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5.楽しい買い物と誤解
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お昼時もジュリさんには店先の椅子でパンを食べてもらった。遠慮する彼女に店のパンの味を知ることも大事だと伝えて、いつも彼女が買うパンとは別のパンを2つ渡した。
オリーブとチーズとベーコンが入った少し固めの食事パンと自家製のカスタードが入ったクリームパン。
「すごく美味しそう…」
遠慮がちだが、目を輝かせてパンに見入る彼女が可愛らしすぎた。彼女の一挙一動に惹かれる自分をどうにかしたい。
お昼時も彼女が食べているパンは真っ先に売れて行った。女性客も見知らぬ若く美しい女が気に入らないとはいえ何か惹かれるものがあったのかチラチラと見ながら同じパンを買っていくのがおかしい。男どもは…やっぱりジュリさんの隣に椅子を置けないかと尋ねてきた。あっても椅子を出すわけないだろう、ジュリさんの心を掴むのは私でありたい。
客足が落ち着いた頃に少し早めに店を閉め、彼女の制服を買いに行くことにした。向かったのは母の行きつけで、昔母に連れられ何度も来ていた店だった。
「まぁセタ君、大きくなって!今日は彼女とお買い物?可愛らしい子ねぇ。」
店主のおばさんの歓迎する元気すぎる声が店に響いた。
「彼女は新しくパン屋で働いてくれる従業員ですよ。今日は売り子として店に立ってもらう為の制服を買いに来たんですけれど、なにか見立ててもらえませんか?」
おばさんはそれでも好奇心を抑えきれない顔で彼女を上から下まで眺め言った。
「おばちゃんに任せとき!どんな服がいいとかある?」
「パン屋の売り子として男女共に受ける上品な服がいいですね。4着くらい欲しいです。ジュリさんはどんな服がいいとかありますか?」
私が彼女にも意見を求めると
「そんなに沢山買ってもらうなんて…」
と控えめな言葉が返ってきた。遠慮なんてすることないのに。街でそこそこ流行っているパン屋をやっている私、好きな子1人養えるくらいの稼ぎは十分ある。
「お人形さんみたいに可愛らしいねぇ。服を見立てるのも楽しいわ。あんたに似合いそうなのがこっちにあるから着てごらんよ。セタ君は店番頼むよ。」
そう言うと店主のおばさんは買い物に尻込みする彼女の腕を掴み店の奥の試着室に連れて行った。
店番といっても客は私達だけだったので、試着室の前の椅子に座って着替えが終わるのを待っていた。何着も試着をしたのだが、試着室の中でもおばさんの声は大きく、
「あらまぁ…着痩せするタイプなのね。ちゃんとサイズ測った方がいいわよ。」
など私の想像を掻き立てるような声が聞こえてきた。胸は思ったより豊かなのかもしれない。
何着か試着して、丸襟で金ボタンがダブルでついた短めのグレーのジャケットに膝丈のプリーツスカート、紺のソックスにシンプルな黒のローファーに決まった。おばさんが低い位置で髪を団子に結ってくれ、軽く化粧も施してくれたようだ。
「セタ君、ちょっとこっちに。」
おばさんが小さな声で言い手招きした。
「あの子の服や下着なんだけどね…長く着ているからかあちこちツギハギしてあるんだわ。もしセタ君がいいならば制服だけじゃなくていろいろと見繕いたいんだけど。」
「構いません。私につけていただいて大丈夫です。一式見繕ってあげてください。」
おばさんは数秒私の顔を見てニマっと笑った。
「大事な従業員だものね。」
「そうですね、大事な従業員です。」
私は澄ました顔で言った。おばさんは誤解しているが、まぁいい。というかこんな職だと男の下心なんてお見透しなのかもしれない。
そこからは楽しい買い物だった。私とおばさんにとって。彼女はというと申し訳無さそうな顔であれやこれやを試着させられていた。
上半身がピタッとしてスカートがフワっとしたグリーンのワンピース(胸と腰のラインが強調されていてどストライクに好みだった)
胸元がVカットの細身のエンジ色のドレス(これはセクシー過ぎるので却下したかったが…買ってしまった。どうか一人で外出する時には着ないで…)
後ろでリボンをしめる可愛らしいベージュのワンピース(いつかリボンを解いてみたいと想像してしまった。当然買った)
青い小花柄のワンピース(私は花柄は興味がなかったのだが試着してみるとすごく似合っていたし、彼女も気に入っているようだった)
他にも暖かそうなウールの外套と冬用のネグリジェ、私服に合いそうな靴を2足と、女性に必要なアレコレも買った。(これは何を買ったから知らない。化粧品や下着、ストッキングなどいろいろといるものがあるのだろう。店主のおばさんが怖い顔で知る必要がないことだ、と言い切った)
沢山買ったことに彼女は驚いていたが私は特に問題がない。この歳まで彼女も作らずひたすらパン屋を営んできたのだ。多少の貯えくらいあるし、彼女の為に使うなんて本望だ。
まだまだ買いたいが、彼女の遠慮がなくなった頃に自分の趣味で服を選んでくれてもいい。
店主のおばさんが気を利かせて呼んでくれた車に乗って家に帰る途中彼女が悲しそうな震える声で言った。
