ただΩというだけで。

さほり

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決断

10.

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  二の腕を強く掴まれていることに、乾は気がついた。津田の手は筋が浮き出るほどに力が入っていて、上がった肩も緊張している。呼びかけても、胸に押しつけられた顔はそのまま、動かなかった。

「…… すみません、気持ちっていうか、俺がしたいことばっかりになっちゃって…… でも俺がそう思ってるってことは知っておいてほしいし、津田さんのしたいこととか、逆にしたくないこととかも、もっと聞かせてほしいです。どんなふうに育ったかとか、昔の写真も見たいし、いつか、できれば…… 凛花ちゃんの話とか、もっと聞かせてほしいです」

  津田は、昔の話をあまりしない。自分に気を遣っているのか、本人が話したくないのかは分からない。でももし辛くないのなら、少しずつでも話してほしい。そう、乾は思っていた。
  もちろん聞くことに多少の痛みはあるのだけれど、津田が愛した人たちのことを、もっと知りたい。
  きっとこのソファに座ったり、この部屋で泣いたり笑ったりしたこともあるのだろう、津田が生み育てた女の子のことを、乾は想った。

「津田さん…… ?」

  胸に当たる津田の顔が熱い。乾はとっさに、今日が何日かを考えた。発情期には早すぎる。とはいえ、ここのところ彼の周期が乱れていることは知っている。

「大丈夫ですか?津田さん、まさか…… 」

  津田の頬を両手で挟んで上を向かせると、目が潤んで顔が紅潮している。驚いてじっと見つめる乾から、彼は視線だけを逸らした。

「違う。大丈夫…… 発情期それじゃない」
「でも、 」
「違うって。そうじゃなくて、お前さっき…… 」
「え?」
「さっき…… 」

  そう言ったきり、津田は少しずつ顔をうつ向けた。

「俺、また変なこと言いました?」
「じゃなくて。お前さっき、俺のこと…… 」

  ギュッと腕を掴む彼の手が、緊張している。


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