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28 普通の転生者、聞いた話が理解できない
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馬車に揺られる事40分あまり。
僕とフィルは王都の中央区と呼ばれる場所にいた。
学園自体が一応王都の中にあるので、王城のある王都中央区まではそれほど長い時間はかからないんだ。これが馬で駆けたらもっと早いんだけど、そんな必要もないし、大体街中は馬で駆け抜ける様な事は出来ない。
馬車だって通れる道が決まっているし、走れる速度も決まっている。
それは勿論転生の記憶にあるような、きっちりと速さを測れるようなものはないけれど、馬鹿みたいに飛ばしたら罰金を払う事になる。そういう決まりごとはきちんとしているんだよ。
用意をされた仮の宿舎は有難い事に王城からも割合近く、貴族街と平民街の間にあるような場所で治安も悪くない。買い物がしやすかったり、食事処に行きやすかったりするのはやっぱり生活していく上では有難いものね。
「へぇ、いい部屋だな」
「う、うん。えっと、紅茶しかないけど。飲む?」
「ああ」
部屋の中にエマーソン領の紅茶の香りが立ち込める。思わずふうと息をついてから、柄にもなく緊張しているんだなってちょっとだけ可笑しくなった。
「うんとね、ブラッドからもらったお菓子もあるけど食べる?」
「いや、サミーのおやつを減らすような真似はしないよ」
「……そう。ならあげない」
ムッとしてそう答えるとフィルは小さく笑った。
結局話をすると言ってもどこで話をしたらいいのか分からなくて仮宿舎に来てしまったんだ。宿舎って言うから管理人さんみたいな人がいるのかなって思ったんだけど一度もあった事はないし、そんな話も聞かなかった。ちなみに今年、この宿舎を使うのは僕だけらしい。なんて言うか贅沢だ。
一応他にも同じような部屋があるみたいなんだけどね。
「さて、それでどこから話そうか」
紅茶を一口飲んでフィルが口を開いた。
「まずは……フィルがこれからどうするの教えてよ」
「ああ、そうだな。じゃあその辺りの事から話そう。俺は学園に来る前に自分の両親と、領主様方、つまりサミーの両親からサミーの護衛を任された。それは最初に言っていたと思う」
「うん。護衛っていうか、世話を任されたって言われた気がするよ」
僕の言葉にフィルはまた小さく笑った。
「ああ、まぁそうだったかな。俺としては卒業後はサミーと一緒に領に戻るつもりでいたんだけど、文官になって王都で暮らしたいなんて言い始めたからさ、これはまずいって思ったんだ。それで使えるものはなんでも使おうと思った」
「フィル?」
うん? なんでも? んんん?
「俺は知っている通り男爵家の次男だからさ、最終学年に入る頃には婿入りの話とかもあったんだ。でもそれは駄目だった。養子縁組の話もあった。でも男爵家、子爵家、そんなものではまったく太刀打ちできないのは分かっていた」
えっと、一体フィルは何の話をしているんだろう。というかやっぱりあったんだ婿入りの話。その事に軽くショックを受けている間にも、フィルは初めて見る様などこか思いつめたような顔をして話を続けていた。
「サミーが官吏の試験資格を得たって決まった時に大旦那様から連絡が来た」
「お祖父様から?」
「サミーに縁談の話や養子の話が来ている事は知っていたから、すぐに会いに行ったよ。出来る事はどんな事でもやろうと思った」
え? 知っていた? ってそんな頃から話があったの?
僕が驚いたような顔をしてもフィルの話は止まらない。
「それに備えてこっちは必死で根回しをしているのに、誰かさんはバカンスシーズン領には戻らないっていうし、それどころか余計なゴタゴタを呼び寄せてるし」
「…………」
「報告事項も多くなるし、大旦那様の手間も増えるし、しかもその後は誘拐事件かっていうのがあって、こっち方が切られるかもしれないって本気で焦った」
……まずい。
本当に、フィルが何を話しているのか全く分からないんだけど。
これって僕が馬鹿だからなの?
それともフィルの言葉が足りないから?
備えるって、お祖父様の手間って、切られるって、何?????
「それでもどうにか収まって……。それで、サミーの試験が受かったのを聞いてから根回しをしていた事を一気に進めさせてもらえたんだ。エマーソン家の知り合いの子爵家を経て、某伯爵家の養子になった。そして王城内の見回り騎士になった。まずは下級の辺りからだから、ちょうどサミー達の辺りの見回りだ」
「…………は?」
飛んだ、話が一気に飛んだ気がするのは僕だけなのかな?
ちょっと待って、フィル! 嬉しそうに笑っているけど、ほんとに全然分からないよ!?
