56 / 417
Ωの人生
6.
しおりを挟む
淡々と語る津田が、かつてどんなに惜別の涙を流し、どれだけの後悔と自責の念に苛まれて生きてきたのか、想像するだけで胸が詰まった。
Ωの人生。
乾はそんなことについて、今まで考えたこともなかった。
Ωは所かまわず発情し、αにとっては甚だ迷惑な存在だ。Ωが会社に一人いるだけで仕事の能率は落ちるし、Ωのせいで落ち着いて暮らせない。
Ωがその体質と差別偏見によって苦しんでいることなど、考えたこともなかった。
声を殺して泣きながら、「もういやだ」と漏らした津田の声が頭から離れない。
(発情期で苦しんでいるこの人に俺は…… )
迷惑だから帰れと言った。
(なんてことを…… っ)
自己嫌悪でうなだれる乾の横をするりと抜け、津田が洗面台に向かう。
乾の背後で、津田が嘔吐する音がする。特効薬を打ってから、これで3度目だ。
特効薬は発情を速攻で抑えるのにとても有効な薬だが、代表的な副作用に不快感、めまい、嘔吐、倦怠感がある。
抑制剤を服用したうえに特効薬を打った津田は、発情の症状がおさまるにつれ顔色が紙のように白くなり、しきりに胃をさすった。
話の途中でおもむろに洗面台に向かおうとした津田が、はだけた自分のズボンを直す憂鬱そうな横顔から、乾は目を逸らした。
「悪いな、さっきから…… 落ち着かなくて」
戻ってきた津田が色のない唇で言う。
「悪く、ないです…… 」
「…… うん?」
「津田さんは、全然、なにも、悪く、ないです」
気の利いた言葉が見つからない。乾は自分の語彙のなさに歯噛みした。
「だから、辞めないでください」
「…… は?」
津田の口調が、目つきが、仕事の時と全く違う。これが素の彼なのだろう。無表情で愛想のない態度にイライラしたこともあったけれど、投げやりともいえる今の津田の態度に、乾は不安を覚えた。
Ωの人生。
乾はそんなことについて、今まで考えたこともなかった。
Ωは所かまわず発情し、αにとっては甚だ迷惑な存在だ。Ωが会社に一人いるだけで仕事の能率は落ちるし、Ωのせいで落ち着いて暮らせない。
Ωがその体質と差別偏見によって苦しんでいることなど、考えたこともなかった。
声を殺して泣きながら、「もういやだ」と漏らした津田の声が頭から離れない。
(発情期で苦しんでいるこの人に俺は…… )
迷惑だから帰れと言った。
(なんてことを…… っ)
自己嫌悪でうなだれる乾の横をするりと抜け、津田が洗面台に向かう。
乾の背後で、津田が嘔吐する音がする。特効薬を打ってから、これで3度目だ。
特効薬は発情を速攻で抑えるのにとても有効な薬だが、代表的な副作用に不快感、めまい、嘔吐、倦怠感がある。
抑制剤を服用したうえに特効薬を打った津田は、発情の症状がおさまるにつれ顔色が紙のように白くなり、しきりに胃をさすった。
話の途中でおもむろに洗面台に向かおうとした津田が、はだけた自分のズボンを直す憂鬱そうな横顔から、乾は目を逸らした。
「悪いな、さっきから…… 落ち着かなくて」
戻ってきた津田が色のない唇で言う。
「悪く、ないです…… 」
「…… うん?」
「津田さんは、全然、なにも、悪く、ないです」
気の利いた言葉が見つからない。乾は自分の語彙のなさに歯噛みした。
「だから、辞めないでください」
「…… は?」
津田の口調が、目つきが、仕事の時と全く違う。これが素の彼なのだろう。無表情で愛想のない態度にイライラしたこともあったけれど、投げやりともいえる今の津田の態度に、乾は不安を覚えた。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
さよならの向こう側
よんど
BL
【お知らせ】
今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。
BOOTH
https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる