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第2章
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「あなたって、シャコバサボテンみたいな人ね」
高二の春休みにハルから連絡があり、ディズニーランドへ行かないかと誘われた。最初は彼女と二人で行けと断ったがハルの彼女のお父さんが会社でもらってきたかなんかで、チケットが四枚あるとのことだった。二回行けばいいじゃんと俺は言ったがハルはそれを笑って受け流した。
結局ハルの彼女のナツミとその友人のアキ、ハルと俺の四人で行くことになった。
春休みともあって園内は死ぬほど混んでいた。東京駅から京葉線に乗ったころからある程度覚悟はしていたがそれにしても混んでいた。
カリブの海賊やジャングルクルーズなどアトラクションで遊んでいるうちに、アキと俺も少しずつ喋るようになってきた。遊ぶ時間よりも待っている時間のほうが長くてその間はナツミが喋っていた。ハルもそれに合わせるようにときおり喋っていて、アキはそれをふうんとか、へえとか相槌を入れながら聞いていた。俺がハルの話に茶々を入れる。ハルがそれに切り返す。ナツミは笑っていたが、アキはなんていうか、やれやれみたいな、困ったような微笑みを浮かべていた。
「シャコバサボテン? サボテンなのか、俺は」
アキは静かに頷いた。長い長い列がほんの少し進んだ。
「花言葉は、『つむじまがり』。あなたにピッタリじゃない?」
ハルとナツミは大笑いした。間違いねえなとハルは言った。つむじまがり。それはまあいいとしても、まさかサボテン呼ばわりされるとは。
アキはなにかにつけて花言葉を口にする。自分から積極的に喋ることはないが話を聞くのがうまかった。なにか返答を求められると花言葉を入れて返した。
「ねえ、松茸の花言葉ってなんだと思う?」
ハルとナツミは二人でなにかを話していた。ここで間に入るのは野暮だなと思わせるようなその種の親しさが二人にはあった。アキもそれを察してか黙っていた。しばらく俺たちを通り過ぎていく人たちやたまに現れるキャラクターを眺めていた。それだけでも退屈はしなかった。不思議と沈黙が心地よかった。列が動いて歩みを進めた。すぐにまた止まる。そのときアキが俺にそう言った。
「キノコだろ? 花言葉なんてあるの?」
「『控えめ』らしいよ。よく言うよって感じじゃない?」
アキの印象は生真面目そうだなといった感じだった。外見もクールというかすっきりと整っていて、冷静で落ち着きのある雰囲気だった。だから最初はどうも話しかけづらくてどうしたものかと思っていた。だけど少しずつ話していくうちにアキの内面にある、静かな温もりのようなものを感じて横にいるととても心が安らいだ。
いつの間にかハルとナツミがいなくなっていた。ハルのことだろう、気を遣って二人きりにしてくれたってわけだ。俺はあえてその二人がいないことには触れなかった。アキも気づいているのかいないのか、別に気にしている風ではなかった。
陽が傾いてきてパレードが始まるころには、どちらからともなく、俺とアキは手を繋いでいた。
高二の春休みにハルから連絡があり、ディズニーランドへ行かないかと誘われた。最初は彼女と二人で行けと断ったがハルの彼女のお父さんが会社でもらってきたかなんかで、チケットが四枚あるとのことだった。二回行けばいいじゃんと俺は言ったがハルはそれを笑って受け流した。
結局ハルの彼女のナツミとその友人のアキ、ハルと俺の四人で行くことになった。
春休みともあって園内は死ぬほど混んでいた。東京駅から京葉線に乗ったころからある程度覚悟はしていたがそれにしても混んでいた。
カリブの海賊やジャングルクルーズなどアトラクションで遊んでいるうちに、アキと俺も少しずつ喋るようになってきた。遊ぶ時間よりも待っている時間のほうが長くてその間はナツミが喋っていた。ハルもそれに合わせるようにときおり喋っていて、アキはそれをふうんとか、へえとか相槌を入れながら聞いていた。俺がハルの話に茶々を入れる。ハルがそれに切り返す。ナツミは笑っていたが、アキはなんていうか、やれやれみたいな、困ったような微笑みを浮かべていた。
「シャコバサボテン? サボテンなのか、俺は」
アキは静かに頷いた。長い長い列がほんの少し進んだ。
「花言葉は、『つむじまがり』。あなたにピッタリじゃない?」
ハルとナツミは大笑いした。間違いねえなとハルは言った。つむじまがり。それはまあいいとしても、まさかサボテン呼ばわりされるとは。
アキはなにかにつけて花言葉を口にする。自分から積極的に喋ることはないが話を聞くのがうまかった。なにか返答を求められると花言葉を入れて返した。
「ねえ、松茸の花言葉ってなんだと思う?」
ハルとナツミは二人でなにかを話していた。ここで間に入るのは野暮だなと思わせるようなその種の親しさが二人にはあった。アキもそれを察してか黙っていた。しばらく俺たちを通り過ぎていく人たちやたまに現れるキャラクターを眺めていた。それだけでも退屈はしなかった。不思議と沈黙が心地よかった。列が動いて歩みを進めた。すぐにまた止まる。そのときアキが俺にそう言った。
「キノコだろ? 花言葉なんてあるの?」
「『控えめ』らしいよ。よく言うよって感じじゃない?」
アキの印象は生真面目そうだなといった感じだった。外見もクールというかすっきりと整っていて、冷静で落ち着きのある雰囲気だった。だから最初はどうも話しかけづらくてどうしたものかと思っていた。だけど少しずつ話していくうちにアキの内面にある、静かな温もりのようなものを感じて横にいるととても心が安らいだ。
いつの間にかハルとナツミがいなくなっていた。ハルのことだろう、気を遣って二人きりにしてくれたってわけだ。俺はあえてその二人がいないことには触れなかった。アキも気づいているのかいないのか、別に気にしている風ではなかった。
陽が傾いてきてパレードが始まるころには、どちらからともなく、俺とアキは手を繋いでいた。
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