僕とフィルは王都の中央区と呼ばれる場所にいた。
学園自体が一応王都の中にあるので、王城のある王都中央区まではそれほど長い時間はかからないんだ。これが馬で駆けたらもっと早いんだけど、そんな必要もないし、大体街中は馬で駆け抜ける様な事は出来ない。
馬車だって通れる道が決まっているし、走れる速度も決まっている。
それは勿論転生の記憶にあるような、きっちりと速さを測れるようなものはないけれど、馬鹿みたいに飛ばしたら罰金を払う事になる。そういう決まりごとはきちんとしているんだよ。
用意をされた仮の宿舎は有難い事に王城からも割合近く、貴族街と平民街の間にあるような場所で治安も悪くない。買い物がしやすかったり、食事処に行きやすかったりするのはやっぱり生活していく上では有難いものね。
「へぇ、いい部屋だな」
「う、うん。えっと、紅茶しかないけど。飲む?」
「ああ」
部屋の中にエマーソン領の紅茶の香りが立ち込める。思わずふうと息をついてから、柄にもなく緊張しているんだなってちょっとだけ可笑しくなった。
「うんとね、ブラッドからもらったお菓子もあるけど食べる?」
「いや、サミーのおやつを減らすような真似はしないよ」
「……そう。ならあげない」
ムッとしてそう答えるとフィルは小さく笑った。
結局話をすると言ってもどこで話をしたらいいのか分からなくて仮宿舎に来てしまったんだ。宿舎って言うから管理人さんみたいな人がいるのかなって思ったんだけど一度もあった事はないし、そんな話も聞かなかった。ちなみに今年、この宿舎を使うのは僕だけらしい。なんて言うか贅沢だ。
一応他にも同じような部屋があるみたいなんだけどね。
「さて、それでどこから話そうか」
紅茶を一口飲んでフィルが口を開いた。
「まずは……フィルがこれからどうするの教えてよ」
「ああ、そうだな。じゃあその辺りの事から話そう。俺は学園に来る前に自分の両親と、領主様方、つまりサミーの両親からサミーの護衛を任された。それは最初に言っていたと思う」
「うん。護衛っていうか、世話を任されたって言われた気がするよ」
僕の言葉にフィルはまた小さく笑った。
「ああ、まぁそうだったかな。俺としては卒業後はサミーと一緒に領に戻るつもりでいたんだけど、文官になって王都で暮らしたいなんて言い始めたからさ、これはまずいって思ったんだ。それで使えるものはなんでも使おうと思った」
「フィル?」
うん? なんでも? んんん?
「俺は知っている通り男爵家の次男だからさ、最終学年に入る頃には婿入りの話とかもあったんだ。でもそれは駄目だった。養子縁組の話もあった。でも男爵家、子爵家、そんなものではまったく太刀打ちできないのは分かっていた」
えっと、一体フィルは何の話をしているんだろう。というかやっぱりあったんだ婿入りの話。その事に軽くショックを受けている間にも、フィルは初めて見る様などこか思いつめたような顔をして話を続けていた。
「サミーが官吏の試験資格を得たって決まった時に大旦那様から連絡が来た」
「お祖父様から?」
「サミーに縁談の話や養子の話が来ている事は知っていたから、すぐに会いに行ったよ。出来る事はどんな事でもやろうと思った」
え? 知っていた? ってそんな頃から話があったの?
僕が驚いたような顔をしてもフィルの話は止まらない。
「それに備えてこっちは必死で根回しをしているのに、誰かさんはバカンスシーズン領には戻らないっていうし、それどころか余計なゴタゴタを呼び寄せてるし」
「…………」
「報告事項も多くなるし、大旦那様の手間も増えるし、しかもその後は誘拐事件かっていうのがあって、こっち方が切られるかもしれないって本気で焦った」
……まずい。
本当に、フィルが何を話しているのか全く分からないんだけど。
これって僕が馬鹿だからなの?
それともフィルの言葉が足りないから?
備えるって、お祖父様の手間って、切られるって、何?????
「それでもどうにか収まって……。それで、サミーの試験が受かったのを聞いてから根回しをしていた事を一気に進めさせてもらえたんだ。エマーソン家の知り合いの子爵家を経て、某伯爵家の養子になった。そして王城内の見回り騎士になった。まずは下級の辺りからだから、ちょうどサミー達の辺りの見回りだ」
「…………は?」
飛んだ、話が一気に飛んだ気がするのは僕だけなのかな?
ちょっと待って、フィル! 嬉しそうに笑っているけど、ほんとに全然分からないよ!?
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