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やわらかな春休み
しおりを挟む卒業式が終わると、すぐに修了式の日も訪れ、春休みが始まってしまった。
冬休みの時のような強烈な不快感こそありはしなかったけれど、それでも私はまたもせっかくの長期休業を友達のあれこれだけを考えながらスタートさせてしまっていた。
舞先輩が変なことを言うから……。
ヒナはほんとうにこの町からいなくなってしまうのだろうか。なんでいなくなる必要があるのだろう。もしいなくなるのならそれはいつ頃なのだろう。
しかし、当然私の思考はどこへも行けず、それはおろか心の深みへすらも潜っていくことができなかった。
そこにはそれを邪魔するだけの雑音があった。
リビングのテレビにお昼のメロドラマが映し出されているのだ。
私はソファに座ってそちらに視線を送ってはいるけれど、頭の中はヒナやナナのことでいっぱいで、ドラマの内容は何も頭に入ってはいなかった。
隣のソファに横になったまま、ママはテレビの画面に釘づけになっている。
何がそんなに面白いのだろう。そう思いながら改めて画面をしっかりと見つめてみれば、そこでは情熱的なキスシーンが行われていた。
私はその光景に思わず目を細める。恥ずかしさではなく、呆れに似た感情がそこにはあった。この時間のドラマは節操なくキスばかりするから嫌いなのだ。それにここまでの熱いキス……これはきっと不倫のシーンだろう。
ため息交じりに目線をママの方へと流してみれば、ママは特に感情の起伏もないまま淡々とせんべいを齧るばかりだった。そこには興奮も怒りも呆れもない。私はそれを不思議に思った。ならばなぜママは、毎日毎日飽きもせずにこのドラマを観ているのだろうか。
疲れ切った頭が鈍い音を立てて僅かに駆動し、それから私は洗練されないままの考えをママへと託した。それはママへの信頼の現れかもしれなかった。
「ママってさ、もしかして不倫がしたいの?」私は力なくそう言う。
ママは一度こちらを見て、それからなんでもなかったかのように再びテレビの方を見た。
「別に興味ないかなー」とママは言う。「ねえ葵。ママは不倫がしたいからって理由で、こういうドラマを観てるわけじゃないんだよ?」
「じゃあなんでこんなものを観るの? だってこれ不倫なんだよ? 結婚って永遠の愛を誓い合うもののはずなのに」
私は蔑むような目でテレビの画面に映った二人を見る。しかしその二人のひどく満足そうな表情を見ていると、なぜだかその先の侮蔑の言葉が出てこなくなってしまう。それはとても不思議な感覚で、まるで心と体が別のことを考えているみたいだった。
「葵にはまだわからないかもだけど……」ママは注意深く言葉を選ぶ。「要はこの二人にとってのこの瞬間は真実なのよ。ほんとうの気持ちで惹かれ合っているからね」
「ほんとうだからって許されるわけじゃないよ」
「許してもらう必要はないのよ。許すだとか許さないだとか、そういうのって集団でいるときにしか出てこない作業だから。でも、心の底から愛し合う二人の頭の中では、『もうこの世界には私たち二人だけしかいない!』ってことになってるのよ。だからそこには許してくれる人すらいないの。都合の良い話だけどね」
私は二人の頭の中の世界を想像する。暗闇の中で二つの愛が混ざり合って高速で回転し、それ以外のものを跳ね除けていく。しかし、そこまでして手に入れた二人だけの世界には、光はなく、終点すらない。ならばその世界はまるで……。
「夢みたいなところだ」あるいは死後の世界のようにも思える。
「現実から逃げているように見える?」
「自分の頭の中に閉じこもってるんだから、そういうふうにしか見えないよ」
「そうだろうね。だから結局、これは葵にはまだ早い話ってわけなのよ」ママはそう言ってくすくすと笑う。「でも葵ももう中学生だから、憶えておいた方がいいかもね。人それぞれに感じている世界の重みは違っていて、ひとつの常識だけで測っていては、必ずどこかで不和が生じてしまうってことくらいは」
「ふわ?」
「関係がギクシャクしちゃうってこと」
「関係がギクシャク……」それは今の私にはとても聞き逃せない言葉だ。「ねえママ、その話、もう少し詳しく聞かせてくれない? 私、友達の気持ちがわからなくて困ってるの」
私の差し迫った声色にただ事ではない雰囲気を感じたのか、ママは寝ころんだまま首を曲げ、上目遣いで鋭くこちらを睨みつけてくる。しかしその瞳はもう既に、私の心の奥深くまで届いてしまっているようにすら思えた。ママの長い髪がまるで蛇のようにソファへと絡み付き、それを見ている私の身動きさえも止めてしまう。
だけどママからは何も言わなかった。どうやらこちらの様子を確認しているだけのようだったので、私の方から再び話を続けることにした。
「えっと、ヒナとナナのことなんだけどね? なんだか私、最近二人の考えてることがよくわからなくなってるみたいなの……」
そう言って、私はヒナがたっくんに告白をしたあの日へと記憶をぐんぐん遡っていく。その際に勢い余って、吉野に意地悪を言ってしまったことも思い出したけれど、それは、今は語る必要のないことだと思った。
「ヒナが去年の二学期の終わりに、好きな人に告白したの。ずっと好きだった人。それでヒナはその人にフラれて、それを境に私たちから離れていくようになった。でもねママ、ヒナはフラれたことがショックだったからっていう理由で、私たちから離れていったんじゃないみたいなの。ヒナは告白する前から恋よりも本気で打ち込める何かを見つけていて、それに集中するために、長かった片想いを片づけたってことみたいなんだよね」
「ふーん」私の話が途切れたところを見計らって、ママはあまり気の利かない種類の相槌を打つ。それから体勢を元に戻して、テレビの方を見た。「つまり、陽菜ちゃんが葵や奈々子ちゃんから離れたのは、あの子がその何かを今でも追い求めているからってことになるわけだ。陽菜ちゃんの性格ならママもよく知っているつもりだけど、あの子ならそういう選択をしてもおかしくないと思うな。幼稚園の頃からロマンチストだったし」
「そうなの?」
「ロマンチストでもないと、十年近くも同じ人を想い続けることなんてできないでしょ」
ママの言葉にはどこか悪戯じみた響きが感じられた。ひょっとしたらヒナの片想いの相手を知っていたのかもしれない。
それからママは続ける。「それで、葵は陽菜ちゃんの何がわからないの?」
「え?」私はママの突然の質問に呆気に取られてしまう。
それからこれまでの話を頭の中で洗い直して、ヒナについての情報を纏める。しかし考えるほどに、ヒナの行動について異常なものなど何もなく、そのすべてが道理の通ったことのように思えた。
いったい私は、ヒナの何がわからなかったのだろう。
ママは何事かと訝しげにこちらを見たが、やがて私の表情から何かを読み取り、勝手に何かに納得して再びテレビへと向き直った。
「それじゃあ、次は奈々子ちゃんのことも聞かせてもらおうかな」とママは言う。
「ナナのこと……」私はそう呟くことで意識の行く先をヒナからナナの方へとシフトさせていく。「ナナはヒナの告白を応援してたはずだったの。でもその結果ヒナが離れて、ナナは私がそうだったみたいに体調を崩した……いや、多分私以上に。それから、お正月にナナと私はヒナの口から夢についての話を聞いた。私はそれで納得したんだけど、ナナは今でもどこか腑に落ちてないみたいなんだよね」
私の話を受け、ママはしばらく静かに唸った。考えを纏めているのか、あるいは納得のいかない点があったのかもしれない。しかしどちらにせよ、ママにとってナナの問題はヒナのそれよりいくらか複雑なものであるようだった。
やがてママは口を開く。「葵、陽菜ちゃんはこの後どうすると思う?」
ここでヒナの話に戻るのか、と私は思った。「夢を追い続ける……のかな」
「ねえ、それって学校にいながらでもできることなのかな。夢を追い続けるって、要は好き勝手に自分のしたいことをするってことだよね。学業と似た性格のことならまだしも、もしそれがまったく別の性格のことなら……陽菜ちゃん、最近ちゃんと学校に来てる?」
「三学期はほとんど来てなかった」
「それじゃあ、転校とか、考えてるのかもね」とママは出し抜けにそんなことを言う。
「なんでそうなるの?」私は舞先輩の忠告を思い出していた。ヒナがこの町から姿を消してしまうかもしれない。ママまで同じことを言うのか。
「こういう寂れた田舎町はね、夢を叶えるのにはあまり適してないのよ。いやまあ、私の想像してる女の子の夢がアイドルだから、もしかしたら陽菜ちゃんの場合はそんなこともないのかもしれないけれど」ママはそこで一度言葉を区切る。「ほら、陽菜ちゃんって早くにお母さんを亡くしてるでしょう? それでお父さんは独立開業をしているから、それなりに仕事のフットワークも軽い。仕事だけじゃなくて考え方も軽いのよね、あの人。悪口じゃないのよ? むしろ今の時代においてこれは褒めるべきところなの。いかにも夢とかそういう話が好きそうな人でね。葵は知らないだろうけど、あの親子、葵が幼稚園に入る直前にこの町に引っ越して来たのよ? だから、陽菜ちゃんがもしそれを望んだのなら、そういう結末になってしまってもおかしくはないと私は思うのよ」
情報の氾濫に私は混乱してしまう。「えっと、つまりどういうこと?」
「つまり、陽菜ちゃんが転校するのに必要な条件は揃ってるってこと。奈々子ちゃんだって、そういうことを意識しちゃってるから、未だに思い悩んでるんじゃない?」
「ナナはそんなことまで考えてるのかな」
「奈々子ちゃんって気の利く子でしょう? ああいう子はすべからく孤独を恐れているものなのよ。気を利かせるっていうのは集団を維持させるための行為だからね。だから、引っ越しっていう具体的な話にまでは行きついていなくとも、陽菜ちゃんが自分たちから離れてしまうかもしれないという恐怖は、奈々子ちゃんの中ではひどく大きなものになっているんじゃないかな」
私はヒナとナナが見ている世界を想う。「人それぞれが感じている世界の重み」
「その通り。奈々子ちゃんにとっては友達、陽菜ちゃんにとっては夢が重い。感じている重さは想いの強さで決まる。世界の形はそれぞれ歪で、だからこそ別々の世界が近づくと摩擦が生まれて、関係に不和が生じる。人の心はパズルのピースのように必ずしもパチリと音を立ててハマってくれるわけじゃない。だから、そういうときには相手の立場になって物事を考えてみるの。相手の形に合わせてあげるということね。そうすれば少なくとも考えていることを理解してあげることはできる。納得はできないかもだけどね。まあ、私もそういうことをそれなりにできるようになったのは最近なんだけど」
私はママの理屈を頭の中で整理し、そして飲み込む。ならば私の想いは。
すっきりとした頭で、ママの白髪の交じったつむじを見つめる。
「でも、相手の立場になって物事を考えられる人が、寝転んだまま人の話を聞くかな」
「文句があるなら、もう少し難しい話を持ってくることだね」ママはそう言うと体を捻らせてうつ伏せになり、こちらを見つめる。「この話の答えは最初から全部葵の中にあった。私はそれを取り出して見せただけ。こんなの相談というより確認に近い」
私はママからもらったものを確かめる。「そんなことはないと思うけど」
「じゃあ結局、葵は陽菜ちゃんや奈々子ちゃんについて何がわからなかったのかな。考えていることがわからないって言ってたけど、それは本当だった?」
それは結果的には嘘だった。私は二人の気持ちのほんとうのかたちを知っていた。
ママはおもむろにソファから立ち上がると、こちらのソファに腰を掛け、私の頭を抱き寄せた。懐かしい匂いがした。張り詰めていた気持ちが解きほぐされていく。
「葵は私とパパの子なんだから。それくらいはわかるように育ててきたつもりよ?」
「でも、本当にわからなかったの。なんにもわからなかった」
頭のなかの痺れが消え、心が空間に溶け出していくのを感じる。涙の予感がした。私は目をつぶり、それらの感覚の動きを静かに見つめていた。
「ならそれはきっと、二人の心のかたちを理解したうえで、葵自身がどうやってそのかたちに合わせていけばいいのか、そちらがわからなかったのかもしれない」
ママはそう言って私の頭をゆっくりと撫でる。そのたびに柔らかな熱が体の奥深くへと染み込んでいく。それは忘却の果てにある記憶のドアをノックする。
「私、ヒナのこともナナのことも受け入れたい。だって二人とも友達だから」
「それなら受け入れる準備をしてあげなくちゃいけないね」
「受け入れる準備?」ママの胸の中で、私の思考はミルクのようにとろけてしまう。言葉は子守歌のように心地よく私を鈍化させていく。
「そう。葵の方から陽菜ちゃんと奈々子ちゃんに近付いて、二人の言葉をそれぞれありのままに受け入れる。それをするための準備」
「何をすればいいの?」
「二人の話をよく聞いて、それについて相手の立場で考えて、そこに葵なりの言葉をぶつけてみる。この三つを憶えておくことかな」
私は普段の自分自身について考えてみる。「いつもやってると思うけど……」
「よく考えてみて? 葵はいい子だから、人の話をよく聞くことはできているかもしれない。でもそこで出てきた言葉を相手の立場に立って考えられていた? 例えばさっきのドラマだって。何かを理解する前に、自分の先入観だけで言葉をぶつけていなかった? それだと葵の言葉も意味を持たなくなるし、ピースは上手くはまらない」
私はもう一度自分自身の発した言葉について細部まで思い出そうとする。しかしそれは思うように記憶の沼底から浮き上がってはこなかった。頭も回らない。集中力のほとんどはもうとっくにママの胸の中でとろけてしまっているのだ。
「上手く思い出せない」言葉は重たく口を突いた。
ママは困ったように鼻を鳴らす。「まあ、仕方ないか。でもこれだけは憶えておいてね。『相手の立場に立って物事を考えてみること』。そうすれば、いつか自然と葵の言葉が意味を持ち始めるから」
ママの助言がそれで終わっていたかどうかはわからない。
私はそのまま気を失うように、深い眠りの中へと沈んでしまったから。
私はその日の夕方にリビングのソファで目を覚ます。
頭が疲れていたせいか、夢を見た感覚は無かった。
灰色のブランケットが体に掛けられていた。
天井の電気が弱いオレンジ色の光を放ち、広いリビングの一角を照らし出していた。台所の方から包丁の子気味の良い音が聞こえる。テレビが森のさざめきのように小さく鳴っている。それは夕方のニュース番組のようだった。
私は天井を見つめ、眠りにつく前の記憶をぼんやりと掘り起こす。
ママと話をしていた。ヒナとナナの話。とても大事な話をしたような気がする……。
私はブランケットを床に落として、ゆらりと上体を起こす。
寝起きで体が火照っていた。喉も渇いている。
私は台所に向かい、冷蔵庫からアップルジュースのペットボトルを取り出した。
「お、起きたか」私に気付いてママが言う。
「うん。よく寝たよ」と私は答える。私は意識してママと目を合わせないようにした。寝起きの状態の私をママに見透かされても仕方がないのだ。それは徒労でしかない。
ジュースをたっぷりとコップに注ぎ、それを飲み干す。
体がじんわりと目覚めていく感覚があった。ほどなくして頭も覚醒するだろう。
「寝る前にした話、ちゃんと憶えてる?」とママ。
「最後の方が思い出せない。大事な話だった気がするんだけど」
「相手の立場に立って物事を考えてみること。大事な話はそれだけだよ」
「相手の立場に立って、物事を考えてみること……」言いながら、私はそれを想像してみる。相手の立場に立つこと。その場所から考えてみること。ナナの立場。ヒナの立場。
「今日のお昼のドラマを憶えておくといいかもね。あの時、キスをしていた二人は何を考えていたのか。二人にはどのように世界が映っていたのか」
私はお昼に想像した、二つの愛が暗闇の中で高速で回転するビジョンを思い出す。その特徴的で固有性のあるビジョンは、なぜだか私の脳裏に強く焼き付いてしまっていた。
「わかりやすいかもしれない」と私は答える。
「それなら、しばらくはあのキスシーンを憶えておくことになりそうだね」ママはそう言うと、安心したようにくすくすと笑った。「ねえ、誕生日プレゼントは決まってるの?」
「誕生日?」私は反射的にナナの誕生日に起こったできごとを思い出す。日が暮れるまでクロを追いかけたあの日のことだ。
ママは呆れた様に言う。「やっぱり忘れてたんだ。明後日は葵の誕生日でしょう? なんだかいろいろと大変みたいだけど、欲しいものが決まったら言いなさいね」
「明後日……」
私は冷蔵庫にマグネットで張り付けられたカレンダーを見つめ、修了式の日付から一日一日と数えて今日の日付へと辿り着く。そして二日後の三月三十日は、たしかに私の誕生日だった。カレンダーにはママの文字で、『葵、十四歳!』とのメモがなされている。
「別に焦って決めなくてもいいからね」。きっと私の真剣な表情を見てママはそう言ったのだろうが、私はそのときまったく別のことを考えていた。
誕生日。これは口実としては十分に機能する。ナナがそうしたように、この日にならば私もワガママを押し通すことができる。そして今の私には、ママに教えてもらった大きなヒントがある。相手の立場に立って物事を考えてみること。あのキスシーンを足掛かりにすれば、私はその言葉をいつだって思い出すことができる。
