150 / 417
晴天の霹靂
5.
しおりを挟む
乾とはその後、まだ一度も会っていない。
昨夜、病院に寄ってくれたらしいことは知っている。おそらく佐伯夫妻が去った後、面会時間が終わっていると知らずに来たのだろう。親族でも緊急でもない見舞いだったので、病室に入ることが許されず、乾はナースステーションで阻まれて帰ったらしい。
津田のベッドの脇には、その時に乾が持ってきてくれた紙袋が置かれている。
中には、あのマンションにあったのであろう、津田の鞄と靴が入っていた。そして、紙袋と鞄の間に挟まれるように、白い煙草の箱が、1箱、そっと入れられていた。
メモもなく、うたた寝から覚めて気がついたら横に置かれていた紙袋。その中にあった、まだセロファンのかかった新しいパーラメントを見て、ああ、主任だ、と思った。
津田はほぼ自宅でしか煙草を吸わない。だから会社に持って行ったことはないし、津田が愛飲する銘柄を乾は知らない。それでも、ないよりはいいだろうと、自分の吸うパーラメントを差し入れてくれたのだろう。
(なんでこんな、優しいんだろ…… )
津田は、ギプスと包帯に巻かれた、自分の両手を見つめた。
(あの時、あの部屋で、おかしくなりそうな中でギリギリ、理性を保っていられたのは、主任がいつ踏み込んでくるか分からないから、みっともない姿を見られたくなくて…… だから、耐えられたんだよな…… )
乾が助けに来てくれなかったら、今頃はこの程度のけがでは済まない事態になっていただろう。
強烈なΩのフェロモンにあてられながら、必死で理性を保っていた優しいα。
特効薬で発情を抑えられたことは、乾にも分かったはずだ。それでも最後まで、津田に触れようとはしなかった。
離れることで、守ってくれていた。
それに気づいていながら、礼も言えなかったなんて。
昨夜、病院に寄ってくれたらしいことは知っている。おそらく佐伯夫妻が去った後、面会時間が終わっていると知らずに来たのだろう。親族でも緊急でもない見舞いだったので、病室に入ることが許されず、乾はナースステーションで阻まれて帰ったらしい。
津田のベッドの脇には、その時に乾が持ってきてくれた紙袋が置かれている。
中には、あのマンションにあったのであろう、津田の鞄と靴が入っていた。そして、紙袋と鞄の間に挟まれるように、白い煙草の箱が、1箱、そっと入れられていた。
メモもなく、うたた寝から覚めて気がついたら横に置かれていた紙袋。その中にあった、まだセロファンのかかった新しいパーラメントを見て、ああ、主任だ、と思った。
津田はほぼ自宅でしか煙草を吸わない。だから会社に持って行ったことはないし、津田が愛飲する銘柄を乾は知らない。それでも、ないよりはいいだろうと、自分の吸うパーラメントを差し入れてくれたのだろう。
(なんでこんな、優しいんだろ…… )
津田は、ギプスと包帯に巻かれた、自分の両手を見つめた。
(あの時、あの部屋で、おかしくなりそうな中でギリギリ、理性を保っていられたのは、主任がいつ踏み込んでくるか分からないから、みっともない姿を見られたくなくて…… だから、耐えられたんだよな…… )
乾が助けに来てくれなかったら、今頃はこの程度のけがでは済まない事態になっていただろう。
強烈なΩのフェロモンにあてられながら、必死で理性を保っていた優しいα。
特効薬で発情を抑えられたことは、乾にも分かったはずだ。それでも最後まで、津田に触れようとはしなかった。
離れることで、守ってくれていた。
それに気づいていながら、礼も言えなかったなんて。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
さよならの向こう側
よんど
BL
【お知らせ】
今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。
BOOTH
https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
【完結】言えない言葉
未希かずは(Miki)
BL
双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。
同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。
ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。
兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。
すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。
第1回青春BLカップ参加作品です。
1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。
2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる