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I can not forget about you.
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翌日から通常通りの仕事に戻った。僕を心配して様子を見に来てくれたデイヴィスに全部話してしまって、それで「殴りに行く」だの「行っちゃダメ!」だのと攻防はあったけれど、最終的に誰にも話さないという約束を取り付けることができた。
がむしゃらに過ごしていると、時間の過ぎるのはあっという間のことで、気がつけば二ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。件のダントン・ノレッジ様は、ちゃんとアウグスト様のために動いてくれていた。
ついでに言えば、僕の実家に大金を送りつけて困らせてもいた。手紙でその事について問い質されて、僕がどれだけ困ったことか! 建前上は僕のことには触れていなかったそうだけど、顔を合わす機会が増えて早々なんだから「お前、何かしたのか?」って聞かれるよね、そりゃあ。追及かわすの大変だったんだからね!
……ふっきれたと言えば嘘になる。でも、出来るだけ気にしなくても済むように、僕は仕事に励むのだ。それは文官としての表向きのものだったり、影の騎士としての裏の仕事だったりした。女装して情報収集したり、時には魔法薬で性転換して馬鹿を罠に嵌めたり。
ダントン様は僕と顔を合わせないように気を使っていたようだから、僕もあえて会いに行ったりはしなかった。それでも彼に似た後姿を見かけるたびに、胸がズキズキと痛んだんだ。これって、どういう意味なんだろうね?
僕とダントン様の出会いは、物心がついた頃に連れて行かれたあのひとの誕生日の祝いの席でだった。と言っても、僕は遠くから大人に囲まれていた彼を見ていただけ。父さんが「彼が将来お前の主人になるべきお方だよ」と教えてくれたんだ。
それから何度か同じような席で見かけるようになった。僕は使用人としての下積みをしていたから、決して参加者としてではなかったけど、それでも出会いは出会いだ。ダントン様の方でも僕を知っていたかどうかは分からない。でも、僕が騎士学校に入る直前になって、いきなりそれがなかったことになった。あのひととはそれで終わり。ただ、それだけの関係のはずだったんだ。
でも、いつの間にか惹かれていた。軽薄にすら思えるあの飄々とした態度も、タレ目がちなにやけ面も、どこか懐かしくて側にいると安心した。だからこそ、ちょっとおふざけが過ぎて普通だったらクビにされちゃうようなことをしたり言ったりしてしまうんだけど。きっとそれが主従ってヤツなんだと思うんだ。だから、ねぇ。謝らなくたっていいから、やり直させてよ、ダントン様……。
な~んて、殊勝なことを考えていた矢先にバッタリ顔を合わせてしまった。応接間にお茶を出すように言いつけられた相手がダントン様だったんだよね。少し熱めの紅茶に角砂糖を三つ溶かして、ミルクはなし。目の前でくるくるとスプーンを掻き混ぜていると不思議そうに僕を見つめる目とぶつかった。
「どうぞお召し上がりください、ノレッジ様」
茶化すように声をかけると、ダントン様は妙なことを言った。
「……オレを、覚えているのか?」
そのひとことだけで充分だった。この野郎、僕に忘却魔術をかけやがったんだ、道理で最初記憶が曖昧だったわけだよ! でも残念だね、本物の魔術が使えないアンタの術は効かなかったみたいだよ。まったく、記憶を消して僕から離れて……そこまで疎んじるくらいなら、僕に気がある素振りなんかせずに、最初から無理やり抱いてヤリ捨てにすれば良かったじゃないか。
僕は胸の痛みを無視して、にっこり微笑んだ。いつもの営業スマイル、猫かぶりして見えるように。そっちがその気なら、付き合ってあげるさ、この間抜けなお芝居にも。
「もちろん、存じ上げておりますよ、ダントン・ノレッジ様。僕はリズボンですので、主を見間違えるはずがございません。お茶の好みも把握しております」
「そうか、……リズボンだからか」
「はい。ハリーと申します、よろしくお願いいたします。あなた様のお世話を申しつかっております、お気軽に何でもお言いつけくださいね」
ローテーブルの側に跪いて、お茶をサーブした姿勢のまま挨拶をした僕は、軽く頭を下げて離れようとした。それを、手首を掴んで引き留めたのは……。