この友情のためになら、ナナの立場にだって、ヒナの立場にだって立ってやる。
私は奥歯を噛み締め、鋭いまなざしで再びカレンダーを見る。
「今年も三人でお祝いするのかな?」
ママは相変わらず私の心を見透かしてくる。
「うまくいけばいいんだけど」
「それは、葵次第だ」包丁を置いて手を洗う。濡れた手をエプロンで拭いたあと、ママは目線を合わせて私の頭を軽く撫でた。「まずは予定を立てないとだね」
「明後日なのに?」
「何かを達成しようとするときには、まずは予定。ゴール地点とおおまかな道筋を考えて、それを何度も頭の中で考え直してみるの。そしたら次第に細かな道筋も見えてくるから」
ママは身振り手振りを交えてコミカルに話す。まるでナナを見ているみたいだった。
「それってつまり、考え続けろってこと?」
「物事とは真剣に向き合いなさいってこと」ママは私の頭を二度ぽんぽんと叩くと、再び台所へと向かう。「ゆっくり、じっくり、考え続けるの。今日は葵の好きなカレーよ?」
「ありがとう、ママ。私、やってみるよ」
胸のあたりの緊張がほぐれ、心に考えるだけの十分なゆとりができる。
まだ材料を切っているだけのはずなのに、ママのカレーの匂いがした。
晩御飯ができるまでの間、私は部屋にこもって予定を立てることにした。
ドアを開けると、どこからかクロがやって来て、私より先に部屋へと入っていった。
部屋の電気を点けると、ベッドの上ではいつものようにシロが丸くなっていた。
私は予定を真剣に立てるために一度は勉強机に座ってはみたものの、やがて紙に書くほどのものだろうかと思い、部屋の電気を消し、ケータイを枕元に置き、ベッドに寝転んだ。
目をつぶって、暗闇の中で考えを巡らせる。誕生日は明後日。明日はパーティーグッズを買い揃えて、それからまたケーキを買わなくちゃいけない(いや、ケーキは当日の方が良いだろうか……)。ヒナとナナに連絡の電話を入れて、当日はナナを連れてヒナの家に行く。ナナの家の方が大きくてパーティー向きだけれど、どちらかといえばヒナについての方が込み入った話になるだろうから、ヒナのホームグラウンドの方が良いだろう。それにヒナがわざわざ家から出て来てくれるとも思えない。きっとお正月のときだって頑張って時間を作ってくれたんだ。
私はそこまで予定を立ててから、考えることを中断する。
寝起きの頭ではこれだけでも疲れてしまう。
冷たい暗闇の中で、熱くなった頭を冷却させていく。
私はドラマのキスシーンを思い出してみる。
二人の情熱的なキスのカットから、愛が高速で回転するビジョンへと徐々に切り替わっていく。きっとこのどうしようもない回転が、ヒナやナナのなかにもあるのだ。自分のなかだけで世界が回転し、周囲の要素を弾き飛ばしていくような強烈なビジョンが。
それは夢の世界でもあるが、同時に死後の世界でもある。
私が連れ出してあげなければ。
「連れ出せるかねぇ。なぁ、アオイ」
聞き慣れない声がした。それは酷くぬらぬらとした低い男性の声だった。
私はすぐに起き上がって部屋のなかを見渡そうとしたが、まるで知らない力に体全体が押さえ付けられているみたいで、指の一本さえもまるで動かすことができなかった。
暗闇の中でシロのふたつの瞳がきらめいているのが見える。彼は私のお腹のところに座り込み、眠る私を音もなく見下ろしていた。
「誰かいるの?」私の問いかけは暗闇のなかへと吸い込まれていく。そこには空洞が残す特徴的な音の余韻が感じられた。
「なあ、いま目が合ったろうよ」。再び男の声が響き、続けて私の胸の上でシロが鳴き声をひとつあげた。「長い付き合いじゃねえか。わかってくれよ」
私は彼の光る瞳をしばらく見つめてみる。「……シロ、なの?」
「おうよ。ご主人」とシロは言う。「なあ、どうするつもりなんだい? ヒナとナナ」
「シロにそんな話して、どうするのよ」
「どうもならねえさ。どうもならねえからこそ話せることもある。だろ?」
シロの言うことは正しかった。私の頭のなかだけで考えるにもそろそろ限界がある。私は誰かと相談しなければならない。しかしその相手は私以外の人間であってはならないのだ。これは私が一人で解決しなければならない事柄だから。
「だから俺に話してくれればいい。いつもそうだったろう。俺はアオイ以外の誰とも話はしないさ。すべてはアオイの独り言だ」
そうだ。いつもそうだった。いつだってシロは私の話を聞いてくれていた。
「ねえシロ。私、ナナは誘っても来れないんじゃないかと思うの」
「あぁ、俺もそう思うぜ。なんてったって俺がそれを許さないからな」
「シロはなんでナナや舞先輩を迷わせるの?」
「ナナの方は言いがかりだな。あの日、アオイとナナを迷わせたのはクロの方だろう?」
「違うよ。クロが迷わせてるのはヒナの方。そうでしょう?」
シロの瞳の光が細くなる。「へえ、アオイはなかなか筋が良い。どこかのボンクラと話しているのとではワケが違うぜ。なぁクロさんよ」
「お前はいちいちひと言が余計にゃ」それは苛立ちを含んだ若い男の声だった。
私は唯一動く目玉だけをぎょろぎょろと動かして、部屋のなかをできる限り見渡してみる。視界の端に、シロのそれと同じような二つの光を私は見つけることができる。
「クロもいるの?」暗闇に私は問う。「ねえ、どうしてクロはヒナを迷わせるの?」
「ヒナが迷っているように見えるのは、あくまでアオイの立場からの話にゃ」とクロは言う。「ヒナはただひたすら前に進んでいるだけ、にゃ」
アオイの立場。ならヒナの立場からでは? いや、それでもこれは間違っている。前に進むこと自体は間違ってはいないけれど、それを選択するまでのアプローチに歪みがある。
「そんなの、私たちから目を逸らしてるだけだよ。もし前に進むとしたって、私たちにひとこと言ってからでもいいじゃない。ヒナは周りが見えなくなってる。回転を止められなくなってるの。落ち着かなきゃ駄目だよ。こんなの絶対間違ってるんだから」
「間違っていようが関係ないのさ」とシロは言う。「それはナナやマイだって同じだった。わかるだろうよ、アオイ。あいつらだって間違っていると理解しながらも、黒猫の動きを一方的に押さえつけようとした。他人の自由を奪う権利なんて、誰にもないんだぜ」
「そんな難しい話はしてないでしょ」私はシロの瞳を強く睨みつける。「ヒナもナナも少しずつ間違ってるだけ。ただそれだけなの。だから私が少しずつ直してあげればいい」
「それじゃあヒナをどう直すか聞かせてもらおうかにゃ」クロの声はどことなく怒りの色を帯びている。「アオイだって、どうせ白猫たちみたいにヒナを縛り付けようと考えているんだろう? 黒猫は不幸を呼ぶからと、お前たちは殺すんだにゃ」
「そんなこと考えてない。さっきも言ったでしょ。私はただヒナに話をしてもらいたいだけ。何も言わずにいなくなるなんて、そんなの絶対におかしいんだから」
シロははぁとため息をつく。「なぁアオイ。お前は何の権利があってそこまでヒナを縛るんだよ。お前はあの子の何なんだ?」
「私はヒナの友達だよ」
「それだってアオイの立場からの話だろう。友達ってのはいつだって曖昧な概念だ。お前が友達だと思っているからって、ヒナもそう思ってるとは限らないんだぜ」
私は少しだけシロの言い分について考えてみようとしたが、それはすぐに空論の堂々巡りへと行き着いた。もしかしたらシロはお馬鹿な猫なのかもしれない、と私は思った。
「つまらないこと言わないでよ。私とヒナが友達だってことくらい、シロならちゃんとわかってるはずでしょ? もちろんナナだってそうだし……」私はそこまで言って、この話はほとんど意味がないということに気がつく。本筋から逸れてしまっているのだ。「ねえ、私はこんなことを話したいわけじゃないの。シロもクロも、私の邪魔をするのはやめなさいってことを言いたいの」
「それは無理だぜ」とシロは言う。「俺たちはどこにでもいるんだ。もしどうしてもって言うのなら、町にいる俺たちを一匹一匹見つけて、注意でもして回ってやることだ」
「適当なことを言うにゃよシロ」とクロ。「本気にするにゃよアオイ。そんなことをしても時間の無駄にゃ。猫はいくらでも湧いて出てくるし、消えろと言って消えるものでもない。だから、限られた猫とだけコンタクトを取ればいいのにゃ」
限られた猫。「それってどんな猫なの?」
「ヒナとナナの近くにいる猫、にゃ。とりあえずはそいつらを追い払ってやればいい。マイセンパイの時みたいに」
私は舞先輩の細い指先に遊ばれていたシロのことを思い出す。
「ナナの近くにいる白猫を追い払えば、私はナナと一緒にヒナに会えるのかな」
クロはすぐには答えてくれなかった。瞳の光がいくらか薄くなって見えた。
