241 / 417
逡巡
26.
しおりを挟む
仕事中に抜けてきた乾は、昼前には津田を残して名残惜しそうに社に戻っていった。
ホテルにいる間、何度か携帯の着信音が鳴っていたから、本人も気になっていたのだろう。
数時間席を外すだけでこれだ。実際、部署では彼の判断無くしては進まない仕事も多く、与えられている役職以上に部下に信頼されている様子が分かる。厳しい面もあり煙たがられているのも事実だが、それは彼の存在が部署の中で大きいことの表れでもあるのだ。
まだ30歳になったばかりの乾が職場で重責を担い、必要とされていることに、津田はどうしようもない嫉妬と焦りを感じていた。
もちろん好意的に感じる面もある。
好きになった相手が推重されるのは嬉しい。真面目に働いてきたからこそ今があるのだし、乾がただαだからという理由で過大評価されているわけではないのは分かっている。
それでも、職場において自分と乾の存在価値はどうしてこうも差があるのかと、考えずにはいられない。
小学校から名門校に通った乾は、αばかりが集まるその学校でも優秀な成績を維持し、志を持って薬学部に進んだと噂に聞いていた。
本人がそれを津田にあまり語りたがらないのは、その志が「αをΩのフェロモンから守るための」抑制剤開発の必要性に特化したものだったからだろう。
乾は在学中に書いた論文の有効性を買われ、アクア製薬に採用されたらしい。
ヒート抑制剤開発チームはもともと、抑制剤や特効薬などすでに商品化された第二の性関連薬を担当する課の付属部門だった。そのチームの主任研究員として配属された乾は、業界1位のアクア製薬こそがヒート抑制剤開発にもっと力を入れるべきだと主張して、ヒート抑制剤開発室発足にあたり室長に抜擢されたのだ。
彼が部下から室長ではなく主任と呼ばれているのは、その頃からの部下がずっとそう呼び続けているためらしい。
ホテルにいる間、何度か携帯の着信音が鳴っていたから、本人も気になっていたのだろう。
数時間席を外すだけでこれだ。実際、部署では彼の判断無くしては進まない仕事も多く、与えられている役職以上に部下に信頼されている様子が分かる。厳しい面もあり煙たがられているのも事実だが、それは彼の存在が部署の中で大きいことの表れでもあるのだ。
まだ30歳になったばかりの乾が職場で重責を担い、必要とされていることに、津田はどうしようもない嫉妬と焦りを感じていた。
もちろん好意的に感じる面もある。
好きになった相手が推重されるのは嬉しい。真面目に働いてきたからこそ今があるのだし、乾がただαだからという理由で過大評価されているわけではないのは分かっている。
それでも、職場において自分と乾の存在価値はどうしてこうも差があるのかと、考えずにはいられない。
小学校から名門校に通った乾は、αばかりが集まるその学校でも優秀な成績を維持し、志を持って薬学部に進んだと噂に聞いていた。
本人がそれを津田にあまり語りたがらないのは、その志が「αをΩのフェロモンから守るための」抑制剤開発の必要性に特化したものだったからだろう。
乾は在学中に書いた論文の有効性を買われ、アクア製薬に採用されたらしい。
ヒート抑制剤開発チームはもともと、抑制剤や特効薬などすでに商品化された第二の性関連薬を担当する課の付属部門だった。そのチームの主任研究員として配属された乾は、業界1位のアクア製薬こそがヒート抑制剤開発にもっと力を入れるべきだと主張して、ヒート抑制剤開発室発足にあたり室長に抜擢されたのだ。
彼が部下から室長ではなく主任と呼ばれているのは、その頃からの部下がずっとそう呼び続けているためらしい。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
12/10 5000❤️ありがとうございます😭
わたし5は好きな数字です💕
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
さよならの向こう側
よんど
BL
【お知らせ】
今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。
BOOTH
https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395
''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った''
僕の人生が変わったのは高校生の時。
たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。
時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。
死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが...
運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。
(※) 過激表現のある章に付けています。
*** 攻め視点
※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。
扉絵
YOHJI@yohji_fanart様
(無断転載×)
僕を惑わせるのは素直な君
秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。
なんの不自由もない。
5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が
全てやって居た。
そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。
「俺、再婚しようと思うんだけど……」
この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。
だが、好きになってしまったになら仕方がない。
反対する事なく母親になる人と会う事に……。
そこには兄になる青年がついていて…。
いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。
だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。
自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて
いってしまうが……。
それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。
何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。
六年目の恋、もう一度手をつなぐ
高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。
順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。
「もう、おればっかりが好きなんやろか?」
馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。
そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。
嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き……
「そっちがその気なら、もういい!」
堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……?
倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡
旦那様と僕
三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。
縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。
本編完結済。
『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる