敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要

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侵略

 投石機による攻撃音が、先ほどから絶え間なく聞こえている。
 高台に建つ城は、もうすぐ落ちようとしていた。

 無能な国王のせいで腐敗が進んだ国では、侵略に太刀打ちできるはずもなかった。

 多くの敵兵が、城内になだれ込んでいた。

 そんな最中、さっきまで救護に当たっていた私たちは、味方の兵士によって礼拝堂に閉じ込められ、逃げないように外から鍵を掛けられていた。

 兵士たちが立ち去ったあと、予告どおりに火を放たれたのか、爆ぜるような音とともに焦げた臭いと黒い煙が室内に充満してくる。

 扉を壊そうと何人かで体当たりするが、びくともしなかった。

「死にたくないよう」

 まだ幼い少女が恐怖で泣き始めた。
 ここに来るまで大人に混じって懸命に怪我人の手当てをしていた彼女だったが、死を悟って平静を保てなくなっていた。
 私は思わずぎゅっと彼女を庇うように抱きしめた。

「ひどい、敵兵に渡したくないからって」

 女たちが恨むのは、敵ではなく、自国の王だ。
 私たち癒しの力を持つ女たちは、聖女と呼ばれ、どの国でも貴重な存在だ。

 国王たちの命がとられて戦が終わっても、癒しの聖女たちは敵兵にとっても有益なので、殺されることはないと思っていた。

 でも、この国の王は、つくづくクズだ。
 聖女も殺せと命じたらしい。
 自分の亡きあと、自国の聖女たちが敵国に使われるのが気に食わなかったらしい。

 煙が立ち込めて、聖女たちは激しく咳き込んでいる。
 もう立っている女たちはいない。
 私も床に伏せて、息苦しさと戦っていた。

 意識がだんだん遠のいていく。
 最期に一目だけでもいいから、レイに会いたかった――。

 ところが、死を覚悟したとき、私たちは間一髪のところで救助され、九死に一生を得た。

 助けてくれた人たちは、敵国の兵士たち。
 その中でも、ひときわ立派な鎧を装備した兵士が、私たちに近づいてくる。
 敵国の軍将の一人だろうか。
 彼は顔を覆うような立派な兜をかぶっていたけど、私たちの前で面甲を跳ね上げて、私たちを見下ろした。
 隙間から見えた彼の目は、とても冷たい印象だった。
 でも、どこかで見た覚えのある気がして、思わず自分の目を疑った。
 心臓が止まるかと思うくらい驚いた。

 これが侵略軍将帥のマトルヘル侯爵との出会いだった。

「聖女たちか。我が国の捕虜となってもらう」

 そう彼が淡々と告げたあと、部下たちに連行するように命ずる。

「丁重に扱え。まさかとは思うが、手を出すなよ。首が飛ぶぞ。彼女たちが加護を失えば、助けた意味がなくなるからな」

 私たち聖女はこうして、敵国に仕えることになった。





 侵略国シルハーンの神殿では、私たち旧サルサン国の聖女たちは捕虜というよりは新たな仲間として親切に接してもらえた。
 そのおかげで、元々国王への忠誠心が低かった私たちは、一ヶ月後にはこの国にすっかり馴染んでいた。

 そんなある日、城から女官が王の使者として訪問してきた。

「えっ、私が結婚ですか?」
「ええ、そうです。ルミネラ様がマトルヘル侯爵の元に嫁ぐのです」

 彼女は応接室のソファに腰掛けながらうなずいていた。

「でも、私は聖女ですよ? それに、そんなに若くないですし」

 一般的に十五歳で成人とみなされるので、二十五歳の私は完全な行き遅れだ。妻としては、ありがたがられる存在ではない。

 王命を伝えてきた女官に思わず聞き返してしまった。

 稀に神々から愛され、加護を授かる人がいる。
 その人たちは神の御使いと呼ばれていた。
 その中でも愛の女神の加護を授かり、癒しの力を持つ者は別格で、聖女と呼ばれている。

 その癒しの力は人それぞれで、擦り傷を癒す程度から、死の淵に瀕した人を助ける奇跡レベルまである。

 私は腕の欠損までは治せたので、この国でも稀少な上級聖女として認定されている。
 旧サルサン国では、かつて筆頭聖女を務めていた。

 でも、その愛の女神の加護は特殊で、愛のない交わりによって失われるとされている。
 だから、聖女たちの貞操は無理やり奪われなかった。

「あなたは旧サルサン国で民に慕われた聖女です。分け隔てなく自国の民を助けた功績を国民たちは覚えています。その筆頭聖女だったあなたがマトルヘル侯爵のもとに嫁ぐことで、元サルサンの民の心証が良くなります。それにここだけの話ですが、サルサン国の王族は特に下々から嫌われていたので、王女を娶るだけでは足りないと陛下は思われたのでしょう」
「なるほど」

 この結婚は、政略が目的なのね。
 敗戦国の重要人を身内に取り込むことで、その国の民たちの反乱を防ぐ。
 要は人質だ。

「それに、聖女を娶るのですから、おそらく白い結婚でしょう。貴重な上級の癒し手を失うなんて、そんな愚かな真似をマトルヘル侯爵ともあろうお方がなさるはずがありません」
「そうですよね」

 私は女官からそれを聞いて、今度の婚姻では貞操は大丈夫そうだと、ひとまず安心していた。

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