「そいつは無理な話だな」とクロの代わりにシロが答える。「ナナはいまこの俺を強く欲している。絆のピンはとても深いところにある。とても一朝一夕で済む話には思えない」
「ナナを諦めろって言うの?」
「そんなことは言ってない。絆は深いところにあるというだけで、複雑なところにあるわけじゃない。時間が経てば俺は自然と出て行けるようになる」
シロはまたも意図して論点をずらそうとしていた。私は彼のそういうじれったい話し方に苛立ちを覚える。「つまり、今回は我慢しろってことなんでしょう?」
「そういうことだな」
「わかったよ」私は気持ちを切り替える。期限が決まっているのだから、こればかりは仕方のないことだ。「じゃあクロの方は? ヒナからは離れられそうなの?」
「それは心配いらないにゃ」クロは柔らかい口調でそう答える。「ヒナは長い間かなり深いところまで潜っていたようだけれど、今はもうこちら側に戻ってきている。今回の旅がひと段落したのかもしれないにゃ」
「でも、ヒナはすぐにまた行っちゃうんでしょ?」そして、次のときはきっと……。
「大きな流れまでは変えられないさ」。シロはまたもクロに代わって話を結論へと落とし込んでいく。それが二匹の間での彼の役割なのかもしれない、と私は思った。
「わかってるよ、シロ」私は息を吐いて思考から熱だけを慎重に取り除く。「私たちはもうある程度ヒナを諦めなきゃならない。そういうことなんだね」
「その通り」シロの声は依然として冷たく部屋に響く。そこには空洞を思わせる特徴的な反響がある。「どれだけ失うかは、あとはアオイ次第だ」
私はシロの助言を沈黙でもって受け取る。それは既に覚悟の上なのだ。「シロもクロもありがとね」私はそう言って静かに目をつぶり、暗闇の層から浮上していく。体が浮遊し、徐々に上昇していく感覚がある。布団が体の上から剥がれ落ち、屋根をすり抜け、やがて空を覆い尽くす分厚い雲のなかへと入っていく。
「明日はひとつ奇跡が起こる」シロの声が遥か遠くの方から聞こえる。
「それはきっとアオイのパワーを証明し、解き放ってくれるにゃ」クロの声はすぐ近くから聞こえた。「よく考えて世界を見つめ続けることにゃ。諦めないためにも」
「私は諦めないよ」全部見極めてやるんだ。みんなのためにも。私のためにも。
雲の層の先で太陽のシルエットが顔を覗かせた頃にその夢は中断され、私は部屋のベッドの上で目を覚ます。今度は体が自由に動いた。シロもクロも部屋のなかにはいたが、二匹ともそれぞれの定位置で丸くなっているだけだった(シロはベッドの上、クロは部屋の隅である)。現実に戻れば一秒ごとに夢の記憶から詳細がぽろぽろと抜け落ちていき、それはすぐに霧のかかった曖昧なものへと劣化していく。しかしそれはいつものことだ。今となっては、シロとクロが人間の言葉を喋っていたことだけを私は憶えている。枕元に置いたケータイを開けば、私は一時間ほど眠っていたらしいことに気がつく。
しかし不思議だ。リビングで寝た時は夢なんか見なかったのに。
※
翌日、私は誕生日のためのパーティーグッズを買いに、百均よりも少しばかり離れた場所にある寂れた百貨店へと足を運んだ。
わざとらしい原色で彩られた風化の目立つコンクリート製のその建物は、地元の人間でなければとても気軽に立ち寄れるような外観をしておらず、大型チェーン店がこの町まで幅を利かせてきている最近では客足もすっかり途絶えてしまっている(かく言う私も考えてみれば、ここに来るのは中学校入学の際に制服を仕立ててもらって以来だった)。
店内には流行遅れの大小様々な商品が何年も在庫として陳列されており、それらを見ていると、まるでお父さんやお母さんの世代にまでタイムスリップでもしてしまったかのような錯覚に囚われてしまう(きっと都会の人からしてみたら、この町自体が同じ錯覚を起こすほどに古ぼけて見えるのだろうが)。
建物は三階建てになっており、私の今いる一階には靴や衣服、鞄などを中心としたファッション用品が所狭しと並べられている。それらはすべて黒や茶色を基調とした重たい質感を持つ商品であり、私のような中学生に向けられたものでないことは明白だった。
だから私はいつもと同じようにそれらを適当に眺めながらも早足で店の深奥へと歩みを進めていくのだ。真っ黒のスーツや革の鞄、それらを通り抜けた先に二階へと続く階段が待っている。商品に包まれたその階段は、まるで秘密の抜け道のようにも見える。
階段を上り二階に出ると、私はすぐさまそのフロアにそっぽを向けて、三階へと続く階段を上っていく。これが私のこの店におけるいつもの行動パターンだ。つまり、私がここを訪れるときには、だいたいのところ三階にしか用はないのである(ルートは毎回同じだから、二階にどんな商品が並べられてあるのか私は未だによく知らない)。
三階へと続く階段では、両サイドのスペースに、花の出るステッキや、安っぽいシルクハットなど、簡単なマジックに使うおもちゃが展示されている。そこで私はいつも足を止め、それらの珍しい商品をじっと眺めてしまうのだが、しかしそれこそいつも何かを買うまでには至らないのだった。それはきっと場所のせいなのだろうな、と私は思う。だって今からフロアに入ろうというのにそこで早々に買い物を始めてしまうのもおかしな話だし、フロアに入り買い物を済ませ、満足したその帰りにまた何かを買おうというのも不自然な話だろう(実際はきっと他に置き場所がないからそこに置いているだけなのだろうが)。
さて、そういうわけで三階へと辿り着けば、まず始めに私の目に飛び込んできたのは学生鞄や子供サイズのウインドブレーカーなどのいわゆる子供用品である。私はそれらを悠々とすり抜け、店の更に奥深くへと潜っていく。
私の目指す場所はあくまで深奥であり、もっと言えば異界のようなところなのだ。そこではこの店のほとんどを占めていたはずの布地の商品たちが途端に鳴りを潜め、その代わりにひと昔もふた昔も前のアニメのおもちゃやプラモデル、ゲームソフトなどが、いかにも売れ残りといった具合で陳列されているのだ。
私は三階全体を取り仕切る小さなレジカウンターの奥を覗き込む。誰もいない。いつもならばここにレジ番のおじいちゃんがいるはずなんだけど……杜撰だ。
「おぉ、お客さんか。いらっしゃい」おじいちゃんは陳列棚の端から私の姿を見つけると、お守り程度に軽く杖をつき、こちらへとゆっくり近づいてくる。もう片方の手にはハタキが握られていた。
背はちょうど私と同じくらいで、少なくなった髪は真っ白。老眼鏡をチェーンで首から下げていて、口元はたっぷりの髭に隠れている。商品の説明に入ると話が長くなっちゃうんだけど、その笑顔はどこか幼く、人懐っこい。
「おじいちゃん、あんまりレジ空けない方が良いよ? 強盗が来たらどうするのよ」
「盗られて困るほどたくさん入っとりゃせんよ」おじいちゃんは老眼鏡を掛けてこちらを見つめる。慎重に目を細め、まるでそこにある光景に真実を求めているようだった。目線の高さも私と同じだ。「おや、もしかして葉月さんとこの娘さんじゃないか?」
遠巻きな反応に私は少し不安になる。「あれ、私の名前忘れちゃった?」
おじいちゃんは明後日の方角を見つめ、指でこめかみを二度コツコツと叩く。「葵ちゃんだ」おじいちゃんはその指でこちらをさす。「綺麗な名前だから、憶えていたよ」
「そんなこと言われたことないけどね」
突然のロマンチックな言葉に、私は少し照れてしまう。
「また大きくなったもんだ」おじいちゃんは満足そうに笑った。「それで、今日はどうしたね。ここに来るのは随分と久しぶりだろう」
「うん、ヒナとナナ……えーっと、ナナは中学で友達になった子ね。その二人と一緒に誕生日パーティーをしようと思ってて、なんかおもしろいパーティーグッズはないかなーって。それで今日は来てみたの」
「そいつは楽しそうで何よりだ。はて、どの子の誕生日かね」
そう尋ねられて、私は初めて自分がおかしなことをしているのに思い当たる。それは言葉にするには恥ずかしいことだった。頬に熱を感じる。「えっと、私の、なんだけど……」
「ほう、それはそれは」おじいちゃんは一瞬戸惑ったようだったが、すぐに優しく微笑んでくれた。「葵ちゃん、誕生日はいつかな?」
「明日なの」
「いくつになる」
「十四。私は早生まれだから、これでやっとみんなに追いつくよ」
「そうかそうか」おじいちゃんは噛み締めるように頷いた。「来年は三年生かい?」
「うん」
「早いもんだ。つい昨日中学に上がったみたいだね」
「そんなことないよ。最近じゃあ一ヶ月が一年みたいに感じるし」
「悩み事があるのかい?」
「それを解決しようとして、今こんなことをしてるのよ」私は微笑む。
「解決はできそうかい?」
「納得はできると思う」
「それは何よりだ」おじいちゃんは安心したように微笑んだ。「酷く入り組んだ世の中だ。すぐに解決できることは少ないからね。まずは納得してあげることが肝要だ」