素早く被さってくる唇。避けようと思えば避けられた。でも、僕は受け入れてしまった。舌の上に広がるソーマの味にうっとりしてしまう。僕の体に流れる魔力がソーマと反応して心臓が熱く、苦しくなっていく。思わず目じりに浮かんだ涙をダントン様が指で掬った。
「こういう、御奉仕も期待していいのか?」
「っ、ええ、もちろん。夕食後にお部屋に伺いま……」
「いや、今がいい。今すぐ抱きたい。いいか?」
「……はい、ダントン様」
この応接室は城にいくつかある内のひとつで、今日はもう使う予定はない。それでも誰かが来る可能性があるのでしっかりと施錠する。仕事場と言ってもいいようなこんな場所で、これから行われる行為を思って僕は赤面するのを抑えられずにいた。出ていこうと思えばそうできるのに、僕は自分から好んでここを閉じたのだ。
ダントン様はソファに腰掛け、腕を広げて僕を呼び寄せる。皮肉げに口許を歪めて笑う彼の足の間に膝を入れ、僕はダントン様の腿の上に半ば座るようにしてソファに体重をかけた。まるでこどもが父親に抱きつくように首に腕を回して。でもこれはそんな可愛いものじゃない。
「逃げてもいいんだぞ?」
そう、嘯いて僕の体のあちこちにキスするダントン様。逃がしてくれるつもりなんて、ないくせに。もう何もかもぶち撒けてしまおう、全部覚えていると言ってしまおう、そう思いながら、僕は床に座り込んで彼の分身を口で愛撫した。淫らな水音が静かな部屋に響く。頭を撫でられるのが心地好くて、僕はまだ触れられてもいない部分を熱くしてしまっていた。
「……もう、いいぞ。いい加減、出しちまいそうだ」
「ろうぞ、らしてくらはい」
「馬鹿、そんなとこで喋るな。口に出すなんて勿体ない、ちゃんと楽しみたいからな。ほら、お前も下を脱いでこっちに尻を向けろ」
「はい……」
ローテーブルに両手を突かされて、僕は脚を広げた。自然に閉じようと動いてしまう腿を、ダントン様の大きな手が撫で上げたかと思うと、後ろの孔に太い指がつぷん、と入ってきた。
「っ!」
グリグリっと動かされて、続けて二本目もすぐに突き入れられる。高価な香油の匂いが鼻をくすぐる。慣らされている間にも声が出てしまいそうなのを必死で耐えていた。
「声出せよ。聞きたい」
「で、でも……んっ!」
「可愛い声を聞かせてくれよ……」
「んああっ、拡げないでぇっ!」
中に入っていた指が卑猥な動きで僕を翻弄するせいで、思わずきゅうっと締め付けてしまった。自分でするよりも何倍も気持ち好いのだから仕方がない。指が引き抜かれて、代わりに宛がわれるのはもちろん……
「あぁんっ!」
その身を貫かれた瞬間、待ちわびていた本物が与えてくれる快楽に目眩さえ覚えた。手足の力が抜けそうなのに反して、締め付けることだけは忘れない僕の体。倒れてしまわないように踏ん張って、僕はダントン様を受け入れた。
僕の腰を掴む手が熱くてゾクゾクする。それが他のどこに触れられることがなくても、ただの処理だとしても構わない。深く抉ってくる動きにまるで女の子みたいに喘がされながら、僕は久しぶりの人肌の温もりに、行為に、溺れていた。
「クソッ、中に出すぞ……受け止めろ!」
「んっ! はぁっ……!」
中で彼のが弾けるのに合わせて、僕もまた果てていた。
がむしゃらに過ごしていると、時間の過ぎるのはあっという間のことで、気がつけば二ヶ月が過ぎ去ろうとしていた。件のダントン・ノレッジ様は、ちゃんとアウグスト様のために動いてくれていた。
ついでに言えば、僕の実家に大金を送りつけて困らせてもいた。手紙でその事について問い質されて、僕がどれだけ困ったことか! 建前上は僕のことには触れていなかったそうだけど、顔を合わす機会が増えて早々なんだから「お前、何かしたのか?」って聞かれるよね、そりゃあ。追及かわすの大変だったんだからね!
……ふっきれたと言えば嘘になる。でも、出来るだけ気にしなくても済むように、僕は仕事に励むのだ。それは文官としての表向きのものだったり、影の騎士としての裏の仕事だったりした。女装して情報収集したり、時には魔法薬で性転換して馬鹿を罠に嵌めたり。
ダントン様は僕と顔を合わせないように気を使っていたようだから、僕もあえて会いに行ったりはしなかった。それでも彼に似た後姿を見かけるたびに、胸がズキズキと痛んだんだ。これって、どういう意味なんだろうね?
