ただΩというだけで。

さほり

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漏洩と波紋

13.

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  突然の言葉に、乾は衝撃で言葉が出なかった。先ほどまでとは違う原因で鼓動が迅る。想定外のことを言われ、うまくごまかすことも、笑い飛ばすこともできない。
  木偶の坊のように立ち尽くす乾から、美馬は目を逸らした。

「すみませんけど…… 何が起こっているとしても私は見たくないので、先に戻らせてもらいます。全部私の勘違いだったら本当にごめんなさい。でも」

  地下5階に到着した、ポーンという電子音が鳴った。扉が開くと同時に飛び出した乾の背中に、美馬が泣きそうな声をかけた。

「白いセダン、早く見つけてあげてください…… っ」

  背後でエレベーターのドアが閉まってから、乾はとっさに堪えた一言をため息に変えて吐き出した。
  社用車は50台以上ある。美馬には悪いが、教えてもらったヒントは何の助けにもならない。

(白いセダンって…… うちの社用車は全部白のアクアなんだよ…… っ!)

  津田を探して、長野まで車を走らせた秋のことを思い出す。あの時も、エレベーターから社用車の駐車スペースまでがひどく遠く感じられた。

(まだ発情期じゃない…… そんなに急に始まったりしない…… 大丈夫、何もない…… )

  薄暗い駐車場を走る乾の脳裏に、発情した津田の姿がフラッシュバックする。

  紅潮した頬と、甘い吐息。
  潤んだ目を覆う長い睫毛。
  恥じらって視線を遮ろうとした、震えて力の入らない細腕。
  貪欲に精を貪る、熱くしっとりと濡れたΩの身体ーー

  白くなるほど額に爪を立て、つらそうに顔を歪めた津田の泣き顔が浮かび、乾は奥歯を噛みしめた。

(やめろ、縁起でもない…… っ!)

  社用車がまとめて停められているエリアに辿り着いた乾は、同じ形の車の間を縫うように歩き始めた。そして程なく、それだと分かる一台を見つけた。
  一番奥の角に停められた白のアクア。丸みのある流線型のデザインは他の車と全く同じだが。
  その車だけ、窓が曇っていて中が見えないのだった。
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