36 / 109
34 一番大事
しおりを挟む
再びダリウス叔父様から連絡が来た。七の月になったら麦踏みをしましょうっていうのを実行したらしい。本来は秋播きの麦に耐寒力を上げて分げつを促進する為に行う作業なんだけど、シェルバーネの場合は昼と夜の温度差が大きい事と、砂の上という事で、根付きの為にやってみようっていう事になったんだ。
過去二回は一般的な春播きと同じように麦踏みはしなかったんだよね。だから今回麦踏みが初めてだっていう人も居て、せっかく育ってきた苗を踏みつけてしまうなんて! ってものすごく反対をされたとか。うん、そうだよね。僕の始めはこんなに踏んじゃうの? って思ったもの。ちなみにフィンレーは二期作の両方とも麦踏みをするんだ。
まぁ、色々あったけどとにかくやってみようって麦踏みをして、四、五日でしっかりと復活してきた麦を見て涙を流している人もいたとか。
シャマル様も立ち会いたかったらしいけど、何だか調子が悪いらしくて叔父様も心配されていたよ。マリーに聞いたら「つわりかもしれませんね」って。ううん、よく分からないけど何だか色々あるんだね。
でもとりあえず麦はしっかりと根付いたみたいだし、これからの季節はシェルバーネは暑くなるし、夜は冷えて温度差が激しくなるけれど、何とか夏を超えて収穫までいってほしい。分げつがしっかり出来ていれば今度は丈が伸びてくると思うんだよ。
気が早いって言われちゃうかもしれないけれど、この麦が収穫出来たら、今度はリュミエール領と同じように収穫をした小麦の要らない部分を畑に混ぜて肥料として入れて休ませて、違う畑にもう一度苗植えをする。そして大丈夫だったらまた肥料を入れて休ませて、最初の畑に直播きだ。
でも人の畑ばかりを気にしてもいられない。試験場の畑から魔力回復のポーションに使われる薬草を下ろす事が決まった。味を良くする為に僕が繰り返し品種改良をしたものだ。味だけでなくなぜか効果も高くなったけど。
とりあえずこれに関してはまだしばらくの間は領外への持ち出しは禁止にする。そしてこの持ち出し不可という事が上手くいけば、今年中には白いイチゴを領民が扱えるようにするんだ。
「頑張らないとね」
書簡を前にそう言っていると、後ろから「ほどほどにね」っていう声がかかった。
「アル! いつの間に帰ってきていたんですか? え? もうそんな時間?」
おかしいな。お昼休みに温室の手入れをして、ついでに試験場の状態を確認して、書類に目を通して、ミッチェル君に「今日はもう終わり」って言われて屋敷に帰されたら書簡が来ていてそれを見て……あれれ?
「エディ、仕事が好きなのはいいけど、のめり込んでしまってはいけないよ。まぁ、今日はまだ夕食には少し早い時間だけどね」
それを聞いて僕はホッとして「お帰りなさい」って言いながら触れるだけの口づけをした。これは、えっと、毎日の約束なんだよ。ちゃんとお帰りなさいっていう時は出来るだけそうしようって。
「ただいま、エディ。またダリウス叔父様から書簡が来ていたんだって?」
「はい。麦踏みが終わって、しっかり根付いた事が確認できたみたいです。後は水の量と、気温差の状況ですね。まぁ麦は元々寒さには強いですから」
「そうだね、雪の下から芽吹くからね。もっともフィンレーは力技で雪を融かして種まきをするけど」
「ふふふ、そうですね。グランディス様の恵みに感謝です。とりあえずはこれでまたしばらく様子を見る感じです。出来れば収穫の前に麦畑を見に行きたいです」
僕がそう言うと兄様はちょっとだけ困ったように笑ってから「父上と相談だね」と言った。
「はい。でもやっぱりちょっとだけでも見たいんです。砂漠の中に作った砂の畑で揺れる青緑の麦を」
「…………マルリカ関連が大きな問題が起きなければ、だね」
「はい。シャマル様にもおめでとうが言いたいし。お話しも聞きたいなって」
「エディ?」
兄様がびっくりしたように僕を見た。
「あ、えっと、マルリカの実を使った人が近くにいないから。ちょっとだけ話を聞きたかったんです。それだけです。、すみません」
「謝る事はないよ。そうだね、確かにそういう話を聞けるのは貴重だね。ただ」
「ただ?」
「……何でもないよ。割合はっきりとお話しされる方だから、個人差というものもあるだろうし、エディがかえって不安になってしまうような事がないといいなと思ったんだ」
「ああ、なるほど……」
うん確かにそうかもしれないな。そうしたらやっぱりルシルが使ったら、こっそり聞く方がいいのかな。
「以前話をした通り、どうするのかは一緒に考えよう。それは忘れないでエディ」
「はい」
「エディが一番っていうのもね」
「はい」
ううう、照れる。でも嬉しいって思うよ。
「僕も、アルが一番です」
そう言って笑ったら兄様は一瞬だけ間をおいて「夕食にしようか」って言った。
夕食には今日のお昼に収穫をしたマンゴーが出てきた。すごく甘くて美味しかった。
-----------------
過去二回は一般的な春播きと同じように麦踏みはしなかったんだよね。だから今回麦踏みが初めてだっていう人も居て、せっかく育ってきた苗を踏みつけてしまうなんて! ってものすごく反対をされたとか。うん、そうだよね。僕の始めはこんなに踏んじゃうの? って思ったもの。ちなみにフィンレーは二期作の両方とも麦踏みをするんだ。
まぁ、色々あったけどとにかくやってみようって麦踏みをして、四、五日でしっかりと復活してきた麦を見て涙を流している人もいたとか。
シャマル様も立ち会いたかったらしいけど、何だか調子が悪いらしくて叔父様も心配されていたよ。マリーに聞いたら「つわりかもしれませんね」って。ううん、よく分からないけど何だか色々あるんだね。