「解決までにはまだまだ掛かりそうだよ」
「仕方ないさ。追い風が吹くまでの間、ゆっくりと付き合ってあげなさい」
「風か」私はたっくんや舞先輩のことを思い出す。彼らの問題もまた根が深く、きっと追い風によって突然解決された種類のものだったのだろう。
私たちにも――とりわけヒナにも、そういう時がいつか来るのだろうか。
「頭の片隅でいい。ただ憶えてさえいれば、きっと風は吹く。しかし諦めてしまえば、風が吹いても肌で感じることができなくなる。そういうものなんだ」
たっくんも舞先輩もきっとそうだったんだ、と私は思う。二人は長い間ずっと問題を諦めずに、いつもどこか頭の片隅でそれを憶えていたんだ。だから風が吹いたとき、すみやかにそれに乗ることができた。
「わかるような気がする」と私は言う。「風に乗れた人を二人見たよ。二人ともすごく滑らかに飛んでた」
「いざというときに滑らかに飛べたということは、その二人がずっと問題の解決を望んでいたということだ。濃密なイメージトレーニングが、風との摩擦を減らしてくれる」
「私も飛べると思う?」
「さあ。それはこれからの葵ちゃん次第だろうね」
「厳しいんだから」。しかし私はそれで満足だった。
おじいちゃんもすべてを理解したというふうにゆっくりと笑う。「それじゃあ葵ちゃんに叱られたことだし、おじいちゃんはレジに戻ろうか」
「今日はおもちゃの説明はいいの?」
「遠慮しておくよ。話が長くなると嫌がられてしまうからね」
私は苦笑いを浮かべる。いよいよ誰かにそう言われてしまったのだろうか。
今日は一緒にいて欲しかったんだけどな……。
「じゃあ、わからないことがあったら呼ぶね」
「わからないことなんかないだろうさ」
おじいちゃんはレジの後ろにある椅子に腰を掛け、文庫本を開く。
私はその姿を見届けてから、陳列棚の隙間へと潜っていった。
浅い場所にある陳列棚から徐々に深いところへと潜っていく。
ロボットもののプラモデルの棚を抜け、ミニ四駆の山を通り過ぎ、少女向けアニメのおもちゃコーナーで立ち止まる。
これもまた私のいつもの行動パターンだ。そこには私が幼稚園や小学生の頃に夢中になっていたアニメのグッズが所狭しと並べられている。
魔法少女が魔法でコッソリみんなを幸せにするアニメや、美少女が精霊の力で変身し、悪の組織を倒していくアニメ、ペットたちと平和な日常を送るアニメなど。当時はヒナと毎日のようにそれらについて語り合ったものだった。中学に上がったばかりのときにも、ナナが当時それらを観ていたということで、アニメの話は中学生の三人を引き合わせるのにひと役買ってくれたりもしたのだ。
私はそのコーナーのなかから魔法少女のステッキの入った箱を手に取る。魔法の呪文はいまでもしっかり憶えている。ヒナとナナはまだ憶えているのかな。
私はやがてその答えを諦めるようにステッキを棚へと戻す。こんなものは冗談でも買ったりはしない。パーティーに使えるかは微妙だし、何よりもまずお金が足りなかった。
ゲームソフトの棚を過ぎると、そこはいよいよ店の最深部となる。そこでは野球盤やすごろく、オセロなどの巨大なテーブルゲームの箱が異彩と威圧感を放っていた。
これらとなると、いよいよおこづかいでは追いつかない……。
そんなことを思いながら大きな箱の山を見上げていると、視界の端から私と同い年くらいの男の子がその商品棚へと入ってくる。
大きなキャップに黒いブルゾン。ガムを噛む音。誰だろう。私は横目で彼のシルエットを確かめる。この狭い町でならば、彼が私の知っている人間でも不思議ではないが。しかし大型チェーン店の方ではなくこの店に足を運ぶだなんて……よほどのもの好きだろうか。
「あれ、お前、葉月じゃないの?」男の子はぶっきらぼうに話しかける。
その声には独特の親しみがあり、どこか温かみすら感じる。
私は彼の顔を見る。「吉野?」
そこにいたのは似合わない格好をした吉野だった。二学期の頃に私とヒナの前の席に座っていた吉野。二学期の終業式を休んだ吉野。私が酷い態度を取ってしまってから、話といえる話をできていなかった、あの吉野だ。
いつも通りに彼はポケットに手を突っ込み、生意気な態度でそこに立っていた。その大きなキャップの中身は、いまでもきっと気持ちのいいスポーツ刈りのままなのだろう。
「なんでここにいるの?」と私は尋ねた。
「なに、俺がこの店にいちゃあ悪いの?」それはいつも通りの憎まれ口だった。
「そんなこと言ってないじゃん!」
「冗談だよ」熱くなった私を見て、彼は満足したというふうにあざ笑う。「お前こそ、なんでこんなオンボロの店に来てるわけ? 女は百均だろ? ここにプリクラはねえぞ」
「私、そんなにプリクラ撮らないし」
「知るかよ」吉野はうなじをぽりぽりと掻く。
「えっと、私はね、パーティーグッズを買いに来たの。明日は私の誕生日だから」退屈そうな彼を見て、私は焦って会話を繋ぐ。私はまだ彼に対して後ろめたい気持ちがあるのだ。あのとき酷いことを言ってしまったから……。
「パーティー? そういうのならそれこそ百均だろ」
「いやいや、掘り出しもの、というか……おもしろいものがあったらいいかなーって。百均だといくら探しても同じようなものしか出てこないでしょ?」
吉野はニッと歯を見せて笑う。「へえ、さすがは葉月だ。わかってるな」
「わかってる、のかな」吉野なんかに褒められたのに、私は不思議と照れてしまう。
「あぁ、お前はホントに男みたいだからな。我が強いというか、しっかり目の前にあるものひとつひとつに目を凝らしてる。ふつう女なんかすぐ適当に話をあわせるだろ? おもしろくないんだよな、ああいうの」
また男子みたいだと言われてしまった。もうこれは仕方のないことなのだろうか。しかし今回ばかりは褒められているみたいだったので、あまり悪い気はしなかった。
「つまり、私はしっかりしてるってことだ!」
吉野は目を細める。「今日は妙に素直だな。なんか気持ち悪い」
「え?」
「男みたいだって言われてるんだぞ?」
「いやいや、なんか言われ慣れちゃって」へらへらと私は笑う。吉野はしばらく無言のままに、おかしなものでも見るような目つきでこちらを睨みつけていたから、私は続けて話を切り出すことにする。吉野との間には、今ここで解決しておかねばならない急ぎの問題があるのだ。これが最後のチャンスになるかもしれない。「ねえ、吉野。去年の二学期の終業式ってさ、なんで休んだの?」
「は?」吉野の顔全体を疑惑の色が覆い尽くす。「なに、その話」
「二学期の終業式、吉野、休んだでしょ?」
「……そうだっけ?」
「憶えてないの?」私はこんなにも鮮明に憶えているのに。
「昔のことなんて、憶えてたって仕方ないだろ」
悔しさと気恥ずかしさで手が震える。頬が熱を持ち始め、妙な汗まで出てくる始末だ。しかしここで終わらせるわけにはいかない。私の問題はまだ解決していない。
「私、あの前の日に吉野に酷い態度取っちゃったでしょ? だからそれで――私と顔合わせたくなくて、吉野休んだのかなって」
「もしかしたら、そんなことがあったのかもしれないけどさ」吉野はまためんどくさそうにうなじを掻く。「別に俺は、そういうこと引きずったりしないし」
「そう、なのね」
胸の一番奥の方で何かが音を立てて外れた感覚があった。目立たないが、しかしそれは決定的な変化だった。心がみるみるうちに軽くなっていくのがわかる。想像していたより、これは私にとって大きな問題だったのかもしれない、と私は思う。
ならば私も、これで上手に飛べたのかもしれない。
吉野は私の様子を眺めて、やがて優しく微笑んだ。「満足した?」
「うん。吉野がずっと傷ついてなかったのなら、私はそれでよかったよ」
「変なヤツ」と吉野は言って、私から目を逸らす。「なんか悩み事でもあんの?」
「吉野には内緒」と私は答える。「それに、もうほとんど解決しちゃったし」
私は頭の中で、ヒナやナナとの間にあるあらゆる段階と時間を飛び越えていく。
飛ぶ感覚はわかったのだ。だから問題なんか、きっともうありはしない。
「そっか」と吉野は言う。「よくわかんないけどさ、あんまり考え過ぎない方がいいぜ。少なくとも俺くらいにはどっしり構えてないと駄目だな。どっしりと構えて、いろんな問題に自分の価値観をはめ込んでくのさ。わかる? そういうの」
「相手の立場に立って考えないと駄目だよ」と私は言う。ママからの受け売りだけど、この考え方を簡単に手放すわけにはいかないのだ。
「そういう基本的な話は、ここのおっちゃんにでもしてやりなよ」
私は彼の発言の意図するところを考えてみる。「吉野、もしかして、おじいちゃんになんか言った?」
