を渡されているのを見た時のムカつく様な気持ちと関係あるのかな。

 何も言わず、呆然としている僕にフィルはまたしても呆れたようなでも仕方がないなというような表情を浮かべた。

「まぁ、そういうわけだ。どうせお前の事だから自分の色石なんて持っていないんだろう?」
「う、うん」
「よし。じゃあ、とりあえず王都に行くぞ」
「あ、うん」

 1周して同じところに戻ってきた。感じだったけど、さすがにここでこれ以上のやり取りをする気にはなれず、僕はフィルと二人で王都への馬車が出ている方へと歩き出した。
 後ろから「お幸せにー!」という声がかけられて、いたたまれない。
 お幸せにって僕はフィルに自分の色石を返してはいないからね!
 っていうか、どうしてフィルが僕に色石を贈ってくるのかもちゃんと聞いていないんだからね!

「フィル、後でちゃんと話をしようね」
「ああ、もちろん。あ、それからお前、さっき沢山の色石を貰っていたと思うけど間違っても捨てたり、どこか分からない所にしまい込んだりするなよ。いざって時に売れるものもあるからな。魔石はそれなりに、宝石で宝飾に使えるなら結構いい値がつく」

 ううう、さすがエマーソン家を支えてきたグレンウィード家の人だ。

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