ただΩというだけで。

さほり

文字の大きさ
260 / 417
漏洩と波紋

15.

しおりを挟む
「うんん?」

  駐車場の隅で、津田は首をひねった。該当の車にたどり着いてドアを開けたまではいいが、肝心の封筒が見つからないのである。ダッシュボードには入っておらず、助手席の足元にも落ちていない。念のため後部座席のドアを開けてシートと足元を確認したが、それらしいものは見当たらない。

(とりあえず電気…… )

  後部座席に半身を乗り上げ室内灯に手を伸ばした途端、津田は後ろから何者かに腰を抱え上げられた。

「ひぁっ?!」

  シートに横倒しにされる格好で車に投げ入れられ、窓に頬骨をぶつけた。長い脚を押し込むようにして、狭い車内に誰かが押し入ってくる。津田は本能的に恐怖を感じたが、そこにいるのは見覚えのある顔だった。
  わけがわからず、津田は十ほども歳下のαを見上げる。里谷は好青年風の容貌に笑みを浮かべ、自分が入ってきたドアを後ろ手に閉めた。

「津田さん、警戒心って言葉、知ってますか?」

  一見爽やかそうな笑顔で、里谷は津田を嗤った。口角を上げ、捕まえたネズミを見る猫のような目をしている。

  津田は内心でため息をつき、肩の下のドアレバーに手をかけた。カコ、カコ、と渇いた音が狭い車内に響く。なぜドアが開かないのかと見上げると、いつのまにか手から奪われた車の鍵を、里谷が津田の頭上で揺らしていた。チャイルドロックのようなものをかけられたのだろう。
  不自然な姿勢で里谷の下になった身体を反転させると、仰向けになった津田に彼がのしかかってきた。

「ちょっ、重いです。何ですかいったい。遅かったのなら謝ります。でも封筒が見つからなくて」

  里谷は小馬鹿にしたような笑顔で、ハッと短く息を吐いた。

「津田さんて、案外おもしろいなぁ。この状況で、よくそんな悠長なこと言ってられますね」
「冷やかしなら、仕事に戻るのでどいてください。急ぎのものもあるので」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

さよならの向こう側

よんど
BL
【お知らせ】 今作に番外編を加えて大幅に加筆修正したものをJ庭58で販売しました。此方の本編を直す予定は御座いません。 BOOTH https://yonsanbooth-444.booth.pm/items/7436395 ''Ωのまま死ぬくらいなら自由に生きようと思った'' 僕の人生が変わったのは高校生の時。 たまたまαと密室で二人きりになり、自分の予期せぬ発情に当てられた相手がうなじを噛んだのが事の始まりだった。相手はクラスメイトで特に話した事もない顔の整った寡黙な青年だった。 時は流れて大学生になったが、僕達は相も変わらず一緒にいた。番になった際に特に解消する理由がなかった為放置していたが、ある日自身が病に掛かってしまい事は一変する。 死のカウントダウンを知らされ、どうせ死ぬならΩである事に縛られず自由に生きたいと思うようになり、ようやくこのタイミングで番の解消を提案するが... 運命で結ばれた訳じゃない二人が、不器用ながらに関係を重ねて少しずつ寄り添っていく溺愛ラブストーリー。 (※) 過激表現のある章に付けています。 *** 攻め視点 ※当作品がフィクションである事を理解して頂いた上で何でもOKな方のみ拝読お願いします。 扉絵  YOHJI@yohji_fanart様 (無断転載×)

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

【完結】言えない言葉

未希かずは(Miki)
BL
 双子の弟・水瀬碧依は、明るい兄・翼と比べられ、自信がない引っ込み思案な大学生。  同じゼミの気さくで眩しい如月大和に密かに恋するが、話しかける勇気はない。  ある日、碧依は兄になりすまし、本屋のバイトで大和に近づく大胆な計画を立てる。  兄の笑顔で大和と心を通わせる碧依だが、嘘の自分に葛藤し……。  すれ違いを経て本当の想いを伝える、切なく甘い青春BLストーリー。 第1回青春BLカップ参加作品です。 1章 「出会い」が長くなってしまったので、前後編に分けました。 2章、3章も長くなってしまって、分けました。碧依の恋心を丁寧に書き直しました。(2025/9/2 18:40)

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

処理中です...