吉野はいたずらっぽくにやりと笑う。「『商品の説明はやめてくれ』って言った。あれはみんな嫌がってるだろ。だからそれをしっかり教えておいた」
「おじいちゃん、それ絶対ショック受けてたよ」
「知らないね。踏み込むところは踏み込んでやらないと駄目だ。無意味な先延ばしはお互いのためにならない。それに、お前も助かっただろ?」
「そんなことないし」それは半分嘘だった。
「どうだか」吉野は見透かしたように鼻で笑う。「『優しい嘘もある』とか大人はよく言うけどな、あんなのはだいたいの場合においては、波風立てたくないだけなんだよ。単なる自己防衛。自分が悪者になりたくないだけ。そこに相手に対する優しさなんてものはこれっぽっちもありゃしないの。だからいつもこうやって、俺がやらなきゃいけなくなる」
吉野の突然の熱弁に、私は思わず呆気に取られてしまう。口はぽかっと開いたままになっていただろうし、まばたきだってとても多くなってしまったと思う。
吉野が一見して正しそうなことを言っている。他ならぬ、あのガサツな吉野が。
「どうしたんだよ」と吉野は言う。私が突然硬直したのを不思議に思ったのだろう。
私は彼の問いかけで我に返る。「え? いや、なんでもないよ」
「嘘だね。絶対に生意気なことを考えてた」と、吉野はまるで私の心を見透かしたように、そう言った。「言っておけよ。またあとで謝る羽目になったら手間だろ」
私は彼のその言葉にハッとする。私は今、無意識のうちに吉野のことを傷つけないようにと咄嗟に嘘をついていた……するとこれが、彼の言ったその場しのぎの『優しい嘘』ということになるのだろうか。そして今と同じようにして、私はおじいちゃんとも向き合ってしまってはいなかったか。真実を先延ばしにし、そこに現れた歪みを放置し続ける。私のそんな態度が、このように様々な要素が複雑に絡み合った状況を生み出してしまったのだとは考えられないか。
吉野のことを信じるべきなのかもしれない、と私は思う。
「俺を信じておいたほうがいいぞ」と、吉野は痺れを切らしたように言う。「この場合はまず間違いなく俺の言うことの方が正しいし、それに俺はお前の本音なんかにショックを受けたりはしない。歪みが生まれるのは、お前がそれを飲み込んだときだけだ」
彼の言い分に納得し、私は決心する。「吉野のくせに、いろいろ難しいこと考えてるんだなって。そう思ったの」
吉野は人差し指でこちらをさす。「あぁ、考えてた通りだ」
「許してね?」
「怒ってないから」吉野はまるで赤子に言葉を教えるように、はっきりとした口調でそう言った。「お前がそういう事なかれ主義的な態度から少しでも変わってくれるのなら、俺はそれだけで満足だから」
「事なかれ主義?」
「波風立てないように、相手のことを傷つけないようにって、そういうことばかり考えて生きてるやつのこと」
「でもさ、ママが言ってたんだけど、相手の立場に立って物事を考えた方がいいんだって。そうじゃないと、相手の目から見える世界がわからないんだって」
「その言葉の意味するところはわからないけどさ」と吉野は言う。「『相手の立場に立つこと』と、『波風立てないこと』は同じじゃないだろ。相手の立場に立つことは重要なことだ。人はそれぞれ事情があるからな。だからそれを踏まえてとしても、間違っていると思うことがあるのなら、ちゃんと自分で言葉にしろよってことを、俺は言いたいんだよ」
「自分で言葉に」と私は呟く。「『私の言葉が意味を持ち始める』」。それは昨日、ママの胸のなかで眠りに落ちてしまうほんの少し前に、私が耳にしていたはずの言葉だった。
「そういうこと」と吉野は言う。「相手の立場に立ちたいのなら好きにすればいい。でもそうして感じた自分の意見を飲み込んでいるようじゃ、それはいったい何になるんだ?」
私は黙って彼の熱弁に耳をすませる。
「消極的じゃあ駄目なんだ。だって言葉は心なんだぜ? たとえそのときは我慢できたとしたって、いつかどこかのタイミングで必ず強く燃え始める。それってなんか意味あるのか? 不満が後に残るくらいなら、その場でしっかり言葉にしておくべきだろ」
吉野の瞳の奥の方で、見たことのない種類の炎が燃え盛っているのが見えた。その目には既に私の姿は映ってはいない。彼はいま誰に対して怒っているのだろう。私の知らないところで、いったい吉野はどんな人生を送ってきたのだろう。
吉野はある時点でふと我に返る。「ごめん。ちょっと熱くなった」
「気にしないで」と私は答える。「でも、ちょっと吉野のこと知りたくなったよ」
「俺のことなんか知らなくていいよ」
「吉野って、下の名前なんだっけ?」
「誠(まこと)、だよ」
「誠(まこと)、か」似合わない名前だ、と私は思った。もちろん、今の話を聞いていなかったとしたら、ということだけれど。「ありがとね、吉野。いろいろと心の整理がついたよ」
吉野は笑う。「名前聞いておいて、結局『吉野』なんだ」
「当然」と私は言う。「ねえ、一緒に選んでよ。おもちゃ」
「は?」吉野は反射的にそう言う。そしてそれから考える。「まあ、別にいいけどさ」
「さすが吉野だ。話がわかる」
「それはどうも」
それから私は吉野と一緒に、ヒナとナナが喜びそうなパーティーグッズを探すという名目で、実際的にはお互いの胸の内を見せ合うために、店のなかをあてもなく歩き回った。その間に私はヒナやナナの話を打ち明け、吉野は両親の話をした。吉野の先程の熱弁は、どうやら主に彼の母親に向けてのものだったみたいだ。彼の言う『事なかれ主義的な人間』とはまさしく彼の母親のことであり、ある意味においてはそんな母親に対しての父親の態度のことでもあったようである。私の両親とはまるで正反対だ、と私は思った。うちはママが傍若無人で、気に入らないことにはすぐに口を挟む性格だし、パパはそんなママの尻に敷かれてはいるけれど、ママのそういう実直なところが好きみたいなのである。
「黙り続けて、間違っているやつにへらへらしながら生きて、そんなのって絶対におかしいんだ」と吉野は言う。「だってそんな人生なら俺じゃなくてもいい。もちろん葉月、お前じゃなくてもだ。でもあいつら大人は、黙って生きていろと俺たちに命令する。それなら俺は、生まれてこなくてもよかった」吉野は後悔するように言葉を区切る。「大人たちだって何かに縛られていることはなんとなくだけどわかる。そういうことを話すときは、あいつら決まってどこか後ろめたいような顔になるんだ。俺は勉強もそこそこだし、それにどうしたってまだ子どもの立場だから、あの人たちの考えていることはわからないのかもしれない。でも、それでも説明くらいはして欲しいんだ。子どもにはわからないからっていつまでも切り捨てられるばかりじゃ、子どもの方だってやってられない」
私は隙を見て、気になっていたことを話すことにした。「ねえ、吉野さ、私のこと、事なかれ主義的な人間って言ったじゃん。もしかして私のことも大人みたいに見えたのかな」
「大人は子どもの言葉に耳を貸さない。お前はしっかりと俺の言葉を聞いてくれた。だからお前はまだ大丈夫だよ」
「そっか」と私は言う。「ねえ、私は吉野を助けたいと思うよ」
「お前じゃ無理だよ」と吉野は答える。「子どもの問題であたふたしてるようなやつなんかが、とても口を挟める問題だとは思えないね」
「解決するもん。明日」
「そうかい」
それからはもう、吉野は込み入った話をすることはなかった。古いアニメや特撮、プラモデルの魅力などの男の子らしい話が主となり、表情はだんだんと柔らかくなっていった。
心の底から楽しそうな彼を見て、これはこれでいいか、と私は思った。
※
人が歳を取るタイミングというのは、誕生日の、ちょうど産まれた時間ということになるのだろうか。いわゆる出生時間というものが訪れた瞬間、人はひと回り大きくなるのだろうか、ということである。
もちろんそんなことはない。人の体では誕生日とは無関係に、一秒という時間のなかで何千万もの新しい細胞が生まれ、そして同じく何千万もの古い細胞が死んでいるのだ。そうパパは言っていた。人は一秒ごとにどんどん新しい自分になっていく。それが人の成長というものだ、と。
ならば心の成長は? 歳を取るというのは、どちらかと言えば体の成長ではなく、個人的には心の成長の方が重視されているような気がする。大人っぽい人は落ち着いていて、子どもっぽい人はすぐに怒ったりする。私はそんな感じで人の成長具合を見極めているように思う。体なんてものは個人差ばかりでさっぱり当てにはならないからだ。
