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10.平和な日々
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キスをするとそこから先はなし崩し的に…
とも想像していたがそんなことはなく、家の中で彼女の視線を感じ私がこう尋ねることが増えた。
「キスしたいんでしょ?」
最初の頃は私も「キスしてもいい?」と聞いていたが、あるときイタズラ心が芽生えて「キスしたい?」と尋ねるといつも以上に戸惑い頬を赤らめながら頷く彼女が可愛らしくついつい『ジュリさんがしたいんだよね?』的な聞き方をして戸惑わせて楽しむのが定番になっている。
そんな可愛いしぐさでキスをせがまれるといつも皆に無表情だと言われる私の頬も緩む。彼女曰く、右の口角が上がり笑窪ができて優しい目になるのが好きだそうだ。恥ずかしそうにそう教えてくれた彼女の表情を思い出すだけでニヤけてしまいそうになる。
彼女は毎朝開店前の掃除が終わった後に厨房の入口近くで必ずキスをねだる視線を送ってくる。
身長差のある彼女の顎を持ち上げて
「キスしたいんでしょ?」
と尋ねれば、頬を赤らめ頷くのでもう一方の手で少し壁に押し付けるような感じで彼女を支え唇を何度も啄みつつ、キスが好きな彼女を言葉で軽くせめる。
「店の前に並んでる人達は知らないね…ジュリさんがこんなにキスが好きなこと…店を開ける直前にキスのおねだりしてること…ギリギリまでキスしてることバレてないかな…ほら頬が赤くなってる…このキスした後の顔でお店に立ったら…買い物に来る人がそのうち気付いてしまうかもね…」
彼女がうっとりと目を潤ませながらも、チラチラと私の言葉に戸惑って視線を送ってくるのがたまらなく良い。
開店前のキスは私にとって毎日のご褒美タイム。お昼のピークが終わった後のお昼休憩でお店を一旦閉めるときも閉店後も、当然のように厨房でキスをしてしまうのだが、朝のキスが一番幸せを感じる。彼女とのキス自体も好きだが、いつからかキスが終わった後に丁寧にゆっくり口紅を付けるようになった彼女を見るのも好きだ。
キスの流れでその先もと思わないわけではないが、啄むようなキスをしてもうっとりしつつも頑なに唇を開けようとしない様子にここは時間をかけた方がいいと感じていた。(息が苦しくなると鼻にかかった声で首を振ってストップをかけてくるのだ。惚れた弱みってやつかもしれない、それすら可愛い。)
彼女はパン屋の店員としての仕事をどんどん覚え(男どものあしらい方も上手くなり)、私もパンを焼くことに安心して専念出来るようになった。かっちりしつつもかわいらしさのある丸襟ダブルボタンのジャケットとプリーツスカートの制服もなんだかんだで皆に好評で、よそ者の彼女を敵視しているはずの街ゆく若い女性たちも似たような服を着ているが…パン屋に来る時には別の型の服を着ている(わざわざ着替えて来てくれているのかと思うほど)のが面白い。
主婦層からの受けも以前よりも良くなった。彼女の意見を取り入れ食感の違う食事パンを取り揃えたところ、子供がよく食べるようになったと売れ行きが好調だ。
まあ男どもは…最近「俺すっごくパンが好きなんだよね~」という奴が増えたので、かなり売り上げに貢献してもらっている。
今や私のパン屋が街の流行最先端と言えるかもしれないこの状態、もちろんよく思わない人間もやはりいたのである。
とも想像していたがそんなことはなく、家の中で彼女の視線を感じ私がこう尋ねることが増えた。
「キスしたいんでしょ?」
最初の頃は私も「キスしてもいい?」と聞いていたが、あるときイタズラ心が芽生えて「キスしたい?」と尋ねるといつも以上に戸惑い頬を赤らめながら頷く彼女が可愛らしくついつい『ジュリさんがしたいんだよね?』的な聞き方をして戸惑わせて楽しむのが定番になっている。
そんな可愛いしぐさでキスをせがまれるといつも皆に無表情だと言われる私の頬も緩む。彼女曰く、右の口角が上がり笑窪ができて優しい目になるのが好きだそうだ。恥ずかしそうにそう教えてくれた彼女の表情を思い出すだけでニヤけてしまいそうになる。
彼女は毎朝開店前の掃除が終わった後に厨房の入口近くで必ずキスをねだる視線を送ってくる。
身長差のある彼女の顎を持ち上げて
「キスしたいんでしょ?」
と尋ねれば、頬を赤らめ頷くのでもう一方の手で少し壁に押し付けるような感じで彼女を支え唇を何度も啄みつつ、キスが好きな彼女を言葉で軽くせめる。
「店の前に並んでる人達は知らないね…ジュリさんがこんなにキスが好きなこと…店を開ける直前にキスのおねだりしてること…ギリギリまでキスしてることバレてないかな…ほら頬が赤くなってる…このキスした後の顔でお店に立ったら…買い物に来る人がそのうち気付いてしまうかもね…」
彼女がうっとりと目を潤ませながらも、チラチラと私の言葉に戸惑って視線を送ってくるのがたまらなく良い。
開店前のキスは私にとって毎日のご褒美タイム。お昼のピークが終わった後のお昼休憩でお店を一旦閉めるときも閉店後も、当然のように厨房でキスをしてしまうのだが、朝のキスが一番幸せを感じる。彼女とのキス自体も好きだが、いつからかキスが終わった後に丁寧にゆっくり口紅を付けるようになった彼女を見るのも好きだ。
キスの流れでその先もと思わないわけではないが、啄むようなキスをしてもうっとりしつつも頑なに唇を開けようとしない様子にここは時間をかけた方がいいと感じていた。(息が苦しくなると鼻にかかった声で首を振ってストップをかけてくるのだ。惚れた弱みってやつかもしれない、それすら可愛い。)
彼女はパン屋の店員としての仕事をどんどん覚え(男どものあしらい方も上手くなり)、私もパンを焼くことに安心して専念出来るようになった。かっちりしつつもかわいらしさのある丸襟ダブルボタンのジャケットとプリーツスカートの制服もなんだかんだで皆に好評で、よそ者の彼女を敵視しているはずの街ゆく若い女性たちも似たような服を着ているが…パン屋に来る時には別の型の服を着ている(わざわざ着替えて来てくれているのかと思うほど)のが面白い。
主婦層からの受けも以前よりも良くなった。彼女の意見を取り入れ食感の違う食事パンを取り揃えたところ、子供がよく食べるようになったと売れ行きが好調だ。
まあ男どもは…最近「俺すっごくパンが好きなんだよね~」という奴が増えたので、かなり売り上げに貢献してもらっている。
今や私のパン屋が街の流行最先端と言えるかもしれないこの状態、もちろんよく思わない人間もやはりいたのである。
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