ただΩというだけで。

さほり

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晴天の霹靂

5.

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  乾とはその後、まだ一度も会っていない。
  昨夜、病院に寄ってくれたらしいことは知っている。おそらく佐伯夫妻が去った後、面会時間が終わっていると知らずに来たのだろう。親族でも緊急でもない見舞いだったので、病室に入ることが許されず、乾はナースステーションで阻まれて帰ったらしい。

  津田のベッドの脇には、その時に乾が持ってきてくれた紙袋が置かれている。
  中には、あのマンションにあったのであろう、津田の鞄と靴が入っていた。そして、紙袋と鞄の間に挟まれるように、白い煙草の箱が、1箱、そっと入れられていた。
  メモもなく、うたた寝から覚めて気がついたら横に置かれていた紙袋。その中にあった、まだセロファンのかかった新しいパーラメントを見て、ああ、主任だ、と思った。

  津田はほぼ自宅でしか煙草を吸わない。だから会社に持って行ったことはないし、津田が愛飲する銘柄を乾は知らない。それでも、ないよりはいいだろうと、自分の吸うパーラメントを差し入れてくれたのだろう。

(なんでこんな、優しいんだろ…… )

  津田は、ギプスと包帯に巻かれた、自分の両手を見つめた。

(あの時、あの部屋で、おかしくなりそうな中でギリギリ、理性を保っていられたのは、主任がいつ踏み込んでくるか分からないから、みっともない姿を見られたくなくて…… だから、耐えられたんだよな…… )

  乾が助けに来てくれなかったら、今頃はこの程度のけがでは済まない事態になっていただろう。
  強烈なΩのフェロモンにあてられながら、必死で理性を保っていた優しいα。
  特効薬で発情を抑えられたことは、乾にも分かったはずだ。それでも最後まで、津田に触れようとはしなかった。
  離れることで、守ってくれていた。
  それに気づいていながら、礼も言えなかったなんて。



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