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第1章
【エルフであり、エルフでない者】
しおりを挟む『クイン・キャベンディッシュ』
その美貌は老若男女問わず、通行人の視線を独り占めする。
だが尖った耳を見ると、女性たちはため息をするのであった。
「エルフじゃ逆ナンもできないじゃん」と。
エルフと人間の交わりは禁忌とされている。
六法全書の一番最初のページから、エルフに関する法律が載っていて、司法試験の必須科目に『エルフ法』が入っていることは法学部生にとっての当たり前である。
だが、クインはエルフではない。
エルフではある。しかし、エルフではない。
何を言っているのか分からないかもしれないが、深い事情があるのである。
「入るぞ」
クインは雑居ビルの三階へボロボロの階段を上ってドアを叩く。
ドアは鉄製で、重く分厚い。警戒感の表れであろう。
カシャンとスライド式の覗き窓が開き、クインと同じく紺碧の瞳が見える。
「・・・・・・ボス。どうぞ」
ドアが開くと、そこには数日前にケンへ短刀を向けたモルがいた。
シュッとした身体に、これから就職面接でもするかのようなスーツ。言われなければ女性に見えない。ツリ目がちなその眼は、愁いを帯びている。
エルフは五感が鋭い。
ゆえに、この部屋に入った瞬間からクインの鼻は曲がりそうになった。
ワンフロアをぶち抜いてちょっとした工場のようになっている。そこで作業をしているのは、耳の尖ったマスク姿の同胞たち。
クインも彼らも、上記の通り、エルフであってエルフではない。
エルフは成人の儀式として『刻印』と呼ばれるものを、地域を統括する上級エルフたちが授けられるのだ。
しかし、クインらにはそれがない。
すなわち、正式なエルフと認められていないのである。
クインは両親が技術者だった。
そして、枢軸国の大日本帝国が技術の提供と引き換えに社会的地位を約束したために、来日してきた。
だが、戦争の混乱の中で両親は死に、クインは孤児になった。この薄汚れたラボにいるのは、そういった孤児たち。もしくはエルフの法律や掟を破った者たちの子供。
エルフの世界では、親の罪を償うのはその子息なのである。
彼らは侮蔑を込めてこう言われる『エルフ擬き』
日本では戦後から二十一世紀の今日まで『シラミ』と差別され、食料品を売ってもらえなかったり、無理に働かされたりなど、様々な苦渋を味わっている。
ゆえに、ケンが口を滑らせたときにモルがその首に冷たい刃を突き立てたのだった。
さて、そんな悲しき境遇の彼らはどうするのか?
答えは簡単。仲間で集まり、そしてそれ以外を信用しなくなる。
クインは『バラス』という名の愚連隊を戦後混迷期に創設し、以後は『シラミ』となった者を見つけては助け、保護し、温かい食事を与えた。
愚連隊ゆえに手荒なこともしたが、身体能力は『擬き』だろうとなんだろうと人間の比じゃない。力にものを言わせて手にいれた。
エルフにもなれず、かといって人間社会にも居場所がない彼ら。
他にどんな生き方があっただろうか?
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それは、誰にも分からない。
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