パン屋の初恋 彼女が楽しく暮らすために今日も私はパンを焼く

千暁

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3.私の話もしよう(1)

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彼女の名前はジュリと言うらしい。私が

「ジュリさんと呼ぶね。」

と伝えると、私をさん付けで呼ぶ人は初めてだと驚いていた。

18歳の彼女はただ呼び捨てにされたり、ちゃん付けで呼ばれていたらしい。そして私が自己紹介して27歳だと告げるとまた驚いていた。今まで彼女を雇った店主は40歳以上、一番年上は81歳だったらしい。父親程の年齢の男や80超えの老人にまで性の対象に見られるのはさぞ辛かっただろう。

「私みたいな歳の人間にまで丁寧に話してくれるなんてセタさんは優しいですね。」

ジュリさんは申し訳無さそうにに言うが、今まで彼女がいた環境の方がおかしかったのではないかと私は思った。サーカスの下働きにエロジジイ達が主人の職場。よくぞここまでスレずに生きてくれました、と感心すらしてしまった。

「18歳はもう立派な大人だし、ジュリさんと私は雇用契約を結んだ同じ職場で働く同僚でもあるから互いに敬意を持って過ごしたいです。」

半分本音、半分は綺麗事。私だって彼女を甘やかしてちゃん付けで呼んだり、今後恋人のような関係になることだって望みたい。抱きしめたいし、キスだってしたい、子供だってほしい…

「雇っていただいてありがとうございます。私、頑張りますね!」
ジュリさんは私のだいぶ暴走した下心には気付かず、気合いを入れていた。

「セタさんは18歳の頃って何をしていましたか?」

「18歳の頃…私はひたすらパンを焼いてましたね。修行中だったんで。」

「セタさんはすごいですね。若いのに自分のお店を持っていて、しかもあんなにお客さんも沢山買いに来ていて。」
ジュリさんが可愛らしい笑顔を私に向けながら言った。ジュリさんに褒められるのは心地良い。こんなかわいい子に頼られるなんて今まで頑張ってきてよかった~としみじみ思った。

私は確かに自分の店を持つには若すぎるとみられる年齢だった。

私の祖父は街一番のパン屋だった。父はパンなど好きではないと郵便配達員になったが、孫の私は祖父の焼くパンが大好きだった。4歳から祖父と一緒にパンをこね始め、13歳の時にはパン屋のショーケースの中に自分の作ったパンをこっそりと並べた。その時は売った後自慢げに話して祖父に大目玉を食らったが。買った客からのクレームもなく、何より店先で販売もしていた祖父にバレていなかったことが私の自信になった。

16歳で隣街のパン焼きのコンテストに出場した。1人の審査員から絶賛され、自分の店で働かないかと誘われた。隣街は大きな街だったので自分の力を試すにはちょうど良いと思ったので二つ返事で快諾した。修行先のパン屋は職人が14人もおり、ホテルや学校に卸す部門、パン屋での販売部門に分かれていた。

私はその時人手が足りなかったホテルや学校にパンを卸す部門に配属された。今までの作りたいパンを作る生活から一転、ひたすら同じパンばかり焼いた。最初は毎日食事パンばかり作ることに不満を持ちながら働いていた。華やかに見えるパン屋で売る用のパンを自分も作りたいとも思っていた。
それでも若くて飽きっぽい奴と馬鹿にされたくなくて必死に喰らいついた。

7年経つ頃には中堅のパン職人としてホテル用のパン製造のサブチーフとなり、食事パンを作ることに誇りを持っていた。

酒も覚え、同僚と街の酒場に行くと日々の重労働で鍛えた体を褒められることも多く不思議なくらいモテた。(女たち曰く、他の男と違ってデレデレとしたところがなく淡々と喋り、口数が少ないところがミステリアスでいいとのことだった。無愛想と言われる外見も酒場の女たちには魅力的と映ったらしい。)

同僚の多くは酒場にいる化粧の濃い豊満な体の女性を好んだが、私の好みではなかった。とはいえ若気の至りで好みではなくても女性をベッドに連れ込んだり、時には連れ込まれたりすることもあった。

パンを焼いたり、酒を呑んだり、たまに女性を抱いたり、代わり映えしないが順調な日々。

そんな日々を送っていたある日、父からの手紙が届いた。

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