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縮まらない距離
3.
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乾は、と、ふと思う。
社員だから今の時間はまだ仕事が終わっていないかもしれないが、毎日温かい食事を用意して待っている家族がいるのだろうか。玄関を開けたら子どもが走り出てきて、「お帰りなさい」と言って抱きついたりするのだろうか。
佐伯が生きていた頃、凛花がしていたように……
オフィスでの乾は冷徹で部下から敬遠されているが、眼鏡の奥の目は意外と優しい。
津田はそれを知っている。
医務室で、心配そうに自分を覗き込んだ彼なら、温かい家庭を持っていることにも違和感はないと思えた。
でも、それでは。
あのキスは。
(何だったんだろう…… )
津田だって、あのキスをなかったことにしていたわけではない。乾の言葉を鵜呑みにし、煙草の味のおすそ分けだと思うほど子どもでもない。
この週末、朝に晩に、もらった煙草に火をつけるたび乾のキスを思い出した。
あのとき、津田の発情は特効薬で完全に治まっていたから、フェロモンに誘発されたものでないことは明らかだ。
だから、あれは乾の自由意志で行われたキスだったはずで。
もしかして、好意を持たれているのかな、という結論に達したのだった。
だからといって乾とどうこうなるつもりはなかったし、好かれていると意識した途端にその相手を好きになるほど若くもチョロくもないのだが。
久しぶりになんだか、ちょっとだけ浮かれた気分だったことは否定できない。
(俺、すげえ恥ずかしいやつだな…… )
乾に小さい子どもが二人いると知り、浮かれかけていた心がすとんと落ちた。
結局のところ、あのキスは、気の迷いだったんだろう。気の迷いどころか、別に何の気もなかったのかもしれない。
(Ωにキスするのなんて、犬の頭を撫でてやるくらいの感じ…… ?)
社員だから今の時間はまだ仕事が終わっていないかもしれないが、毎日温かい食事を用意して待っている家族がいるのだろうか。玄関を開けたら子どもが走り出てきて、「お帰りなさい」と言って抱きついたりするのだろうか。
佐伯が生きていた頃、凛花がしていたように……
オフィスでの乾は冷徹で部下から敬遠されているが、眼鏡の奥の目は意外と優しい。
津田はそれを知っている。
医務室で、心配そうに自分を覗き込んだ彼なら、温かい家庭を持っていることにも違和感はないと思えた。
でも、それでは。
あのキスは。
(何だったんだろう…… )
津田だって、あのキスをなかったことにしていたわけではない。乾の言葉を鵜呑みにし、煙草の味のおすそ分けだと思うほど子どもでもない。
この週末、朝に晩に、もらった煙草に火をつけるたび乾のキスを思い出した。
あのとき、津田の発情は特効薬で完全に治まっていたから、フェロモンに誘発されたものでないことは明らかだ。
だから、あれは乾の自由意志で行われたキスだったはずで。
もしかして、好意を持たれているのかな、という結論に達したのだった。
だからといって乾とどうこうなるつもりはなかったし、好かれていると意識した途端にその相手を好きになるほど若くもチョロくもないのだが。
久しぶりになんだか、ちょっとだけ浮かれた気分だったことは否定できない。
(俺、すげえ恥ずかしいやつだな…… )
乾に小さい子どもが二人いると知り、浮かれかけていた心がすとんと落ちた。
結局のところ、あのキスは、気の迷いだったんだろう。気の迷いどころか、別に何の気もなかったのかもしれない。
(Ωにキスするのなんて、犬の頭を撫でてやるくらいの感じ…… ?)
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