敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要

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レイとの約束

「レイ、助けて!」

 彼が雇われている場所に行き、彼に事情を説明した。

「襲った男たちが、また来るかもしれない。だから、住処を変えよう」

 彼は今までの職を失ってまで、居場所を変えてくれた。

 大きな町だったから、きっとあの暴漢たちともすれ違うことはないだろう。
 でも、場所が変わったせいか、今までよりも生活は厳しくなり、いつもおなかを空かせる生活が続いてしまった。

 私たちは確実に追い詰められていた。

「ねぇ、私も働くよ。これ以上、レイに迷惑をかけたくない」

 私がそう言うと、彼は崩れ落ちて泣き出してしまった。

「ごめん、ルミはお荷物じゃない。むしろ、役立たずは俺だ」
「どうしたの、レイ?」

 なぜ彼が謝るのか私には分からなかった。

「きっとルミは何かの加護を持っている。カラスが暴漢から助けてくれるなんてありえない。だから、すぐに神殿に行けば良かったんだ。俺はそれに気付きながら、黙っていたんだ! 今までごめん。嫌だったんだ。ルミがどっか行っちゃうのが! 俺が、ルミを独り占めしたかったから!」

 レイが苦しんでいるのが悲しくて、彼をすぐに抱きしめた。

「私だって、レイと離れたくないよ」

 神殿は金を持っている人間や貴族が入れるところだ。
 孤児の私たちには縁が全然ないところだった。
 そんなところに行ったら、もう二度と会えない気がした。

「ルミ……」
「これからも、ずっと一緒にいてもいい?」

 私がそう言うと、彼はますます泣き出していた。今度は感極まって。
 透き通ったような青い目が、私だけを見つめている。
 彼の手が私の体を優しく触れ、ぎゅっと愛おしそうに抱きしめてくれる。
 彼の存在にいつも救われていた。

「ああ、もちろんだ。ルミ、好きだよ」
「私も」

 彼と出会ったとき、私は腹ぺこの独りぼっちで、彼が温かく受け入れて食べ物を分けてくれなければ死んでいた。

 そんな彼に感謝こそすれ、彼と別れるなんてできなかった。

 私も優しい彼のことが好きだったから。

 私を見つめるレイの瞳に熱が帯びている。
 高鳴る胸の鼓動を感じなら、自然とお互いの顔が近づく。
 初めて彼と口づけを交わした。

 それから相手を押し倒して肉体関係を強引に迫ったのは私だ。
 真っ赤だった彼が、とても愛おしかった。
 この日から、私たちは仲間から恋人になった。

 でも、彼の負い目は、ますます彼を追い詰める原因となった。

 私を飢えさせたくないと、彼は盗みに手を出すようになった。
 私に心配させまいと彼は新しい仕事が見つかったと嘘をついてまで。
 でも、足の速かった彼だったけど、ある日油断して、とうとうお役人に捕まってしまった。

 帰って来ない彼を心配して、私が彼の行方をやっと探し当てたときには、もう彼の判決は出ていた。

 盗人は利き手を切り落とされる。
 それがこの国の残酷な法律だった。

 私が処刑場に向かったとき、彼は檻の中にいた。見せしめのように丸見えの状態で。

 観衆がいる中、処刑人が大きな斧を振り上げ、台の上で固定された彼の手を無惨にも切り落とした。

 すぐに切り口を焼かれて止血されるが、あまりの非情な状況に私はただ泣き叫んでいた。

 処刑が済み、解放されたレイの元に駆け寄った。
 血の気を失った彼は、今にも死にそうだった。

「やだ! 死なないでレイ!」

 泣きながら彼の体に触れたとき、突然奇跡が起きた。
 私の手から光が放たれて、失ったはずの彼の手が元に戻ったのだ。

 大勢が見守る中での出来事で、その事実は到底隠せるものではなかった。

「腕が生えたぞ!」
「聖女だ。あの女は聖女だぞ!」

 彼の手が切り落とされたときよりも大騒ぎで、私はあっという間にお役人に捕まった。

「やだ、離して!」

 レイと引き離されるのが嫌で、必死に抵抗したけど、私は無力だった。
 彼は私を取り戻そうと近づこうとしたけど、大勢の人が彼の体を押さえつけ、私たちを引き離した。

「レイ!」

 無情にも連行されていく私に彼は必死に声をかけてくれた。

「ルミ、諦めるな。どんなことになっても、お前を絶対に迎えに行くから!」

 その言葉は、私の心の支えになった。今は離れて辛いけど、いつか彼に会えると信じて日々を過ごそうと思えたから。

 神殿では生活は保証されたが、自由はなかった。
 保護の名の下、人が付き、常に監視されていた。

 聖女になって数年後。神殿内での生活にも慣れ、私の能力の高さから神殿内での地位が高まったので、それを利用して慈善活動を行い始めた。

 彼に会えるかもしれないと願って、貧民層への炊き出しや、治療行為を積極的に行った。
 でも、彼が一度として私に会いに来ることはなかった。

 慈悲の聖女として民衆に親しまれるようになったけど、私は同時に絶望していった。

 レイはもうこの世にいないのかもしれない――と。

 盗人として処刑され、しかも聖女の私と一緒にいたのだ。
 彼が私を隠していたと誤解されていたとしたら、私がいなくなったあと、もしかしたら悲惨な目に遭ったのかもしれない。

 私は聖女として尊ばれるようになったけど、その裏で私を助けて愛してくれた彼は、一人きりとなったあと、一体どうなったのだろう。

 便りもなく、彼に一度として会えない事実が、私を不安で覆い尽くしていく。

 苦しい生活の中でも、彼がいたから、幸せがあったのに。
 私を優しく抱きしめてくれた彼はもういない。
 その事実に今頃気づいたけど、受け入れることはできなかった。

 さらに、愚王に妻として求められたとき、生きる希望さえも失いかけていた。

 あんな男に身を汚されるくらいなら、その前に殺してやる。そんな風に思い詰められるくらい、私は自暴自棄になっていた。

 ――諦めるな。

 もう彼の最後の言葉を信じられなくなっていた。

 そんなとき、突然メイアス様率いる軍隊がこの国に攻め入り、サルサン国はあっけなく滅びることになった。
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