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50 普通の転生者、冷汗が出る
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僕は今、宰相府の一番偉い人と、騎士団の一番偉いに挟まれている。
「おい、これは本当なのか?」
「ああ、面白いだろう? どうなると、こうなってくるのか興味深いよ」
「そんな事言ってる場合じゃねぇよ。なんだこりゃ、なんだって伯爵家の子息がこんな事になるんだ? っていうか他にも勝手に飛ばされている奴がいるじゃねぇか。は? 門番? 何だって城内の見回り騎士が門番になるんだ? 何で案件が挙がって来ないんだ。……おいおいこいつにこんな権限はないだろう?」
「さぁ、それはどこかで捻じ曲げられたんだろうね。または勘違いをしている輩がいる」
「はぁー……こんな事をしていたら育つもんも育たねぇじゃねぇか。本当にろくでもないな。っていうか、いつから王室がこんなに横槍入れてくるようになったよ。ここはあくまでも切り離していかなきゃ、ただの犬だろうが」
「う~ん、この辺りはすでに犬だね」
「はぁぁぁぁ」
怖いです。聞こえてくる言葉だけでも普通じゃないです。しかも、僕を置いて話が進んで行っているような気がします。僕は宰相閣下から犬の話なんて聞いていません。あ、ちゃんと犬の意味は分かります。一応文官なので。
ううう……お祖父様、囲われるとか、養子がどうとかそんな話ではなくなってきそうです。何だか国家の裏を聞いているような気さえします。でも耳は頑張ってついて行きます!
「エマーソン君、食べなさい。食べないと大きくなれませんよ」
「は……えっと、ありがとうございます」
うん。多分僕はもう大きくはならないと思うけど。
「それにしてもこいつらもよくもまぁ、レスター様のお孫さんに直接ではないにしろ。大体この伯爵家はレスター様の奥方の家だろう? 分かっているのか?」
「分かっているのといないのと、いそうだけど。もう退いている御仁にという気持ちがあるのだろうね。あの方の手がどれだけ長いのか、いやはや無知というのは恐ろしいよ」
やれやれという体で溜め息を落としながらしっかりと食事をしている宰相閣下。
「まったくだな。で、これ、俺がやっちゃっていいのか?」
やるというのは殺るという意味合いに聞こえる元帥閣下。
「そこはまぁ、エマーソン君次第ですかね」
そう言ってにっこりと笑うアルトマイヤー宰相閣下に、僕はヒクリと顔を引きつらせながら口を開いた。
「ええっと、僕が知りたいと思っていたのは、以前宰相」
「ああ、アルトでいい、一応大丈夫な店だけどね」
「は、あ、はい……ア、アルト様にお話しさせていただいた通り、幼馴染みが不当な扱いをされている理由の中にエマーソンや彼が養子になった伯爵家に恨みを持つような者がいないかという事と、異動をしていらした方についての情報、そして件の伯爵家についての情報を」
「知ってどうする?」
「きちんとした手筈で、証拠を携えて、不当な扱いについて」
「無駄だ」
フリーマン元帥閣下の短い言葉がバッサリと僕の言葉を遮った。
「は……」
「訴えた所で握りつぶされるか、今度はお前に手が伸びるだろう。それだけの力がある奴がいる」
「え、あの、じゃ、じゃあ、このままにしておけと? やりたいようにやらせてフィ……幼馴染みに耐え続けていろと?」
「いや、そうは言っていない。とりあえず、お前さんが持ってきた案件をこいつが調べたらズルズルと色々なものが出てきやがった。そしてそれはとても新人の文官や新人の見回り騎士の手におえるものじゃない。だが、このまま捨て置いていいものでもない」
「えええええ」
「とりあえず、法務の方に投げるのはこいつにやらせておけ」
元帥閣下は宰相閣下に視線を投げた。
「ひどいなぁ、こいつなんて」
「うるせー、お前が俺を巻き込んだんだろうが、やる気満々で」
「ああ、ほら。君が全部端折るから、サミュエル君が引きつっていますよ。大丈夫ですか?」
「は、はい」
うん。大丈夫は大丈夫なんだけど、いつからサミュエル???
「サミュエル君は本当に有能ですよ。入って一年でこんなに大きな案件を掴んでくるのですからね。いやいや、久しぶりに腕がなる。とりあえず、そうだな。騎士団と、この貴族は、君の方で逃げ込まないように注意をしつつ尻尾を掴んでくださいね、ダスティン。ああ、念の為にウィスローを引き込みましょう。君のいい抑えになってくれるだろうからね。きちんと尻尾を掴んで引きずり出すんですよ。拳で解決は止めてくださいね。後が面倒なので」
「ウィスローか……チッ……まぁ、一人だと難しいからな。分かった。お前がコンタクトを取って説明しておけ」
「……分かりました。では、私はこちらの方を。ああ、デザートが来ましたね。食べましょう」
ふ、普通に喉が通りませんけど……
とりあえず、デザートのフルーツタルトを食べながら、この件はかなり色々な役人やら貴族やらが絡んでいるので預からせてほしいと言われた。ただそれでは僕も納得できない所があるだろうから、宰相閣下と元帥閣下が書いた手紙をお祖父様に渡してほしいと頼まれた。王室関連はお祖父様の方が顔が利くのだそうだ。
「単純にいじめだとか、そう言う問題を超えている部分があると予想されるので、残念ながらこの経緯を全て君に話す事は出来ないと思います。ただ、私たちもこういった事が知れた事は幸い。幼馴染みの彼には伯爵家と話す前にやはりレスター様と奥方様に話を通した方が良いでしょうと伝えなさい。事が済んだら最小限にはなりますが何をしたのかだけはお話しします」
ニッコリと笑いながらの言葉に僕は「よろしくお願いいたします」と頭を下げるしかなかった。
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「おい、これは本当なのか?」
「ああ、面白いだろう? どうなると、こうなってくるのか興味深いよ」
「そんな事言ってる場合じゃねぇよ。なんだこりゃ、なんだって伯爵家の子息がこんな事になるんだ? っていうか他にも勝手に飛ばされている奴がいるじゃねぇか。は? 門番? 何だって城内の見回り騎士が門番になるんだ? 何で案件が挙がって来ないんだ。……おいおいこいつにこんな権限はないだろう?」
「さぁ、それはどこかで捻じ曲げられたんだろうね。または勘違いをしている輩がいる」
「はぁー……こんな事をしていたら育つもんも育たねぇじゃねぇか。本当にろくでもないな。っていうか、いつから王室がこんなに横槍入れてくるようになったよ。ここはあくまでも切り離していかなきゃ、ただの犬だろうが」
「う~ん、この辺りはすでに犬だね」
「はぁぁぁぁ」
怖いです。聞こえてくる言葉だけでも普通じゃないです。しかも、僕を置いて話が進んで行っているような気がします。僕は宰相閣下から犬の話なんて聞いていません。あ、ちゃんと犬の意味は分かります。一応文官なので。
ううう……お祖父様、囲われるとか、養子がどうとかそんな話ではなくなってきそうです。何だか国家の裏を聞いているような気さえします。でも耳は頑張ってついて行きます!