それでは心の成長とは、どのタイミングで行われるのだろうか。私は生きてきた時間の数だけ心は成長しているのだと思う。なぜなら、私がこれまで出会ってきた年上の人たちが、みんな私より大人っぽかったからだ。きっと時間の経過とともに人はいろんな経験や知識を重ね、そのぶんだけ心は強く研ぎ澄まされていくのだ、と思うわけである。しかしここで新たな問題が発生する。果たして時間というのは当てになるのか、ということだ。私はここ何ヶ月かの時間の流れを、まるで何年かという時間単位で行われているもののように感じてきた。それは永遠を思わせる、酷く苦痛な時間だった。逆にヒナやナナと教室で話しているときには時間は早く過ぎ、チャイムの音すら耳に入らなかった。時間が伸び縮みするのはなぜだろう。それは宇宙が歪んでいるせいだ。そうママは言っていた。私たちを覆う宇宙、それ自体が歪んでいるのだから、身の回りのあらゆる物事はみなある程度歪んでいるのだ、と。
ならばきっと心の成長もまた、時間の歪みにつられるようにして歪んでいるのだ。辛いときには時間は伸び、傷つけられた分だけ心は成長する。楽しいときには時間は縮み、甘やかされた分だけ心の成長は僅かなものになるのだろう。
そして私は今、酷く伸び切った時間の中で、やっとその試練を終えようとしている。
「どうしようアオアオ。いま公園にいるんだけどね、シロが逃げてるの」ケータイ越しにナナはそう言う。「首にピンクの鈴がついてるし、間違いないと思うんだけど」
やっぱりナナはここには辿り着けないんだ、と私は思う。きっとそのシロは舞先輩が連れていたのと似たようなもの。私の飼っているシロではない。
「うん、わかったよ」と私は答える。「じゃあさ、その子、捕まえといてくれないかな」
変なことを言っていることは自分でもわかる。しかしこう言ってあげるしかないのだ。だってナナは、ここには来たくないのだから。ヒナと会いたくないのだから。
「わかった。じゃあ、私は今日の誕生日パーティーには行けないね」と、どこか嬉しそうにナナは言う。彼女は自分の反応の不自然さに気付いているのだろうか。「残念だけれど、こればかりはしょうがないよね。じゃあさ、せめてここでお祝いさせてよ」
「うん、お願い」
「ハッピーバースデー! アオアオ!」
「ありがとう、ナナ。大好きだよ」
「何それ? なんか恥ずかしいな」
「言っておきたかっただけ。じゃあ、私行くね?」
「うん。ヒナによろしく言っておいて。じゃあね」
「わかった。ばいばい」そう言って私は電話を切る。
ケータイを上着のポケットに入れて、私は変わり種のパーティーグッズでいっぱいのビニール袋を握り直す。手に汗が滲んでいるのがわかった。
ヒナの家は団地にあるマンションの一室である。遊ぶときによく使うのは一軒家である私やナナの家だから、ヒナの家に入るときには私はどうしても緊張してしまう。
のっぺりとした高い建物。狭くて涼しい階段。それらは私にどうしても裏世界への入り口を連想させる。この先にいるのは本当にナナ? ひょっとしたら幽霊や悪魔の類ではないだろうか。ここに来ると決まってそんな想像が私の頭のなかを埋め尽くすことになる。
ヒナの家はここの四階にある。私は急な階段を一歩一歩踏みしめていく。階段を照らすための蛍光灯のひとつが、電力に喘ぐようにチカチカと点滅していた。
決意をもって階段をずんずんと上っていると、私はふとケーキを買い忘れたことに気がつく。でも、まあいいか、と私は思う。これはあくまでも私の誕生日だ。そんなもの無くても私は構わない。
四〇二号室――ヒナの家の前に到着する。前もって連絡はしていたから、チャイムを押すと、すぐにヒナは出てきてくれた。
「いらっしゃい、アオ」と玄関先でヒナは言う。彼女は長袖の白いシャツにジーパンを履いている。表情はどこかすっきりとしていて、目の下にあった黒いくまがすっかり無くなっていた。「ナナは来れなかったの?」
「うん。今度はシロに迷わされてるみたい」
「あの子らしい」ヒナはくすくすと笑ってから、私を家の中へと招き入れる。「入って」
「おじゃまします」
私は恐る恐る家のなかへと入っていく。
家には普通それぞれ暮らしている人の独特な匂いが染み付いているものだが、ヒナの家からはそれと言えるものがまるでしなかった。強いて言えば、それは空気そのものの匂いだった。あるいは真空の匂いなのかもしれない。
「もうほとんど引っ越しの準備は終わっちゃってて」言いながら彼女はリビングのドアを開ける。「ほら、家具がなんにもないでしょう?」
彼女の言う通り、そこにはもうふかふかのソファも大型のテレビもありはしなかった。ヒナの家は一軒家でこそないが、なぜだか家具はすべてが一級品だったのだ。
いま思えばそれは、いつでも出て行きやすいように、ということだったのだろう。
がらんとしたリビングを見渡してから、「私の部屋、行こうか」とヒナは言う。
しかしヒナの部屋にも家具らしいものはひとつとして残ってはいなかった。
私たちは向かい合って、剥き出しになったフローリングの上に座る。パーティーグッズの入ったビニール袋もそこに置いた。暖房はまだ生きているようで、ヒナの部屋だけはほんのりと温かかった。部屋の端に文庫本が三冊重ねて置いてあるのが見えた。
「電話で言ってたまんまだね」と私は言う。
「座布団か何かあったらよかったんだけど、今日の夕方には引っ越しちゃう予定だったから」とヒナは苦笑いする。「ねえ、ナナはなにか言ってた?」
私は首を横に振る。「私、ナナには引っ越しのこと、話してないよ。『ヒナの家でお誕生日会しない?』って誘ってみただけだから」
「ナナがここに辿り着けないって、わかってたから?」
「そう。それにそんなこと言わなくたって、ナナもこうなることはわかってただろうし」
「そっか」とヒナは言う。「じゃあ、アオは何しに来たのかな」
何をしに来たんだろう、と私は考える。「止めに来たとか、そういうんじゃないの。ヒナの夢を邪魔する資格は私たちにはないし……ただ、話をしに来たのかもしれない」
「話すべきことは少ないと思うけれど」
「わかってる。でも、ヒナの言葉で聞いておきたかったから」
部屋の隅にクロの姿がぼんやりと蜃気楼のようにして現れ、やがて鈴の音も響く。
「もしかしたら、言葉が鋭くなってしまうかもしれない」とヒナは言う。
「構わないよ」
ヒナは深く慎重に息を吐く。「私の夢と、この引っ越しについて、かな」
「正確に言えば夢のことでも引っ越しのことでもないんだけど」私はそう言って、彼女のなかで渦巻く混沌を前に心を整える。「ねえ、どうしてもこの町じゃ駄目なの?」
「駄目だよ」とヒナは言う。「私、気付いたの。こんなことを世界の隅っこでやっていたって、自分に対する慰めにしかならないんだって。たしかにその慰めに、これまで私は何度も助けられてきた。でもこれからはもう駄目なの。私は私と似た境遇の子どもたちを助けてあげたいと思ってしまったから」
「その子たちは、本当にこの町からでは助けられないの?」
「あるいはここからでも、子どもたちに形あるものを届けられるのかもしれない。でもそれでは足りないと思うの。だって私はこの透き通った小さな町のことしか知らないでしょう? 子どもたちが本当につらいときに見ている景色を知らないのかもしれないってこと。だから私は自らの魂をもっと深い闇に浸してあげなくてはならない。犇めき合う人々の心の闇を確かめなければならないの。本当の意味で子どもたちを救ってあげるためにはね」
私はヒナの背負った狂気の重さを理解する。クロは鋭い牙を剥き出しにしてこちらを威嚇している。そうだ。きっと摩擦のピンはこの態度そのものなのだ。
「ヒナの考えはわかったけどさ」と私は言う。「じゃあ、なんでそういう大事なことを正直に私たちに打ち明けてくれなかったの?」
ヒナは私の言葉を飲み込み、そして考える。
見るとクロも威嚇を止めているようだった。そのつぶらな瞳は私を見つめる。
私は続ける。「私たち、友達……だよね」
「それについては間違いないよ」とヒナは静かに断言する。「私、こんなに長く付き合えた人って他にいないから。二人といると落ち着くし、ずっと一緒にいたいとも思うよ」
「そう思ってくれてるのは嬉しいけど、それならなおさらわからないよ。なんで何も言ってくれなかったの?」
ヒナは腕を組んで唸る。「なんでだろうね。いま考えたら、言ってもよかった気がする」
「どういうこと?」
ヒナは先程より長く唸った。「つまり、言っても言わなくてもよかったってことなんじゃないかな。私の中では」とヒナは言う。「三学期、私はただ旅をして物を作っていただけだったし、引っ越しもそれの延長のつもりだった。でも、二人にとっては違ってたんだね?」
「当たり前だよ。友達が一人、突然どこか遠くへ行っちゃうんだよ? そんなこと、あの小さなナナに耐えられるわけがない」
「ということは、アオは大丈夫なんでしょう?」
私は黙って俯く。大丈夫だ、と口にしてしまうのはあまりにも間違っていると思った。私が苦しかったのは引っ越しのことではなく、たしかに心の距離のほうだった。しかし、それを正確に言葉にするのはとても難しいことだった。
ヒナはおもむろに私を抱き寄せ、額と額をこつんとぶつける。「だって、アオはそんなに弱くないもの。心の距離を見据えられるほどの器量がある。だから私はあなたを信じて、好きなときに離れていけるの。あなたがいつでも傍にいることをわかっているから」
私はヒナからそこまで信頼されていたとは知らず、初めてもらったその確かな言葉に涙が溢れ出してしまう。その涙には嬉しさと同じくらいに申し訳なさが入り混じっていた。
「でも私、冬休みに変になっちゃった。私、ヒナを疑ったことになる」
ヒナは考え、私の背中を手のひらでぽんぽんと叩く。「今回はナナがいたからだよ。あの子の生き方は感情的だから、きっとアオもそれに引き込まれちゃったんだね」
「ヒナは、ナナのことは信じてないの?」
ヒナは苦笑いする。「ナナはいい子だけど、感情的だから、正直ちょっと危険だと思ってる。特に今回みたいなデリケートな問題のときにはね。だからアオほどは信じられてはいないかもしれない。それでもナナの勢いがなかったら私は告白できてなかったわけだし、あの子はあの子で違う才能があるの。もちろん、アオと同じくらいには大好きだしね」
「よかった」と私は言う。「私は三人一緒がいいから」
「私もだよ」とヒナは答えて、くんくんと鼻を鳴らした。「私ね、アオは私と同じ匂いがすると思うんだ。アオなら私のいる場所まで辿り着いてくれると思うの。だから誕生日プレゼントは、私の好きな本を三冊あげることにしたんだ」
「それは、ナナじゃ辿り着けない場所なの?」
「ナナみたいな子がこちら側に来たら、多分戻れなくなっちゃうから。一歩間違えば死んじゃうかもしれないようなところだし……それに、あの子はきっと間違うよ」
「そう、なんだ」
「あの子の夢って、たしか幼稚園の先生でしょう? あの子はそういう白猫がたくさんいるところが向いていると思うの。私みたいに黒猫がうろうろしている場所まで来るべきじゃないし、あの子の愚直さは子どもたちには直で与えた方がいい栄養になると思うんだ」
「私は、ヒナみたいに黒猫のいるところまで行くべきなの?」
「正直なところ、私のほうが一人じゃ怖いの。黒猫なんかには絡め取られないだろうという自信もあるけれど、同時に殺されるかもしれないという恐怖もある。アオみたいな強い人が傍にいてくれると、本当に心の支えになると思うんだ」
私は無言で彼女の言葉に耳を傾ける。黒猫のいる場所。それはどんなところなのだろう。
「すぐに決めなくてもいいの」とヒナは言う。「あなたがあの三冊の本を読んで、黒猫のいる場所に行きたいと思ったのなら、そのときに連絡してくれればいいから」
「わかったよ」
「私、結構アオのこと買ってるんだからね」
私たちはそれからきつく抱き合った。その数秒の間、私は心を深く重ねることだけに集中していたけれど、ヒナの体はどこか小刻みに震えているようで、これから始まる旅の恐怖を必死に私へと伝えているみたいだった。
私たちはどちらからともなく抱擁をほどき、諦めにも似たため息をついた。
「じゃあ私、そろそろ行くよ」ヒナは立ち上がると、部屋の隅にある三冊の文庫本を手に取り、私へと差し出す。「ちゃんと読んでよね。何年経ってもいいんだから」
私はそれを受け取る。重ねられた三冊の文庫本は、まるでそこにあるのが当然であるかのように、滑らかに私の手に馴染んだ。「うん。わかったよ」
本の手渡しが終わると、部屋の隅にいた黒猫がそれを見計らったようにぴょんとヒナの肩へと乗り移った。
「クロも連れて行くの?」と私は問う。
「この子がいないと、とても続けられる仕事じゃないよ」ヒナは人差し指でクロの顔を撫でてやる。クロは今まで見たことないくらいに満足そうな笑顔をしていた。
それから私は二匹の猫について考えながら、ヒナに導かれるままに玄関の方へと進んでいった。玄関に着くと、ヒナは下駄箱の上に折り畳まれた小さなトートバッグを取り上げ、そのなかに三冊の文庫本を丁寧に収めてくれた。
「ねえ、ナナの白猫は追い払った方がいいんだよね?」と私は靴を履いてから言う。
「うん。この子たちは亡霊なの。私の仕事は亡霊と遊ぶ仕事だから、この子が必要になる。でもナナの場合は違う。白猫がナナの近くにいる限り、ナナは私の亡霊をずっと見続けることになるから。だから、追い払ってあげて。アオがナナに現実を与えてあげるの」
「でも、幼稚園には白猫がたくさんいるんでしょう?」
「白猫はたくさんいないと意味がないの。一匹だけだと黒猫より危険なものになる」
「わかったよ」私はそう言って、玄関のドアを開ける。
白猫と黒猫についての認識が私のなかでより強固なものとなる。つまり白猫はみんなと一緒にいたいという感情で、反対に黒猫は夢を追うために白猫たちから自由になりたいという感情なのではないか。そう私は考えるのだ。
「元気でね」とヒナは微笑む。
「ヒナもね」手を振りながら、私は空っぽになったヒナの家のドアを閉める。
その日の帰りに私は公園に寄った。夕暮れの公園のなか、ナナはベンチに座ったまま、見知らぬ子どもたちが遊具で遊んでいるところをぼんやりと眺めていた。長い丈の黒のダッフルコートが彼女の華奢な体を包んでいる。彼女の隣には見慣れた小太りな白猫の姿がある(もちろん鈴もついている)。それはきっとシロであり、同程度にシロではないのだろう、と私は思う。それはナナが『誰かと一緒にいたい』と思う感情そのものなのだ。彼は彼女と同様にベンチに座り、子どもたちをどこか遠い目で見つめていた。
彼女らのその虚ろな瞳は、まるで時間まで遡っているようにすら思えた。
同じ種類の瞳を私は見たことがある。それは無論、舞先輩の瞳である。
私は彼女らに近付き、ヒナとの件が無事終了したという旨を伝える。引っ越しのことは話さなかった。そのかわりに私は一つの真実として、ヒナが私たちのことをまだ好きでいてくれているという事実だけを、理由も含め集中して話すことにした。
ナナは私の報告を耳にこそ入れたものの、いつものミーハーな反応はさっぱりそこには現れることなく、彼女は静かにベンチを立つばかりだった。
「帰るの?」私は彼女の背中に問いかける。
「そうするよ」とナナは答える。白猫もまた彼女と同様にぐったりとした様子でベンチから降り、のそのそと彼女のあとをつけていった。
私はシロのずんぐりとした体を背後から持ち上げる。「じゃあ、シロは私が預かるからね」
「うん。なんか、ごめんね」とナナは言う。彼女は振り返らない。
「謝ることじゃないよ。お互い様だから」
「ねえ、アオアオ。私ね、始業式までは一人にして欲しいんだ」
「いいよ」と私は言う。「じゃあ、そのときになったら、いっぱい話をするね」
「お願い。そのときにはきっと、白猫を追い払っておくから」
「ひとつだけ約束して」と私は言う。「もしそれまでに白猫を追い払えなくても、絶対に始業式には来ること。いい?」
ヒナはこちらに背を向けたまま、涙を拭っているようだった。「ありがとう」
「いいのいいの。私にどーんと任せてよ。絶対に上手くやってあげるから」
「うん。ありがとう、アオアオ」ナナの声は上擦っていた。「アオアオは本当に、白馬の王子様みたいだね」
「王子様って……」あまりにも予想外な言葉に、私はぽりぽりと頬を掻く。「でもね、ナナ。私が女の子だってこと、忘れないほうがいいと思う。私だっていつ崩れるか、わかったもんじゃないんだから」
「わかってる」とナナは答える。「だから白猫を追い払って、きっと私も強くなるよ」ナナはもう一度涙を拭い、くるりとその身をひるがえす。「だからもう少しだけ、待っててね」彼女の涙で赤くなった目が、夕日に照らされてキラキラと輝いていた。
「うん。待ってるから」そう言って私ははらはらと手を振る。
「またね」ナナも同じように手を揺らし、やがて公園の外へと消えて行った。
公園に取り残された私は、シロのつぶらな瞳を見つめてみる。
「ねえ、私はどこに行くと思う?」
シロは私の背中を押すように、ぬらりとした鳴き声を上げる。
「私ばっかり、逃げてるわけにもいかないよね」
誕生日プレゼントには、パパにスマホをおねだりしよう、と私は思った。ナナをいつまでも一人で戦わせるわけにはいかない。彼女を舞先輩のようにしては駄目なのだ。
私はこれからヒナからもらった小説を読んで、同時にナナと一緒にここで戦うのだ。
私の手には三冊の本の入ったトートバッグが提げられ、同時にそこにはシロもいる。
私は赤く焼けた空を見上げる。きっとすぐに雪は解け切らないのだろう。しかしいずれはこんな雪国にも桜は咲く。咲かせてみせる。そしてヒナのところにもまた。
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