ただΩというだけで。

さほり

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決断

23.

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  冗談とも本気ともつかない佐伯の言葉に、乾は苦笑した。その提案に心惹かれないと言えば嘘になるが、津田がそれを望んでいないことは分かっている。

「しばらく、というか…… 次の発情期のあたりで、何日か律を預かってもらうことになると思います。その…… 抑制剤ピルを断つと、いざという時に構ってやれる余裕があるか分かりませんし…… 」

  言いよどむ津田に、佐伯は二度頷いて了解を示した。

「予定の日より早めに休暇を取る方がいいだろうね。しばらく家から一歩も出ずに、その日を待つだけの生活にして。買い物にでも出て万一のことが…… 」

  佐伯には珍しい失言だった。
  津田の表情は変わらない。それでも、義父の言葉が不自然に途切れたその意味に、気づいていないはずがない。
  佐伯の視線が仏間に泳いだのを見て、乾はソファに置かれた津田の手に手のひらを重ね、そっと包んだ。

「その辺の段取りは、私と津田さんで話し合います。来週か再来週になると思いますが、律君をお願いする日が決まり次第、連絡します」

  そう言うと、視線を戻した佐伯はホッとしたように頬を緩めた。

  隣室が仏間だと知るまで、正確には先ほど手を合わせるまで、乾は佐伯と津田の視線が時々その方向に流れることを不思議に思っていた。だが今なら分かる。佐伯と津田にとっては、いつも故人の存在感が仏間にあるのだろう。話題になっている人をちらっと見る感覚で、無意識に目がいくのだと納得した。
  リビングには、ゆり子と律があげた線香の香りが漂っている。

「ところで幸生君。ご実家には、ときどき連絡はしているのかな?」

  柔らかい笑みを取り戻した佐伯にそう聞かれ、乾の手のひらの下にある津田の手がピクリと揺れた。

「落ち着いてからでもいいけれど、正社員になることも、乾君とのことも、ちゃんとご両親に報告した方がいい。おめでたいことだし、喜ばれるだろうから」
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