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王女エミリーヌ
「若い年頃の私ならともかく、なぜあなたがマトルヘル卿の妻に選ばれたのかしら? 年増のくせに」
私と神殿の回廊で出会ったとき、挨拶もなしにとんでもないことを言い出したのは、旧サルサン国の王女エミリーヌ様だ。神殿の警備が厳しい最奥部で、私と同じように保護——もとい監視されている。
神殿にいる聖女や女の御使いと同じように彼女もハイウェストのドレスを着ている。この神殿では、服装に身分の差はなかった。
彼女はシルハーン国の王の側妃として嫁ぐことが決まっている。ここの国王は、私や彼女よりも年上で、親子ほど年が離れている。
ところが、マトルヘル侯爵はまだ二十代前半と男盛りで、容姿も見目麗しいと評判だ。侯爵家の当主だと聞いているのに、まだ独身なのが不思議なくらい。
王女として尊ばれ、一番条件の良い環境を与えられてきた彼女には、何人も妻を抱える男に嫁ぐより、見た目の良い独身男に嫁げるほうが良かったのかもしれない。
私としては、シルハーン国が侵略してこなかったら、サルサン国王の後妻になるところだったので、亡くなった兵士は可哀想だが、腐敗した政治しかしない国王が殺されてむしろ大歓迎だった。
私は亡き国王に貞操を奪われそうになっていた。聖女だから妾は無理だと言っても、愛があるから大丈夫と聞く耳を全く持たなかった。なんなら正式に妻にしてやると言ってきて、元いた正妃をでっち上げた不貞で処刑してしまった。
そんな彼に私への愛があるはずもなく、あっても下心のみだ。でも、きっと私が聖女の力を失ったら、国王への愛が足りなかったと処罰されていた。
贅沢のために国民に重い税を課し、治安が悪化すれば厳しい刑罰を下して苦しめた。賄賂が横行し、民を守るための法が役に立たず、弱い立場ほど虐げられるだけだった。
でも、侵略後はまともな統治に戻っている。戦後、不安そうにしていた人たちに笑顔が戻り始めていた。
本当にシルハーン国万歳だ。特に命まで助けてくれたマトルヘル侯爵には本当に感謝している。
「政略って聞いてますよ。陛下のご命令だそうです」
私は関係ないよ。そう伝えたつもりだったけど、王女は表情を豹変させた。
「あなたにはサルサン国への忠義はないの!? なぜ私があの年寄りに嫁がなくてはならないのよ!」
王女に体当たりされて、ドンと勢いよく壁に背中がぶつかった。
「そのみっともなく垂れ下がった大きな胸で父上に迫ったみたいにマトルヘル卿にも同じ真似をしたのでしょう?」
「ち、違う」
「おだまり!」
王女に頬を力いっぱい叩かれた。
痛みに驚いて頭の中が真っ白になる。
「私に反抗するなんて、許されないわ!」
その後は、髪を掴まれて床に引きずり倒され、殴る蹴るの暴行の連続だった。
でも、抵抗したら、さらに王女の気分を害しそうで、必死に耐えていた。彼女が国王に嫁ぎ、恭順を示さなければ、旧サルサン国の生き残りが冷遇されてしまう。王女である彼女の気を宥める必要があった。
そのために、逆恨みだと分かっていても耐えるしかなかった。
「父上を誑かし、母上を殺したばかりか、敵国にも媚びを売るなんて!」
「おやめください!」
王女を止めたのは、周囲にいた神殿の関係者だ。
「私は王女よ、無礼者!」
王女はなりふり構わず叫ぶが、誰も彼女の命には従わない。私から引き離すように別の場所に王女を連れていく。
「大丈夫ですか、ルミネラ様」
聖女見習いの女の子が近づいてきた。
私の体に触れて殴られた場所を撫でてくれた。その手はほのかに光っている。温かい力が私から痛みを取り除いてくれる。
凶暴な王女と二度と会いたくないけど、彼女が側妃になる以上、それは叶わない願いだった。
私と神殿の回廊で出会ったとき、挨拶もなしにとんでもないことを言い出したのは、旧サルサン国の王女エミリーヌ様だ。神殿の警備が厳しい最奥部で、私と同じように保護——もとい監視されている。
神殿にいる聖女や女の御使いと同じように彼女もハイウェストのドレスを着ている。この神殿では、服装に身分の差はなかった。
彼女はシルハーン国の王の側妃として嫁ぐことが決まっている。ここの国王は、私や彼女よりも年上で、親子ほど年が離れている。
ところが、マトルヘル侯爵はまだ二十代前半と男盛りで、容姿も見目麗しいと評判だ。侯爵家の当主だと聞いているのに、まだ独身なのが不思議なくらい。
王女として尊ばれ、一番条件の良い環境を与えられてきた彼女には、何人も妻を抱える男に嫁ぐより、見た目の良い独身男に嫁げるほうが良かったのかもしれない。
私としては、シルハーン国が侵略してこなかったら、サルサン国王の後妻になるところだったので、亡くなった兵士は可哀想だが、腐敗した政治しかしない国王が殺されてむしろ大歓迎だった。
私は亡き国王に貞操を奪われそうになっていた。聖女だから妾は無理だと言っても、愛があるから大丈夫と聞く耳を全く持たなかった。なんなら正式に妻にしてやると言ってきて、元いた正妃をでっち上げた不貞で処刑してしまった。
そんな彼に私への愛があるはずもなく、あっても下心のみだ。でも、きっと私が聖女の力を失ったら、国王への愛が足りなかったと処罰されていた。
贅沢のために国民に重い税を課し、治安が悪化すれば厳しい刑罰を下して苦しめた。賄賂が横行し、民を守るための法が役に立たず、弱い立場ほど虐げられるだけだった。
でも、侵略後はまともな統治に戻っている。戦後、不安そうにしていた人たちに笑顔が戻り始めていた。
本当にシルハーン国万歳だ。特に命まで助けてくれたマトルヘル侯爵には本当に感謝している。
「政略って聞いてますよ。陛下のご命令だそうです」
私は関係ないよ。そう伝えたつもりだったけど、王女は表情を豹変させた。
「あなたにはサルサン国への忠義はないの!? なぜ私があの年寄りに嫁がなくてはならないのよ!」
王女に体当たりされて、ドンと勢いよく壁に背中がぶつかった。
「そのみっともなく垂れ下がった大きな胸で父上に迫ったみたいにマトルヘル卿にも同じ真似をしたのでしょう?」
「ち、違う」
「おだまり!」
王女に頬を力いっぱい叩かれた。
痛みに驚いて頭の中が真っ白になる。
「私に反抗するなんて、許されないわ!」
その後は、髪を掴まれて床に引きずり倒され、殴る蹴るの暴行の連続だった。
でも、抵抗したら、さらに王女の気分を害しそうで、必死に耐えていた。彼女が国王に嫁ぎ、恭順を示さなければ、旧サルサン国の生き残りが冷遇されてしまう。王女である彼女の気を宥める必要があった。
そのために、逆恨みだと分かっていても耐えるしかなかった。
「父上を誑かし、母上を殺したばかりか、敵国にも媚びを売るなんて!」
「おやめください!」
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王女はなりふり構わず叫ぶが、誰も彼女の命には従わない。私から引き離すように別の場所に王女を連れていく。
「大丈夫ですか、ルミネラ様」
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私の体に触れて殴られた場所を撫でてくれた。その手はほのかに光っている。温かい力が私から痛みを取り除いてくれる。
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