小さい頃に見ていた世界はもっと光り輝いていた

月澄狸

文字の大きさ
1 / 1

小さい頃に見ていた世界はもっと光り輝いていた

しおりを挟む
 小さい頃見た世界はなんであんなに光り輝いていたんだろう。

 薄暗い朝に聞こえてくるキジバトの鳴き声。プランターの中のチューリップ、ワタ、ピーマン。子ども番組の歌。幼稚園で流れていた歌、幼稚園の手洗い場。お花やジュズダマ。木の葉や木の実を使っての工作。年に一度のクリスマス、お誕生日、雪。夢中で遊んだおもちゃ、読んだ絵本……。


 ある程度の年齢までは「子どもの心」だった。
 中学生の頃、通学路で見つけたホタル。ときめいたなぁ。


 今はなぜだろう。あの頃に好きだったものまで、次々否定している。

 なぜあのときは輝いて見えたのか? なぜ今はいつも心苦しいのか? 考えれば考えるほど、根本的な理由から遠ざかる。


 小さい頃は、すべてにお金が関わっているとは知らなかった。学生の頃も、そういったことに疎かった。だから呑気でいられたのか。

 それとも時間があったからか。子どもとして大人から愛情を受けていたからか。


 昔もそれなりに嫌なことがいっぱいあったはずだ。でも今よりは心が希望で満ちあふれていた。好きなことをしていける、していいと思っていた。疑いもなく。

 なぜなんだろう……。何が違うんだろう……。
 昔は、世界の問題について考えなくちゃいけない、私たちが何かしなきゃいけないとは思っていなかったからかな。


 大らかな大人は、どんな子どもでもありのままの姿を受け入れてくれる。子どもは本などから「どんな子も素晴らしいんだよ」という光り輝くメッセージを受け取る。
 男の子らしく、女の子らしくなんてものはない。どんな遊びをしたっていいし、ランドセルの色だって決まっていない。子どもは純粋で、清らかで、大人が守り個性の芽を伸ばしてあげるものだと。

 でも大人になるとお金や自己判断が必要で……。


 小さい頃は物の名前も、仕組みも知らなかった。こうして文章や言葉を使って語りまくることもなかった。
 今はなんでも言いたいことは言える。分からないことは調べる。物の名前を知れる。
 でも知ったことが幸せには繋がっていないのではないか。

 昔はもっと知ることが楽しかったのに。
 今は幸せに繋がらないのは世界のせい? 自分の考え方のせい?


 昔は今ほどあれもこれも嫌いじゃなかった。いつも逃げてはいたけれど、嫌悪や憎悪的感情は強くなかった。いじめっ子のことですら時には思いやるような気持ちを持とうとしていた。

 いつからこうなったんだろう。


 たくさん間違いもした。それでも子どもの頃が輝いていた理由。いつまででも生きられると思って、大人になる頃が見えなかったからか。

 本当の理由は、こうして理屈を付けてみてももう思い出せないのかもしれない。
 魔法の物語に出てくる、子どもにしか見えない世界だ。


 今、道で見つけた生き物を調べると「外来種」と出てきたりする。なるほど外来種か、と思う。
 小さい頃なら関係ないだろう。外来種かどうかなんて。そこにいるべき命かどうかなんて。
 綺麗なものは綺麗。好きなものは好き。欲しいものは欲しい。
 自分以外の何者にも染まっていないのだ。情報にとらわれていないのだ。


 若かったからとか関係ないんじゃないか?
 無知だったからじゃないんじゃないか?
 あの頃に見ていた輝きは……。


 きっと今からでも輝く世界を見られる。早朝や夕暮れ時の美しさを味わえる。あの不思議で懐かしい空気を胸一杯吸える。ゆったりとした時を過ごせる。


 私の時間は、人生は私のものだ。
 戻れるはずだ。人間の寿命も肉体も、生き物の死も、人生の過ちも関係ない。

 もう一度輝く世界の中で生きる。自分の心を取り戻す。絶対。















しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

本物の夫は愛人に夢中なので、影武者とだけ愛し合います

こじまき
恋愛
幼い頃から許嫁だった王太子ヴァレリアンと結婚した公爵令嬢ディアーヌ。しかしヴァレリアンは身分の低い男爵令嬢に夢中で、初夜をすっぽかしてしまう。代わりに寝室にいたのは、彼そっくりの影武者…生まれたときに存在を消された双子の弟ルイだった。 ※「小説家になろう」にも投稿しています

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...