僕とダントン様の出会いは、物心がついた頃に連れて行かれたあのひとの誕生日の祝いの席でだった。と言っても、僕は遠くから大人に囲まれていた彼を見ていただけ。父さんが「彼が将来お前の主人になるべきお方だよ」と教えてくれたんだ。
それから何度か同じような席で見かけるようになった。僕は使用人としての下積みをしていたから、決して参加者としてではなかったけど、それでも出会いは出会いだ。ダントン様の方でも僕を知っていたかどうかは分からない。でも、僕が騎士学校に入る直前になって、いきなりそれがなかったことになった。あのひととはそれで終わり。ただ、それだけの関係のはずだったんだ。
でも、いつの間にか惹かれていた。軽薄にすら思えるあの飄々とした態度も、タレ目がちなにやけ面も、どこか懐かしくて側にいると安心した。だからこそ、ちょっとおふざけが過ぎて普通だったらクビにされちゃうようなことをしたり言ったりしてしまうんだけど。きっとそれが主従ってヤツなんだと思うんだ。だから、ねぇ。謝らなくたっていいから、やり直させてよ、ダントン様……。
な~んて、殊勝なことを考えていた矢先にバッタリ顔を合わせてしまった。応接間にお茶を出すように言いつけられた相手がダントン様だったんだよね。少し熱めの紅茶に角砂糖を三つ溶かして、ミルクはなし。目の前でくるくるとスプーンを掻き混ぜていると不思議そうに僕を見つめる目とぶつかった。
「どうぞお召し上がりください、ノレッジ様」
茶化すように声をかけると、ダントン様は妙なことを言った。
「……オレを、覚えているのか?」
そのひとことだけで充分だった。この野郎、僕に忘却魔術をかけやがったんだ、道理で最初記憶が曖昧だったわけだよ! でも残念だね、本物の魔術が使えないアンタの術は効かなかったみたいだよ。まったく、記憶を消して僕から離れて……そこまで疎んじるくらいなら、僕に気がある素振りなんかせずに、最初から無理やり抱いてヤリ捨てにすれば良かったじゃないか。
僕は胸の痛みを無視して、にっこり微笑んだ。いつもの営業スマイル、猫かぶりして見えるように。そっちがその気なら、付き合ってあげるさ、この間抜けなお芝居にも。
「もちろん、存じ上げておりますよ、ダントン・ノレッジ様。僕はリズボンですので、主を見間違えるはずがございません。お茶の好みも把握しております」
「そうか、……リズボンだからか」
「はい。ハリーと申します、よろしくお願いいたします。あなた様のお世話を申しつかっております、お気軽に何でもお言いつけくださいね」
ローテーブルの側に跪いて、お茶をサーブした姿勢のまま挨拶をした僕は、軽く頭を下げて離れようとした。それを、手首を掴んで引き留めたのは……。
素早く被さってくる唇。避けようと思えば避けられた。でも、僕は受け入れてしまった。舌の上に広がるソーマの味にうっとりしてしまう。僕の体に流れる魔力がソーマと反応して心臓が熱く、苦しくなっていく。思わず目じりに浮かんだ涙をダントン様が指で掬った。
「こういう、御奉仕も期待していいのか?」
「っ、ええ、もちろん。夕食後にお部屋に伺いま……」
「いや、今がいい。今すぐ抱きたい。いいか?」
「……はい、ダントン様」
この応接室は城にいくつかある内のひとつで、今日はもう使う予定はない。それでも誰かが来る可能性があるのでしっかりと施錠する。仕事場と言ってもいいようなこんな場所で、これから行われる行為を思って僕は赤面するのを抑えられずにいた。出ていこうと思えばそうできるのに、僕は自分から好んでここを閉じたのだ。
ダントン様はソファに腰掛け、腕を広げて僕を呼び寄せる。皮肉げに口許を歪めて笑う彼の足の間に膝を入れ、僕はダントン様の腿の上に半ば座るようにしてソファに体重をかけた。まるでこどもが父親に抱きつくように首に腕を回して。でもこれはそんな可愛いものじゃない。
「逃げてもいいんだぞ?」
そう、嘯いて僕の体のあちこちにキスするダントン様。逃がしてくれるつもりなんて、ないくせに。もう何もかもぶち撒けてしまおう、全部覚えていると言ってしまおう、そう思いながら、僕は床に座り込んで彼の分身を口で愛撫した。淫らな水音が静かな部屋に響く。頭を撫でられるのが心地好くて、僕はまだ触れられてもいない部分を熱くしてしまっていた。
「……もう、いいぞ。いい加減、出しちまいそうだ」
「ろうぞ、らしてくらはい」
「馬鹿、そんなとこで喋るな。口に出すなんて勿体ない、ちゃんと楽しみたいからな。ほら、お前も下を脱いでこっちに尻を向けろ」
「はい……」
ローテーブルに両手を突かされて、僕は脚を広げた。自然に閉じようと動いてしまう腿を、ダントン様の大きな手が撫で上げたかと思うと、後ろの孔に太い指がつぷん、と入ってきた。
「っ!」
グリグリっと動かされて、続けて二本目もすぐに突き入れられる。高価な香油の匂いが鼻をくすぐる。慣らされている間にも声が出てしまいそうなのを必死で耐えていた。
「声出せよ。聞きたい」
「で、でも……んっ!」
「可愛い声を聞かせてくれよ……」
「んああっ、拡げないでぇっ!」
中に入っていた指が卑猥な動きで僕を翻弄するせいで、思わずきゅうっと締め付けてしまった。自分でするよりも何倍も気持ち好いのだから仕方がない。指が引き抜かれて、代わりに宛がわれるのはもちろん……
「あぁんっ!」
その身を貫かれた瞬間、待ちわびていた本物が与えてくれる快楽に目眩さえ覚えた。手足の力が抜けそうなのに反して、締め付けることだけは忘れない僕の体。倒れてしまわないように踏ん張って、僕はダントン様を受け入れた。
僕の腰を掴む手が熱くてゾクゾクする。それが他のどこに触れられることがなくても、ただの処理だとしても構わない。深く抉ってくる動きにまるで女の子みたいに喘がされながら、僕は久しぶりの人肌の温もりに、行為に、溺れていた。
「クソッ、中に出すぞ……受け止めろ!」
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