パン屋の初恋 彼女が楽しく暮らすために今日も私はパンを焼く

6.彼女の誤解の訳は…

「こんなに買ってもらって申し訳ないです…私に何か出来ることがあるならば…何でも…します…」

彼女は私の隣で悲しそうな震える声を絞り出していた。

私はわけがわからず首を傾げた。

「あ…いや…服はさっきの店の主人が勧めてくれたから買っただけで…ジュリさんの服をそろそろ新しくしてもいいんじゃないかって。」

「えっ…あっ…ごめんなさい…私の服ボロボロでしたよね…セタさんにも恥ずかしい思いさせてしまいましたよね。さっきの方が…その…だいぶ華やかな下着を勧めたから…」

おいおい、なんてものを勧めてるんだおばさんよ。私が彼女を性的対象と見ていると思われてしまっているじゃないか。（まぁ見てはいるけど…そこまで露骨に見てはないつもりだ。）
華やかな下着って…露出が多いのか？レースが豪華なのか？
それにしてもどんな下着を買ったのかすごく気になる。
ジュリさんの華やかな下着姿がいつか見れますように、とこっそりと祈っておく。

「不快な思いをさせて申し訳なかった。あの店のおばさんは昔から商売上手なんだ。母もあそこに行くと必要以上に服を買っていたな。下着は私のチョイスではなくて完全にあのおばさんの趣味だし、私はどんなのを何枚買ったかすら知らないから安心して着るといいよ。」

「あの…下着は4セット選んでもらいました…」

彼女が消え入りそうな声で言ったが、私は何と返すのが正解なのかわからなかった。

「そう…」

私が無意味な相づちをした後、家に着くまで車の中で私たちは無言だった。


家に戻り簡単に夕食を食べた後、2階の住居部分を案内して回り、余っている部屋に彼女を案内した。

この部屋は祖父が生きていた頃に私が使っていた部屋なので一応の家具もあった。

「ここがジュリさんの部屋。私の部屋はあっちだから何かあったら呼んで。明日から仕事を頼むからゆっくり休んで。」

「はい。今日は本当にありがとうございました。こんなによくしてもらって夢みたい…」

夢みたいと思っているのは私もですよジュリさん。気になっていた子が同じ屋根の下で暮らすようになるなんて、私の方こそありがとうですよ。

「こちらこそ。ジュリさんみたいに可愛らしい女性が売り子をしてくれると店も華やぎますよ。ではおやすみなさい。」


翌朝まだ薄暗い時間。私がパンを焼いていると、制服を身に着け、髪を団子にきちんと結った彼女がひょこっと顔を出した。きちんと口紅も付けでおり、なんだか大人っぽい。

「おはようございます！」

「おはよう。もっと寝ててもよかったのに。よく眠れた？」

「はい。とっても。パンの焼ける素敵な匂いで目が覚めました。」

「よかった。朝ごはん食べる？ちょうどそこのパンが焼けたところ。」

私は焼きたてのコーンパンをお皿にのせて部屋の隅にある小さなテーブルに置いて椅子をひいた。

「いただきます」

椅子に座った彼女がパンをちぎって口に入れた。

「今まで食べたパンの中で一番美味しいです！！フワフワで、甘くて。」

見開いた目で私を見てそう言う彼女はやっぱり天使。姿も可愛ければ、言葉まで可愛い。可愛い彼女が私の作ったパンを絶賛してくれている。朝から私は幸せである。

パンを食べ終えた彼女に店内と店の前の掃除を頼み、残りのパンを焼く。
彼女が掃除をしてくれるから今日はいつもの朝より余裕もあり、ゆったりと朝ごはんにパンを食べることが出来て彼女が昨日言ったことを思い出した。
買いに来る人のことを思いながらパンを作る。これからやっていかないとなと改めて気合いが入る。

彼女にパンの種類や売り子の仕事を説明し開店時間を迎えた。