ただΩというだけで。

さほり

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縮まらない距離

4.

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  今朝の乾も、津田の最大限の譲歩に、あまり嬉しそうではなかった。
  むしろ困惑しているように見えた。
  自意識過剰だ、会社がお前をそこまで優遇するとでも思っているのか。そう言われかねない譲歩案で、言い出すかどうか、実はけっこう迷ったのだが。

(余計なことだったかな…… )

  ふと目を落とすと、律が大きな目をキラキラさせて津田を見上げていた。緑の破片は星を散らしたように茶碗に付いているけれど、ごはんもハンバーグもきれいに平らげている。「ごちそうさま」を待っているのかと思ったら、律は小さな手を伸ばし、お供え台に乗ったままの、津田の分のハンバーグを指差した。

「…… もっと食べたい?」
「たい!」
「でもあれ、ユキのだよ?」

  わざとそう言ってじらしてやると、律は津田から目を逸らし、もの欲しそうにハンバーグの乗っていた空の皿を見つめた。

「うまかった?」

  そう訊くと、律の頭がぶんぶんと何度も縦に振れた。

「よかった。じゃあ、ユキのハンバーグをひとつ、律にあげよう」

  手を後ろに伸ばして皿を取り、3つあるハンバーグのひとつを律の空っぽの皿に移してやると、律は満面の笑顔で津田を見上げ、
「あ―― と!」
  舌っ足らずな礼を言った。

  移したハンバーグを箸で十字に切ってやると、律の手がその一つをさっと口に運ぶ。嬉しそうに目を細めてもぐもぐと咀嚼する律を、心から愛しいと思った。

  今の託児所に律を初めて預けたとき、
「津田さんのことを、律君の前ではなんてお呼びしたらいいですか?」
  そう訊かれて戸惑った。しばらく無言で考え込んでしまい、保育士さんに困った雰囲気が流れ出してようやく、小さな声で津田は答えた。

「ユキ、と呼んでください」
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