【完結】呪われ令嬢の幸福な王宮暮らし

丸インコ

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恋する魔法使い

野犬に蜂蜜 ✴︎イラスト有り

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 好きな人と手合わせをして、全力でぶちのめしてしまった。

「荒れてるわねえ」

 デューク魔法師と手合わせをした、その日の夜。私は魔法師のターラさんと城下の食堂に来ていた。

 何杯目かのジョッキを勢いよく煽る私を、ターラさんが「やれやれ」といった様子で眺めた。

「荒れてませんよ」

 タン、とテーブルにジョッキを置く。木製の器の中でたぷんとエールが揺れた。

「ただちょっと……弔いです。自分の気持ちの」

「あら失恋でもしたの?」

「グッ……!」

 ターラさんに言われて喉から変な音が出た。通過中のエールが飛び出てこようとするのを必死で飲み下す。令嬢としてはアウトだが魔法師助手ならセーフだと思う。

「え? ほんとに? 相手ってまさかデュー……」

「ターラさん!」

「──クじゃないわよねえ、誰?」

「へ?」

「デューク以外の男と接点無いと思ってたのに、隅に置けないわねジルも」

 ターラさんはクイッとグラスをあけてウフフと笑う。魔物のように酒が強い。魔物が酒を飲むかどうか知らんけど。

「どうしたの?」

「いや……なぜデューク魔法師では無いと……?」

「えー、だってジル、風邪引いたときに薬草ガリガリいかされそうになったり、魔力譲渡でネズミにされたりしてたじゃない? それで好きになってたらヤバい奴じゃないの」

「あ、あー、はは、ですよね」

 私は笑って誤魔化しながら酒を飲み干し、お代わりした。言えない。

 すみません、ヤバい奴です。



 ターラさんと散々飲んで帰った翌日、頭痛を堪えて研究室へと向かった。のだが。

「酒くさい!」

 珍しく朝から研究室に居た陛下が、眉をしかめて窓を開け放った。

「申し訳ありません……」

 深く反省して謝ると、陛下はため息をついて首を傾げた。

「珍しいな、深酒とは」

「ちょっと盛り上がってしまいまして」

「まあ、息抜きが悪いとは言わんが、程々に」

「ハイ……」

 陛下にペコリと頭を下げていると、ゆらりと隣に人影が立った。もしかしなくてもデューク魔法師だが、こんな時はいつも率先して茶化してくるのになぜか無言だ。

「ジル」

 唐突に名を呼ばれて、肩を跳ねさせながら何だろうと魔法師を見上げる。二日酔いでもないのにやけに青いデューク魔法師の顔があった。表情とオーラが暗い。やはり昨日のことを根に持っているのだろうか。

「誰と飲みに行ったの?」

 なぜそれを聞く。私は頭を疑問符でいっぱいにして首を傾げた。

「ターラさんですけど」

 答えた瞬間、どんよりと暗かったデューク魔法師の顔がパッと明るくなって、じわりと安堵が広がっていく。

「なあんだ、ターラかあ」

 そして安心したように言うと、くるりと向きを変えていそいそと薬草の棚へと向かった。

「デューク魔法師?」

「あ、ちょっと待ってて。二日酔いに効く薬草があるから淹れてあげる」

「はい?」

 おかしい。いや、デューク魔法師がおかしいのは標準の筈なのだが、何かがいつもと違う。この違和感は何だ。

 ちらりと陛下を見ると、陛下も目を丸くして魔法師を見ている。美人のびっくり顔は何だかかわいい。

 デューク魔法師は手早く薬草茶を淹れると、ソファスペースのテーブルに置いて、どうぞ、と手のひらを天に向けた。にこにこと笑っているが、飲まなければ永久にそこを動かないような気迫を感じ、覚悟を決めてソファに座る。

「ありがとうございます……」

「いーえ。あ、ちょっと苦いかも、ハチミツ入れる?」

「に、苦かったら……」

 陛下の視線がすごく痛い。居た堪れない。私にもこの状況がよくわからない。

 お茶を飲むのにこんなに緊張することがあるかというくらいビクビクしながら、薬草茶をひと口啜った。両手で頬を包むように頬杖をついて、向かいからデューク魔法師が見ている。すごく見ている。なぜか頬を少し上気させて。

「どう?」

「あ、はい、スッキリします」

「ハチミツは?」

「入れます」

 正直、困惑し過ぎて味もわからないのだが、すごくハチミツを推してくるので頷いた。なんなんだ、クマか。

「あのさあジル」

「何ですか?」

 妙な態度を訝しがりつつ、どこか心が浮つくのを止められない。変な人だけど好きな人なのだ。優しくされたら嬉しいのは仕方ない。

「城下とはいえ女の子二人で飲みに行くのは危なくない?」

「そうですか?」

 私とターラさんを女の子と呼んでいいものかという議論はさておき、私はふと気付いてしまった。

 あれ? この人、過保護が増してない……?

「そうだよ! 絶対危ない。知らない男に声掛けられてついて行ったりとか」

「こどもか。ついて行きませんよ」

 私はため息をつきながら答える。昨日散々やり合ってその辺の野犬よりおっかない女だと認識されたと思ったのだが、まさかの子ども扱い。

「子どもじゃないから危ないって話でしょ!」

 デューク魔法師がぐぬぬ、という顔をして反論する。何だこの頑固さは。こっちが恋を諦めてまで過保護の呪いから解放したと思ったら、まさかの強化。

「じゃあどういう話なんですか!」

「ほら! そういうニブいところが一番危ないんだっつーの!」

「はあ?」

「ロッコさんの苦労がわかるな」

「副官関係ないじゃないですか! そうやってまた人のこと考えなしみたいに」

「そうじゃねーよ」

「そりゃ、確かにロッコ副官には苦労させましたけど……! デューク魔法師に言われる筋合いなくないですか?」

「あーそう? お二人の絆には誰も入り込む余地無しですかそうですか! まあ今はロッコさんはジルの部下でも何でもないけど」

「え、なんか今ちょっと嫌な言い方してません?」

「させてんだよ」

 だんだんヒートアップしていく私と魔法師を、頬杖をついた陛下が目線だけを両者に移動させつつ無表情に見守っている。

 わかってます陛下、職場で喧嘩はよくない。わかってるんですけど。

「世の中にはおキレイなジルにはわかんないようなズル賢い輩がいんの。そういう奴にホイホイ引っ掛かりそうだって話じゃん」

 プツ、と頭の奥で音がした。

「そんなに心配なら今から手合わせしたろか⁉︎ アァ⁉︎ もういっぺん、体に教えたるわ!」

 つい、口が止められなかった。しかし言い返してくると思ったデューク魔法師は黙って俯いてしまう。まずい、昨日のことが新たな心の傷になってしまったのだろうか。

「すみませんデュークま……」

「いいの……?」

 謝ろうと声を掛けるとデューク魔法師がおもむろに顔を上げた。

「また手合わせしてくれるの……?」

 デューク魔法師の頬が上気して、新しい魔法理論に触れた時のように目が輝きうるんでいる。なにこれ?

「デューク、ジル」

 固まってしまった私たちに、地を這うような低い声がかかる。陛下だ。

「お前たちはもう、帰れ」

 今日このまま帰ったら、果たして明日の職場はあるのだろうか?








✴︎読んでくださりありがとうございます!
感謝を込めて乙女なデュークのイラストです。

次回もよろしくお願いします!


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