ただΩというだけで。

さほり

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晴天の霹靂

2.

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  ベッドによじ登ろうと奮闘するが、まだジャンプもできない小さな律には高すぎるハードルだ。
  抱き上げてやりたいのに、身体の自由がきかない津田には身をかがめても律の愛らしい手が遠くて、その体温を感じることもままならない。
  ゆり子が律の脇に手を添え、津田の胸の上にそっと乗せてくれた。

  律の大きな瞳に、溢れんばかりの涙が溜まっている。
  小さな湿った手でペタペタと確かめるように津田の首や頬に触れると、律は堤防が決壊したかのごとく大声で泣き始めた。

「うわああぁ!うああぁん!!」

  全力で泣く律の涙が、入院着を濡らす。津田はギプスの左腕と包帯に巻かれた右手で、ぎこちなく小さな魔王を抱きしめた。
  真新しい、見慣れない服を着た律の頭からは、濡れた陽だまりのようなにおいがした。


  泣き疲れてそのまま眠ってしまった律を胸に乗せたまま、津田は夕方の病室でゆり子と話をした。
  佐伯家にいる間、律がとてもいい子でがんばったこと。それでも、言葉を一切発しないので、少し心配だったこと。何かと入り用になったものを宅配で注文し、それが届くさまを見た律が、玄関から離れなくなったこと。

「人が来るとき教えては玄関からってことが、分かったみたいなの。だからきっと、幸生君が迎えに来てくれると思って、待っているんだろうなって思うと、無理に引き離すわけにもいかなくってね」

  10月の末とはいえ、玄関先は冷える。
  ゆり子は玄関に毛布を敷き、ヒーターをつけて、日中を律と一緒にそこで過ごしたのだという。
  本当に優しい義母なのだった。
  凛花が小さい時も、とてもかわいがってもらった。その初孫をたった13歳で死なせてしまったことで、とても合わせる顔がなく、葬式以来、津田からは一切連絡をしていなかった。

 

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