パン屋の初恋 彼女が楽しく暮らすために今日も私はパンを焼く

千暁

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11.事の始まり

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連日パンはすべて売り切れ。しかも閉店時間も大幅に繰り上げて店じまいする日々で彼女と2人で街のレストランに夕食を食べに行くこともあった。
外出の少なかった私が女性と連れ立って出かけるのは目立ったようで、年配の常連女性客から

「最近セタ君と一緒に出掛けてるみたいだけれど、結婚はしないのかい?」

と話しかけられることがあり、彼女は

「いえ、結婚なんて。食事にまで連れて行ってもらい一従業員としてよくしてもらっています。」

と笑顔でサラリとかわしていた。

その日の閉店後にキスをねだられたときに

「一従業員として私と食事に行ってるって?私たちの関係がただの従業員と店長なんて嘘でもつらいな。こんなにキスしてるのに好きになってもらえていないなんて」

と私がからかうと、彼女は首元まで真っ赤に染めて

「そんなことない…好きです!!でも…」

「でも?」

「私はこの街の人間ではないし、よく思わない人も大勢います。セタさんにふさわしいとは思えないんです…でも好きだから一緒にいたくて…苦しいです…ごめんなさい…」

泣き出しそうな彼女に一度軽くキスをした後、

「私はいつでもジュリさんの味方です。街の悪意からジュリさんを守ります。今すぐにでも結婚したいくらい好きです。でもジュリさんの気持ちが結婚に向くまで待つし、そういう気持ちになれるよういろいろアプローチしていくつもり。楽しみにしてて。」

最後は冗談めかして言うと彼女の顔にも笑顔が戻ってきて

「セタさん、もう十分私を幸せな気持ちにしてくれてますよ。」

とうれしい言葉を言ってくれた。

そんな会話をした数日後、足りなくなった卵を買いに行った彼女が夜になっても戻って来なかった。



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