悪役令息にならなかったので、僕は兄様と幸せになりました!

tamura-k

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85 マルリカの実①

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 水の日に兄様と相談して土の日から使う事を決めたマルリカの実。
 三つある実を一日一つずつ使うのだと聞いた時はびっくりしたけれど、マルリカと僕達の魔力を馴染ませながら赤ちゃんを宿らせるのであれば、あまり急ぎすぎてはいけないのかもしれない。

 休み前の土の日に一つ目。
 休日の月の日に二つ目。
 そして休み明けの光の日に三つ目。

 必然的に光の日はお休みする事になると思うし、もしかしたら、ううん、多分その次の火の日もお休みになっちゃうかもしれないから、ミッチェル君にはそっとマルリカの事を告げた。
 ミッチェル君は三日という事に驚いていたけれど、すぐに立ち直って「エディが考えて決めた事だから、応援するよ。頑張って!」と言ってくれた。そして「領主が確認して、サインをしなければならないものは今はそれほど多くないから大丈夫だよ」とも。

「エディのサインを真似て僕がサインするわけにはいかないからさ」

 うん。それはやめてね、ミッチェル君。

「それにしても皆凄いな。ちゃんと決める事が出来る。僕はいつまでも甘えてグズグズして、そのうちに無くしてしまうのかもしれないな」
「ミッチェル?」
「なんでもない。とにかく了解。赤ちゃんが産まれたら、抱っこさせてね」
 
 そう言われて、一気に現実味を帯びた話に僕はドギマギしながら「もちろん」って頷いた。
 シャマル様も、ルシルも、そしてトーマス君も皆こんな気持ちだったのかな。
 そんな事を考えながら僕はミッチェル君が厳選して回してくる書類を片付けた。ブライアン君がちょっと不思議そうな顔をしていたけど、シェルバーネとの会議があるからだと思っていたみたい。
 こうしてあっという間に土の日の仕事が終わって、ミッチェル君に励まされつつ屋敷に戻って……

「おかえり、エディ。まずは食事を取って話をしよう」
「話?」
「うん。ああ、そんな顔をしないで? ここにきて止めようなんて言わないから」
「あ、はい」

 どんな顔をしていたのかな? って気になったけど、僕はコクリと頷いた。
 だけど、シェフが一生懸命作ってくれた筈の食事は全く味が分からなかった。


  ◇ ◇ ◇


 お風呂に入って、夫婦の寝室に行くと兄様はまだ来ていなかった。それにホッとしてポスンとベッドの端に腰を下ろす。
 なんだか初めての夜を思い出す。
 あれから何度も抱き合った。沢山愛してもらった。だから今更だって思うんだけど、やっぱり緊張するよね。

「ああ、ごめんね。ちゃんと温まった?」
「はい。アルも?」
「うん。じゃあ、エディこっちにおいで」

 兄様に言われて僕はソファに腰を下ろした。

「さて、じゃあ今から説明をするね。これはマルリカを受け取った夫婦に配られている実の使い方について書かれているものなんだ。受け取りに来た者だけが見られる」

 そうなんだ。そんなものがあったんだ。マルリカの実を国に渡した後は僕は全然関りがなかったから知らなかった。でもそうだよね。ただあの実を三つ渡されてもどうしたらいいのか分からないものね。

「念のため、叔父上にもきちんと話を聞いたよ」
「あ、ありがとうございます」

 そう言えば僕もシャマル様から全部兄様に任せておけばいいって言われていた。
 ダリウス叔父様が兄様にきちんと伝えておく筈だとも。

「この前簡単に説明をしたけれど、一応きちんと伝えておくよ。マルリカの実は三つ使う。一日一つずつ」

 そう言って兄様はマジックポーチの中から赤い実を一つ取り出して、持ってきたらしいナイフを当ててその皮にあてた。
 皮は少し硬そうだったけれど、ナイフの刃はするりと入り、兄様を刃を立てたまま器用にクルリと回してマルリカの実をパカリと蓋を開くように開けた。

「わぁ……」

 初めて見るマルリカの実の中は、外の少しくすんだような赤とは対照的な乳白色の実が四つに分かれて入っていた。

「見ての通り一つの実に四房入っているんだよ。今日はこれをエディが三つ食べる」
「え⁉ 僕が三つ?」
「うん。私は一つ。そして明日は私が三つでエディが一つ」
「は、はい」
「三日目は半分ずつ食べるそうだ」
「そうなんですね」

 よく分からないけれど、そう決まっているならそうしないと駄目だよね。

「一応シェルバーネの言い伝えでは一日目に子を成すものが三つ食べて子を育てるところを魔力によって作るそうだ。そして翌日はそこに夫となるものが魔力を注ぐ。三日目は互いの魔力を融和させて子をかたちづくるらしい」
「…………わ、分かりました」

 マルリカの実ってすごいな。本当に赤ちゃんを作る事が出来る実なんだな。命の実なんだ。

「じゃあ、一つ食べるから、残りはエディが食べてね」
「分かりました」

 兄様は持ってきていたフォークで実を取り出してパクリと口に入れた。

「甘いけど、さっぱりした甘さだ。はい、あーん」
「……食べられますよ?」
「うん、でもせっかくだから一つくらいは久しぶりに食べさせてあげたいな」

 にっこりと綺麗な笑みを浮かべた兄様に僕は少し熱くなった顔のまま口を開いた。
 冷たい実がするりと口の中に入ってくる。じわりと広がる爽やかな甘み。

「おいしいね、エディ」
「はい。明日は僕も一つだけアルに食べさせてあげますね」
「それは楽しみだな」

 僕は兄様からフォークをもらうと残りの実を口に入れた。
 少しだけ濡れたような唇を兄様の指が拭って、そのままふわりと抱き上げられた。



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はわわわわわ、ごめんね続きます💦 
 
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