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52 普通の転生者、なんだかどんどん動き出す
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お祖父様の屋敷から戻ってきて、その日の夜、僕はお祖父様からなるべく早く来るようにって言われたとフィルに伝えた。フィルは言われた通りに翌日に休みをもぎ取って? お祖父様の所へ行ったみたい。
僕はと言えば、お祖母様に「お腹の中に溜め込んでは駄目」という言葉は残っているんだけれど、実際問題何をどう溜め込んでいて、何を吐き出せばいいのかよく分からなくなっていた。
フィルがお祖父様たちとどんな話をしたのかは分からない。それを聞いたらいいのかな。でも聞いてどうしたいのかなって考えると、やっぱり分からなくなっちゃうんだよね。
そうしているうちに宰相府の方から僕たちの下っ端文官たちの方に色々な仕事が回って来た。
人事関係の書類の作成が多くて、この前新しく入った人たちの配属に関する書類を終わらせたばかりなのにって思ったけど、作成するように言われたらその通りにするしかないよね。
だけど先輩方が何となく顔色悪かったし、なんなら僕の所もいきなり退職された人が数名いたし、一体何が起きているんだろう? って思っていたら、一月半ばを超えた頃にいきなり第四王子の降下騒ぎがあった。
「え、追放?」
「ああ、詳細は明らかになっていないが、降下とは言われているけど自身が当主でなく他国の伯爵家との養子縁組だとか。今後交易をするらしい話は伝わってきてはいたけど、どこまでどうなっているのかはこれからだからね、ある意味人質というか、事実上の国外追放じゃないかって言われているらしい」
「どどどどどどどうして」
「そんなの私たちの所で分かるわけがないだろう?」
「……まぁ、色々と噂のある方だったからね。何かやらしかして陛下が見限ったっていう事じゃないのかな。殿下の母親である側室のベリンダ様も実家にお戻りになる事が決まったそうだ。おそらくはそのまま修道院行きじゃないかな」
何が起きているのかな。どうなっているのかな。
「そういえばさ、騎士団の方でも大きな異動があったらしいね」
「ああ、でもそちらは騎士団の中で完結しちゃうから、こちらに書類が回って来る事はないよ」
「ほらほら、無駄話はそれくらいにして。口ではなくて手を動かさないと帰れなくなっちゃうよ~」
ニコニコと笑ってそう言う先輩に、僕たちは止まっていた手を動かし始める。
それにしても、大量の異動。これが意味する所ってやっぱりあの二人が言っていた事なのかな。
-*-*-*-*-
「サミー」
廊下で声をかけられて僕は振り向いた。
ものすごく久しぶりに見た城内の見回り騎士のフィルだ。
「も、戻れたの?」
「今日な」
「そうなんだ。良かったね」
「ああ、まぁ。良かったんだか悪かったんだか。まだしばらくはバタバタしそうだが、きっと来月には落ち着くだろうな。また改めて話があると思うし、俺も話す」
「……うん。分かった」
お腹の中に抱えていたモヤモヤが少し消えたような気がした。
話すって。聞かないでも話してくれるんだ。
「彼氏、戻って来たんだね。良かったね」
「!! マ、マルグリットさん」
「嬉しそうだよ。エマーソンさん。いつもそうして素直にしていたらいいのに」
「ええ⁉ 素直って」
「うん。いつも何か色々一生懸命に考えている感じでしょう? ポヤッともしているけど」
「…………そう、かな」
「うん。そんな感じ」
そんな風に思われていたのか。まぁ、色々考えていたのは考えていたんだけどね。でも僕は分からない事を考えているよりは幸せを探している方がいいな。
でも嬉しそうって言われたのは、何だかちょっと幸せな気持ちになったよ。えっとでも何故だろう?
頼まれていた書類をそのまま次の部署へ届けて、自分たちの所へ戻る前に、遅くなった昼食を取っていこうって言われて、僕とマルグリットさんはそのまま食堂へと向かった。中途半端な時間だけど食堂の中はそれなりに人がいる。
「さっと食べて戻らないとね」
「そうだね」
急がなきゃって言いながら僕たちは暖かいシチューとパンと頼んだ。
美味しくて、幸せだなって思った。
---------------
僕はと言えば、お祖母様に「お腹の中に溜め込んでは駄目」という言葉は残っているんだけれど、実際問題何をどう溜め込んでいて、何を吐き出せばいいのかよく分からなくなっていた。
フィルがお祖父様たちとどんな話をしたのかは分からない。それを聞いたらいいのかな。でも聞いてどうしたいのかなって考えると、やっぱり分からなくなっちゃうんだよね。
そうしているうちに宰相府の方から僕たちの下っ端文官たちの方に色々な仕事が回って来た。
人事関係の書類の作成が多くて、この前新しく入った人たちの配属に関する書類を終わらせたばかりなのにって思ったけど、作成するように言われたらその通りにするしかないよね。
だけど先輩方が何となく顔色悪かったし、なんなら僕の所もいきなり退職された人が数名いたし、一体何が起きているんだろう? って思っていたら、一月半ばを超えた頃にいきなり第四王子の降下騒ぎがあった。
「え、追放?」
「ああ、詳細は明らかになっていないが、降下とは言われているけど自身が当主でなく他国の伯爵家との養子縁組だとか。今後交易をするらしい話は伝わってきてはいたけど、どこまでどうなっているのかはこれからだからね、ある意味人質というか、事実上の国外追放じゃないかって言われているらしい」
「どどどどどどどうして」
「そんなの私たちの所で分かるわけがないだろう?」
「……まぁ、色々と噂のある方だったからね。何かやらしかして陛下が見限ったっていう事じゃないのかな。殿下の母親である側室のベリンダ様も実家にお戻りになる事が決まったそうだ。おそらくはそのまま修道院行きじゃないかな」
何が起きているのかな。どうなっているのかな。
「そういえばさ、騎士団の方でも大きな異動があったらしいね」
「ああ、でもそちらは騎士団の中で完結しちゃうから、こちらに書類が回って来る事はないよ」
「ほらほら、無駄話はそれくらいにして。口ではなくて手を動かさないと帰れなくなっちゃうよ~」
ニコニコと笑ってそう言う先輩に、僕たちは止まっていた手を動かし始める。
それにしても、大量の異動。これが意味する所ってやっぱりあの二人が言っていた事なのかな。
-*-*-*-*-
「サミー」
廊下で声をかけられて僕は振り向いた。
ものすごく久しぶりに見た城内の見回り騎士のフィルだ。
「も、戻れたの?」
「今日な」
「そうなんだ。良かったね」
「ああ、まぁ。良かったんだか悪かったんだか。まだしばらくはバタバタしそうだが、きっと来月には落ち着くだろうな。また改めて話があると思うし、俺も話す」
「……うん。分かった」
お腹の中に抱えていたモヤモヤが少し消えたような気がした。
話すって。聞かないでも話してくれるんだ。
「彼氏、戻って来たんだね。良かったね」
「!! マ、マルグリットさん」
「嬉しそうだよ。エマーソンさん。いつもそうして素直にしていたらいいのに」
「ええ⁉ 素直って」
「うん。いつも何か色々一生懸命に考えている感じでしょう? ポヤッともしているけど」
「…………そう、かな」
「うん。そんな感じ」
そんな風に思われていたのか。まぁ、色々考えていたのは考えていたんだけどね。でも僕は分からない事を考えているよりは幸せを探している方がいいな。
でも嬉しそうって言われたのは、何だかちょっと幸せな気持ちになったよ。えっとでも何故だろう?
頼まれていた書類をそのまま次の部署へ届けて、自分たちの所へ戻る前に、遅くなった昼食を取っていこうって言われて、僕とマルグリットさんはそのまま食堂へと向かった。中途半端な時間だけど食堂の中はそれなりに人がいる。
「さっと食べて戻らないとね」
「そうだね」
急がなきゃって言いながら僕たちは暖かいシチューとパンと頼んだ。
美味しくて、幸せだなって思った。
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