「こんなに買ってもらって申し訳ないです…私に何か出来ることがあるならば…何でも…します…」
オリーブとチーズとベーコンが入った少し固めの食事パンと自家製のカスタードが入ったクリームパン。
「すごく美味しそう…」
遠慮がちだが、目を輝かせてパンに見入る彼女が可愛らしすぎた。彼女の一挙一動に惹かれる自分をどうにかしたい。
お昼時も彼女が食べているパンは真っ先に売れて行った。女性客も見知らぬ若く美しい女が気に入らないとはいえ何か惹かれるものがあったのかチラチラと見ながら同じパンを買っていくのがおかしい。男どもは…やっぱりジュリさんの隣に椅子を置けないかと尋ねてきた。あっても椅子を出すわけないだろう、ジュリさんの心を掴むのは私でありたい。
客足が落ち着いた頃に少し早めに店を閉め、彼女の制服を買いに行くことにした。向かったのは母の行きつけで、昔母に連れられ何度も来ていた店だった。
「まぁセタ君、大きくなって!今日は彼女とお買い物?可愛らしい子ねぇ。」
店主のおばさんの歓迎する元気すぎる声が店に響いた。
「彼女は新しくパン屋で働いてくれる従業員ですよ。今日は売り子として店に立ってもらう為の制服を買いに来たんですけれど、なにか見立ててもらえませんか?」
おばさんはそれでも好奇心を抑えきれない顔で彼女を上から下まで眺め言った。
「おばちゃんに任せとき!どんな服がいいとかある?」
「パン屋の売り子として男女共に受ける上品な服がいいですね。4着くらい欲しいです。ジュリさんはどんな服がいいとかありますか?」
私が彼女にも意見を求めると
「そんなに沢山買ってもらうなんて…」
と控えめな言葉が返ってきた。遠慮なんてすることないのに。街でそこそこ流行っているパン屋をやっている私、好きな子1人養えるくらいの稼ぎは十分ある。
「お人形さんみたいに可愛らしいねぇ。服を見立てるのも楽しいわ。あんたに似合いそうなのがこっちにあるから着てごらんよ。セタ君は店番頼むよ。」
そう言うと店主のおばさんは買い物に尻込みする彼女の腕を掴み店の奥の試着室に連れて行った。
店番といっても客は私達だけだったので、試着室の前の椅子に座って着替えが終わるのを待っていた。何着も試着をしたのだが、試着室の中でもおばさんの声は大きく、
「あらまぁ…着痩せするタイプなのね。ちゃんとサイズ測った方がいいわよ。」
など私の想像を掻き立てるような声が聞こえてきた。胸は思ったより豊かなのかもしれない。
何着か試着して、丸襟で金ボタンがダブルでついた短めのグレーのジャケットに膝丈のプリーツスカート、紺のソックスにシンプルな黒のローファーに決まった。おばさんが低い位置で髪を団子に結ってくれ、軽く化粧も施してくれたようだ。
「セタ君、ちょっとこっちに。」
おばさんが小さな声で言い手招きした。
「あの子の服や下着なんだけどね…長く着ているからかあちこちツギハギしてあるんだわ。もしセタ君がいいならば制服だけじゃなくていろいろと見繕いたいんだけど。」
「構いません。私につけていただいて大丈夫です。一式見繕ってあげてください。」
おばさんは数秒私の顔を見てニマっと笑った。
「大事な従業員だものね。」
「そうですね、大事な従業員です。」
私は澄ました顔で言った。おばさんは誤解しているが、まぁいい。というかこんな職だと男の下心なんてお見透しなのかもしれない。
そこからは楽しい買い物だった。私とおばさんにとって。彼女はというと申し訳無さそうな顔であれやこれやを試着させられていた。
上半身がピタッとしてスカートがフワっとしたグリーンのワンピース(胸と腰のラインが強調されていてどストライクに好みだった)
胸元がVカットの細身のエンジ色のドレス(これはセクシー過ぎるので却下したかったが…買ってしまった。どうか一人で外出する時には着ないで…)
後ろでリボンをしめる可愛らしいベージュのワンピース(いつかリボンを解いてみたいと想像してしまった。当然買った)
青い小花柄のワンピース(私は花柄は興味がなかったのだが試着してみるとすごく似合っていたし、彼女も気に入っているようだった)
他にも暖かそうなウールの外套と冬用のネグリジェ、私服に合いそうな靴を2足と、女性に必要なアレコレも買った。(これは何を買ったから知らない。化粧品や下着、ストッキングなどいろいろといるものがあるのだろう。店主のおばさんが怖い顔で知る必要がないことだ、と言い切った)
沢山買ったことに彼女は驚いていたが私は特に問題がない。この歳まで彼女も作らずひたすらパン屋を営んできたのだ。多少の貯えくらいあるし、彼女の為に使うなんて本望だ。
まだまだ買いたいが、彼女の遠慮がなくなった頃に自分の趣味で服を選んでくれてもいい。
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「こんなに買ってもらって申し訳ないです…私に何か出来ることがあるならば…何でも…します…」
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