ただΩというだけで。

さほり

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決断

22.

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「うちの奥さんは私の1.7倍有能だからね」

  佐伯が笑みを浮かべて惚気のろけると、聞き慣れたフレーズなのか津田はその数字の根拠については疑問を挟まずに笑っている。

  乾は心地よい感動を覚えた。
  津田の膝にまとわりついて話の邪魔をすること必至だった律を、難なく連れ去ったゆり子の技量も脱帽ものだった。
  そしてそれ以上に、自然体で妻を褒める佐伯がスマートだと思ったのだ。
  自分より妻の方が有能だと、人前で言える夫がどれほどいるだろうか。しかもゆり子はβだと聞いた。一流企業の常務になるほどのαが、βの妻を自分より有能だとてらいも無く言える格好よさに、乾は感銘を受けた。

  いつか自分も、人前で津田を褒めそやしたい。Ωの彼を、自分よりずっと有能なパートナーだと堂々と誇りたい。
  そういう自分を良しと思ってくれる人は、世間にはまだ少ないかもしれないが、自分自身がそう思える人間になったことを嬉しく感じた。

「…… とはいえ、まぁせいぜい15分が限界だろうね。律が乱入してくる前に、いくつか確認させてくれるかな」

  トーンを下げた佐伯の声に、津田と乾は反射的に姿勢を正した。

「まず、つがいについては、おめでとう。そこを詳しく聞くつもりはないよ。細かいことは二人で詰めていったらいいと思う。聞きたいのは、律のことだ。さっきの話は、白紙に戻すということでいいのかな?二人が番になれば、幸生君のフェロモンに律が影響されることもなくなるだろうし…… 乾君に対する律の嫉妬と反発は続くかもしれないが、それは普通の子どもらしいものに落ち着いていくと思うよ」

  番を得たΩのフェロモンは、その相手にしか作用しないものに変わる。毎月の発情期がなくなるわけではないが、津田のフェロモンに律が反応してしまう懸念は、将来的にも不要になる。

「ただ、君たちがしばらく二人だけの生活を楽しみたいと言うなら、協力しないでもないがね」

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