過去との触れ合い

月澄狸

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淡いノスタルジー

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 私は常に後ろ向きだ。

 言葉だけ聞くと、何か良くない気がする。しかし実際どうなのだろう。


 最近、音楽を聞いているときなどにふと、懐かしい景色を思い出す。
 思い出の場所というのは、「目的地」であった場所だけでなく、その道中だったりもする。

「目的地」があるから道中が輝くのか。しかしまれに私は、目的を定めずに自転車を漕いでいったりもした。そのときに見た光景もおそらく、私の「懐かしさ」に入っている。

 他者が表現した「ノスタルジー」に触れたとき、誘発的に自分の「懐かしさ」を思い出す。


 近くのスーパーが閉店するらしい。

 もう買い物に行けないのか……。
 そのスーパーに入るときの明るさも、店の並びも、パッと思い浮かぶ。

 そうした身近な光景も、私の「記憶」の柱の、けっこう重要な一部分なのだろう。なぜなら私の行動範囲は狭く、夢の中でも、身近な光景ばかりが登場するから。

 とはいえ、近くのスーパーが夢に出てきたことは……なかったかなぁ……。見知らぬショッピングモールだかデパートだかのときはあったけど。どうだっただろう。


 閉店するスーパー。「これも『過去の記憶』になるのか」と思いつつ、建物内を眺めた。
 最後だからか、華やかな展示をやっていて、一角がまるで博物館みたいだった。

 スーパーのゲームコーナーに入っていく。
 懐かしいな。お金を入れて動くタイプの乗り物が並んでいる。なんだか随分と古そうな機体が多い。


 私の小さい頃は、他のスーパーのおもちゃ売り場もゲームコーナーも、広かった印象だ。
 私が小さいから広く感じたのか、実際広かったのか。おもちゃ売り場でお試しみたいに遊べるコーナーもあり、私はそのエリアに夢中だった。

 別のスーパーの屋上には遊具もあったっけ。屋上遊園地……で合っているのだろうか。屋上の乗り物は、その場に固定されている屋内のと違って、お金を入れると実際に自分の運転で動き回れる。

 屋内のも良かった。小さなメリーゴーランドや、写真を撮れる遊具。今のテレビのような液晶画面ではなく、レトロゲームのような表示板や、おもちゃのパチンコのでかいやつみたいな、イラストや部品で彩られたものも多かった。

 他にもスーパーはあった。閉店したけど建物は残っている。
 キッズエリアみたいなところが記憶に残っている。鏡があって、椅子があって、遊具があって……。昔の照明は暗かった。


 これから閉店するスーパー。なんだか生と死の境目のような空間が、私を過去の記憶へと誘う。今度行くときはもう、この親しんだ空間は存在しないという事実が不思議だ。

 今それを思い出しているこれは、正確な記憶か? でっち上げなのか?
 過去、ノスタルジー、曖昧な現実、過去に「現実」だったもの……。



 閉店間近のスーパーのゲームコーナーで、古そうな遊具を見て回っていると、ドラえもんの遊具から懐かしい声が聞こえた。
 ドラえもんの声だ。それも大山のぶ代さんの……!

 大山のぶ代さんがドラえもんの声を担当したのは、2005年3月25日までだそう。
 もう20年近く経つって、本当に……?
 ならこの遊具は少なくとも20年ほど前のもの……。

 貴重な遊具。他の場所でこれからも稼動するのだろうか。そうであってほしい。



 その後スーパーは閉店。

 閉店しても多分建物は使われるんじゃないか。次は何になるのか。
 と思っていたら、まさかの解体。建物は時間をかけて、跡形もなく消えていった。


 私の記憶は揺らいでいく。
 まだスーパーは私の記憶の中にある。天井の高さ、声の響き具合。

 何度も行ったスーパーではあったけれど、ゲームセンターをうろついたことはあまりなかったようで、大山のぶ代さんの声のドラえもん遊具があることを知ったのは、閉店前に見て回ったときが初めてだった。


 懐かしい出会いと、夢だったか現実だったか思い出せなくなりそうなひとときだった。
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