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春の足音
19.
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「どうでしょう…… 覚えていません。おかしいですね、六年も住んでるのに」
花を愛でるような感性で暮らしていなかったのだ。去年までの乾にとって、桜は移りゆく景色の一部でしかなかった。
「咲いたら花見に行きましょうね、律君と三人で。川沿いに下ったところに少し大きめの公園があるので、そこまで行ってもいいし」
乾がそう言うと、津田は桜色の顔でふわりと笑い、小さく頷いた。
自宅に帰り着いた乾は、熟睡している律を外着のまま布団に寝かせ、汗をかいたと言う津田を風呂場に送り込んだ。
ダイニングの椅子に座り、長い脚を投げ出す。疲労した腰の安息に深い息が漏れた。
腕と肩が重く、鈍く痛む。意識のない幼児を抱えての移動は、予想以上に身体に負担がかかった。慣れないことで余計な力が入っていたのだとは思うが、これを日常的にこなしている津田の細腕に敬意さえ覚える。
乾の目の前には、白い大きな紙の箱がある。津田が送別会から持ち帰ったものだ。その中身は直径30センチほどのホールケーキで、増井と美馬が用意してくれていた、律へのサプライズギフトだった。
「お誕生日おめでとう!!って、びっくりさせようと思ってたのにぃ…… 」
律の誕生日が今月だと知った二人は、内緒で送別会と誕生日会を兼ねようと計画し、デザートの段になったら満を持してケーキを登場させようと店の人に頼んでいたらしい。ところが律が眠ってしまいサプライズができなくなったために、増井はひどく残念がりながらも、津田にケーキを持たせてくれたのだった。
それはとても大きくて、冷蔵庫の仕切り板を外さないと入らない。中身の入れ替えに時間をとられ、やっと箱が収まったところで、濡れ髪の津田が風呂から出てきた。
花を愛でるような感性で暮らしていなかったのだ。去年までの乾にとって、桜は移りゆく景色の一部でしかなかった。
「咲いたら花見に行きましょうね、律君と三人で。川沿いに下ったところに少し大きめの公園があるので、そこまで行ってもいいし」
乾がそう言うと、津田は桜色の顔でふわりと笑い、小さく頷いた。
自宅に帰り着いた乾は、熟睡している律を外着のまま布団に寝かせ、汗をかいたと言う津田を風呂場に送り込んだ。
ダイニングの椅子に座り、長い脚を投げ出す。疲労した腰の安息に深い息が漏れた。
腕と肩が重く、鈍く痛む。意識のない幼児を抱えての移動は、予想以上に身体に負担がかかった。慣れないことで余計な力が入っていたのだとは思うが、これを日常的にこなしている津田の細腕に敬意さえ覚える。
乾の目の前には、白い大きな紙の箱がある。津田が送別会から持ち帰ったものだ。その中身は直径30センチほどのホールケーキで、増井と美馬が用意してくれていた、律へのサプライズギフトだった。
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