パン屋の初恋 彼女が楽しく暮らすために今日も私はパンを焼く

千暁

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9.想いが溢れる

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彼女の唇が私の唇に触れたと気付いたのは少し間があってからだった。好きな子からの突然のキスは私の頭の回転を鈍くするには十分なインパクトだった。
昔、遊びで女性を抱いていたときも女性に請われてキスをすることはあったし舌を絡めるもっと激しいキスだってしていたが、私自身は特に何も感じていなかったし、なんならば女性の性感を高める技くらいにしか思っていなかった。そんな私が一瞬のキスでこんなに舞い上がってしまうとは。

「ごめん、もう一回…」

私は彼女の頬に自分の頬を擦り寄せ彼女の頬の柔らかさを感じた後、唇を食んだ。

彼女を大切にしなければという気持ちとキスを続けたい気持ちとここは店だからこんなことをしてる場合じゃないという気持ちを心でせめぎ合わせながら彼女の柔らかい唇を啄む。

「…んぅ…」

彼女の鼻にかかった声で我に返り唇を離した。
彼女の目は潤み、その潤んだ目で私を見つめていた。

「ごめんなさい、ジュリさん…私もあなたに惹かれています。性的な目では見ないと嘘をついてでもあなたを手に入れたかった。魅力的なあなたからのキスで舞い上がってしまいました。私はあなたにどんどん惹かれています。」

彼女は私から目をそらし下を向いて言った。

「謝らないでください。だって…突然キスしてしまうようなはしたない私を受け入れてくれるなんて…私のことを魅力的だなんて言ってくれるのはセタさんだけだから…うれしい…」

「はしたなくなんてないし、ジュリさんのお姉さんがどれほど魅力的だったかは知りませんが、内面も外見もあなた以上に魅力的な人に私は会ったことがないです。…こんな場所で明るい時間から言うことじゃないんで一回だけ言いますね。ずっとキスしていたかったです、本当は。店の中じゃなかったら自制が利かないところでした。」

私が冗談めかして言った言葉に彼女がフッと笑ってくれた。

「またしましょうね、キス。今度はお店じゃないところで。」

その後、魅力的な新しい女性店員を見ようと客が押し寄せ、お昼のピークはいつもより長く続き、夕方を待たずにパンが売り切れた。

少し自信がついたような表情で下心がある男性客を上手くあしらう彼女の姿に私自身も満足したことも付け加えておく。


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