「エマーソン君、食べなさい。食べないと大きくなれませんよ」
「は……えっと、ありがとうございます」
うん。多分僕はもう大きくはならないと思うけど。
「それにしてもこいつらもよくもまぁ、レスター様のお孫さんに直接ではないにしろ。大体この伯爵家はレスター様の奥方の家だろう? 分かっているのか?」
「分かっているのといないのと、いそうだけど。もう退いている御仁にという気持ちがあるのだろうね。あの方の手がどれだけ長いのか、いやはや無知というのは恐ろしいよ」
やれやれという体で溜め息を落としながらしっかりと食事をしている宰相閣下。
「まったくだな。で、これ、俺がやっちゃっていいのか?」
やるというのは殺るという意味合いに聞こえる元帥閣下。
「そこはまぁ、エマーソン君次第ですかね」
そう言ってにっこりと笑うアルトマイヤー宰相閣下に、僕はヒクリと顔を引きつらせながら口を開いた。
「ええっと、僕が知りたいと思っていたのは、以前宰相」
「ああ、アルトでいい、一応大丈夫な店だけどね」
「は、あ、はい……ア、アルト様にお話しさせていただいた通り、幼馴染みが不当な扱いをされている理由の中にエマーソンや彼が養子になった伯爵家に恨みを持つような者がいないかという事と、異動をしていらした方についての情報、そして件の伯爵家についての情報を」
「知ってどうする?」
「きちんとした手筈で、証拠を携えて、不当な扱いについて」
「無駄だ」
フリーマン元帥閣下の短い言葉がバッサリと僕の言葉を遮った。
「は……」
「訴えた所で握りつぶされるか、今度はお前に手が伸びるだろう。それだけの力がある奴がいる」
「え、あの、じゃ、じゃあ、このままにしておけと? やりたいようにやらせてフィ……幼馴染みに耐え続けていろと?」
「いや、そうは言っていない。とりあえず、お前さんが持ってきた案件をこいつが調べたらズルズルと色々なものが出てきやがった。そしてそれはとても新人の文官や新人の見回り騎士の手におえるものじゃない。だが、このまま捨て置いていいものでもない」
「えええええ」
「とりあえず、法務の方に投げるのはこいつにやらせておけ」
元帥閣下は宰相閣下に視線を投げた。
「ひどいなぁ、こいつなんて」
「うるせー、お前が俺を巻き込んだんだろうが、やる気満々で」
「ああ、ほら。君が全部端折るから、サミュエル君が引きつっていますよ。大丈夫ですか?」
「は、はい」
うん。大丈夫は大丈夫なんだけど、いつからサミュエル???
「サミュエル君は本当に有能ですよ。入って一年でこんなに大きな案件を掴んでくるのですからね。いやいや、久しぶりに腕がなる。とりあえず、そうだな。騎士団と、この貴族は、君の方で逃げ込まないように注意をしつつ尻尾を掴んでくださいね、ダスティン。ああ、念の為にウィスローを引き込みましょう。君のいい抑えになってくれるだろうからね。きちんと尻尾を掴んで引きずり出すんですよ。拳で解決は止めてくださいね。後が面倒なので」
「ウィスローか……チッ……まぁ、一人だと難しいからな。分かった。お前がコンタクトを取って説明しておけ」
「……分かりました。では、私はこちらの方を。ああ、デザートが来ましたね。食べましょう」
ふ、普通に喉が通りませんけど……
とりあえず、デザートのフルーツタルトを食べながら、この件はかなり色々な役人やら貴族やらが絡んでいるので預からせてほしいと言われた。ただそれでは僕も納得できない所があるだろうから、宰相閣下と元帥閣下が書いた手紙をお祖父様に渡してほしいと頼まれた。王室関連はお祖父様の方が顔が利くのだそうだ。
「単純にいじめだとか、そう言う問題を超えている部分があると予想されるので、残念ながらこの経緯を全て君に話す事は出来ないと思います。ただ、私たちもこういった事が知れた事は幸い。幼馴染みの彼には伯爵家と話す前にやはりレスター様と奥方様に話を通した方が良いでしょうと伝えなさい。事が済んだら最小限にはなりますが何をしたのかだけはお話しします」
ニッコリと笑いながらの言葉に僕は「よろしくお願いいたします」と頭を下げるしかなかった。
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