でもとりあえず麦はしっかりと根付いたみたいだし、これからの季節はシェルバーネは暑くなるし、夜は冷えて温度差が激しくなるけれど、何とか夏を超えて収穫までいってほしい。分げつがしっかり出来ていれば今度は丈が伸びてくると思うんだよ。
気が早いって言われちゃうかもしれないけれど、この麦が収穫出来たら、今度はリュミエール領と同じように収穫をした小麦の要らない部分を畑に混ぜて肥料として入れて休ませて、違う畑にもう一度苗植えをする。そして大丈夫だったらまた肥料を入れて休ませて、最初の畑に直播きだ。
でも人の畑ばかりを気にしてもいられない。試験場の畑から魔力回復のポーションに使われる薬草を下ろす事が決まった。味を良くする為に僕が繰り返し品種改良をしたものだ。味だけでなくなぜか効果も高くなったけど。
とりあえずこれに関してはまだしばらくの間は領外への持ち出しは禁止にする。そしてこの持ち出し不可という事が上手くいけば、今年中には白いイチゴを領民が扱えるようにするんだ。
「頑張らないとね」
書簡を前にそう言っていると、後ろから「ほどほどにね」っていう声がかかった。
「アル! いつの間に帰ってきていたんですか? え? もうそんな時間?」
おかしいな。お昼休みに温室の手入れをして、ついでに試験場の状態を確認して、書類に目を通して、ミッチェル君に「今日はもう終わり」って言われて屋敷に帰されたら書簡が来ていてそれを見て……あれれ?
「エディ、仕事が好きなのはいいけど、のめり込んでしまってはいけないよ。まぁ、今日はまだ夕食には少し早い時間だけどね」
それを聞いて僕はホッとして「お帰りなさい」って言いながら触れるだけの口づけをした。これは、えっと、毎日の約束なんだよ。ちゃんとお帰りなさいっていう時は出来るだけそうしようって。
「ただいま、エディ。またダリウス叔父様から書簡が来ていたんだって?」
「はい。麦踏みが終わって、しっかり根付いた事が確認できたみたいです。後は水の量と、気温差の状況ですね。まぁ麦は元々寒さには強いですから」
「そうだね、雪の下から芽吹くからね。もっともフィンレーは力技で雪を融かして種まきをするけど」
「ふふふ、そうですね。グランディス様の恵みに感謝です。とりあえずはこれでまたしばらく様子を見る感じです。出来れば収穫の前に麦畑を見に行きたいです」
僕がそう言うと兄様はちょっとだけ困ったように笑ってから「父上と相談だね」と言った。
「はい。でもやっぱりちょっとだけでも見たいんです。砂漠の中に作った砂の畑で揺れる青緑の麦を」
「…………マルリカ関連が大きな問題が起きなければ、だね」
「はい。シャマル様にもおめでとうが言いたいし。お話しも聞きたいなって」
「エディ?」
兄様がびっくりしたように僕を見た。
「あ、えっと、マルリカの実を使った人が近くにいないから。ちょっとだけ話を聞きたかったんです。それだけです。、すみません」
「謝る事はないよ。そうだね、確かにそういう話を聞けるのは貴重だね。ただ」
「ただ?」
「……何でもないよ。割合はっきりとお話しされる方だから、個人差というものもあるだろうし、エディがかえって不安になってしまうような事がないといいなと思ったんだ」
「ああ、なるほど……」
うん確かにそうかもしれないな。そうしたらやっぱりルシルが使ったら、こっそり聞く方がいいのかな。
「以前話をした通り、どうするのかは一緒に考えよう。それは忘れないでエディ」
「はい」
「エディが一番っていうのもね」
「はい」
ううう、照れる。でも嬉しいって思うよ。
「僕も、アルが一番です」
そう言って笑ったら兄様は一瞬だけ間をおいて「夕食にしようか」って言った。
夕食には今日のお昼に収穫をしたマンゴーが出てきた。すごく甘くて美味しかった。
-----------------
422
あなたにおすすめの小説
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
帝に囲われていることなど知らない俺は今日も一人草を刈る。
志子
BL
ノリと勢いで書いたBL転生中華ファンタジー。
美形×平凡。
乱文失礼します。誤字脱字あったらすみません。
崖から落ちて顔に大傷を負い高熱で三日三晩魘された俺は前世を思い出した。どうやら農村の子どもに転生したようだ。
転生小説のようにチート能力で無双したり、前世の知識を使ってバンバン改革を起こしたり……なんてことはない。
そんな平々凡々の俺は今、帝の花園と呼ばれる後宮で下っ端として働いてる。
え? 男の俺が後宮に? って思ったろ? 実はこの後宮、ちょーーと変わっていて…‥。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか
まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。
そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。
テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。
そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。
大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン
ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。
テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる