悪役令息になんかなりません!僕は兄様と幸せになります!

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第9章   幸せになります

376. 春の嵐

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 三の月に入るとフィンレーにも春がやって来る。ハリーは学園が落ち着き始めると週末はフィンレーに戻って温室の手入れをし始めた。そしてウィルは、なぜかグリーンベリーに来てルーカスやクラウス君達と剣の稽古をしている。実はこの事でひと揉めあったのだ。

 父様からお話があったようにグリーンベリーを継ぎたいと最初に言い出したのはハリーだった。けれどもう少し考えるように言って保留になっていた。そこへウィルがルーカスやクラウス君達と一緒に剣の稽古をしたいと父様に申し出たんだ。

 クラウス君は自領からミスリル隊と呼ばれるミスリルの剣を使う先鋭の騎士達を連れてグリーンベリーに来てくれた。そしてルーカスの事をすごく尊敬をしていて、同じ騎士隊になった時に使っていただきたいってミスリル剣を贈ったんだよね。こんな高価なものはいただけないって一度は断ったみたいだけど、クラウス君に押し切られた。そしてグリーンベリーの騎士隊の隊長になってほしいと言っていたんだけど、剣を受け取る代わりに隊長はクラウス君って事になったみたい。クラウス君としては元スタンリー家の騎士団にいたルーカスより自分が上になるなんてっていう気持ちもあったみたいだけど、子爵位を持っていて後ろにモーガン伯爵家がいるクラウス君が相応しいって。そこはもうお任せしたよ。
 結局グリーンベリーの自領の騎士隊はクラウス君を隊長にして、副隊長がルーカス、そしてクラウス君と一緒に来たミスリル隊がいて、フィンレーから来てくれた騎士達がいる。そこにウィルが稽古にきた。

 それを知ったハリーが父様にどういう事なのかって聞きに行って、ウィルとも言い合いをした。保留ではなかったのかってね。
 稽古と後継ぎの件は関係がないって言ってもハリーは怒って口を聞かなくなるし、泣き出すし、結構大変だったんだ。ウィルとしてはモーガン伯爵家のミスリル隊を直接見せてもらうわけにはいかないし、せっかくグリーンベリーにいる事になったのなら一緒に稽古をさせてもらいたいってそれだけだったみたいなんだけど、あんまりハリーが怒っているので、こちらも意地になってしまったような感じで……。
 結局僕がハリーと話をする事になったんだ。



「だって! 早い者勝ちではないって、保留だって言っていたのに! だから僕はグリーンベリーに行く事を我慢していたのに!」

 話し出してすぐにハリーは珍しく感情的な声を出した。

「我慢しなくてもいいんだよ。ハリーもウィルも僕の大切な弟なんだからいつでも遊びに来て? こっちの温室にもティオ達が来られるようになったし、フィンレーから移動させた砂地の小麦の実験も見てほしいって思っているよ? ハリーが後を継ぎたいって言ってくれたのは聞いているし、嬉しいとも思ったよ。でも父様のおっしゃる通り、学園で色々な事を学んで決めても遅くはないんだ」
「…………何年経っても気持ちは変わりません」
「ハリー……うん。それでもいいよ。でも我慢をする事はないっていうのは覚えておいて? 遊びに来たい時には声をかけてくれればいいし、マークに何か聞きたいというのでもいい。勿論グリーンベリーに来ている妖精たちに挨拶をしてくれるのも歓迎するよ」
「…………………」
「屋敷もハリー達が泊れる部屋だって勿論あるしね。とはいっても僕もあちらに泊る事はまだ少ないけれど」
「……はい」
「ウィルはミスリル隊を見てみたいという剣に対しての願望っていうか、憧れっていうか、そういうもので父様にお願いをしたんだと思うよ。ハリーが温室を見たいと思うならそれでもいいし、あの木がどんな風に外の風に吹かれているのかを見てみたいならそれでもいい。ああ、ミッチェル君やスティーブ君達とお話をしたいならそれでもいいんだよ。我慢をする事はないからおいで?」

 ハリーは声を殺すようにしてポロポロとただ涙を流した。その切ない泣き方に僕は思わずその身体を抱き締めた。

「エディ兄様?」
「僕はハリーに沢山助けられているよ? フィンレーの温室がきちんと保たれていたのはハリーのお陰だよ。ありがとう。ちゃんと分かっているから大丈夫」
「……はい。ありがとうございます。
「うん。じゃあ、いつ遊びに来る?」

 顔を覗き込んでそう言うとハリーはふわっと笑った。

「エディ兄様がお忙しくない時に」
「…………ふふふ、じゃあ週末に一緒に行こうか。その代わり温室の手入れを手伝ってもらうかもしれないよ?」
「勿論です!」
「勉強会で一緒だった友達も誘ってみよう。お祖父様の所へはなかなか行かれなくてね。ああ、そうだ。グリーンベリーではまだ一度もポーションを作った事がないから、フィンレーとの違いがあるのか試してみるのはどうかな」
「はい、よろしくお願いします」
「うん。今回だけでなくさっきも言ったように来たい時には声をかけてね。ハリー、もう一度言うよ。我慢はしなくていいから」

 ハリーは泣き笑いのような表情を浮かべて「はい」と返事をした。
 そうしてその週末にグリーンベリーにやってきて、久しぶりに勉強会のメンバーとミッチェル君も一緒にお茶会もした。
 ウィルはクラウス君達と剣の稽古をしている。
 兄様はタウンハウスでフィンレーの書類と戦っているらしい。

「こっちの温室はもう見たの?」ってトーマス君が聞いていた。

「はい。先ほどエディ兄様に案内をしていただきました。妖精たちもあちらにいた子や、初めての子もいて挨拶が出来ました」
「そう。それなら良かった。今日はこっちで初めてポーションを作るってエディから聞いているからハロルド君よろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」

 そのやりとりを聞いて一緒にお茶を飲んでいたスティーブ君が立ち上がった。

「温室で作りますか? 材料などを揃えておきますね」
「あ、僕もお手伝いさせて下さい!」
「大丈夫ですよ。せっかくいらしたのですからゆっくりされてください」
「いえ、フィンレーでも準備は僕の仕事でした。なので一緒に手伝わせてください」
「じゃあ、ハリー、スティーブ、一緒にお願い出来るかな? 今日は魔力回復にするね」
「分かりました!」

 嬉しそうに答えたハリーの横で、スティーブ君も小さく笑って頷いた。それを見たミッチェル君が小さな声で「エディって鈍いのか鋭いのか分からない時があるよね」って呟いていて、僕とトーマス君は「え?」って顔を見合わせたんだ。


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可愛い枠は鈍感www


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