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12.新浜夜寿華

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「で、新浜はなんでここにいる?」
「なんでって、この辺に住んでるからスね」

 基樹も落ち着きを取り戻していたので、主導権を戻して、わたしは2人の会話を聞いていた。

「ツレの家を渡り歩いて泊まらせてもらったり、野宿もするし、金はウリで稼いでるからなんとでもなるし」
「学校は?行ってないのか?」
「親と折り合い悪いし、居づらいから、家には帰ってないっスよ。学校なんて、とっくに辞めてるッス」
「だから、なんなんだ、その変な喋り方……」
「目上の人間にはこうしてるんで。園村くん、おっかねえから」
「昔、オレをイジメてたくせによく言うよ」
「ホントにすいません。謝って許してもらえるような話じゃないのは分かってます」

 基樹は、新浜との会話をしながら、わたしとも確認を進めていく。確認事項の1つ目は「転生者憑きではないか」。これに関しては現時点では分からない。相手も何らかの力を付与されているだろうが、それが何かが分からない。だが、おそらく転生者はいない。推測でしかないが。運動能力が至って普通だったこと、しかしそれも意図的にやっていたならば、話は変わってしまう。

 2つ目は「何故、新浜からがしたのか」。これが本人が憑いているならば、もっとはっきりと分かるだ。あくまで、としか言えない、憶測の域を出ない。

 要監視人物であるのに間違いはないが、決定打に欠ける。言える事は、少なくとも「その転生者憑きの人物と何らかの接点を持った」ということだ。

 ――アイツに近付いている、感触はある――

 わたしには、ある程度、転生者が誰なのかという事に関しては、予想がついている。どういう因果かは知らないが。確かに、アイツとわたしは前世においては因果が強すぎた。それはアイツにとっても、もちろんだ。

 ――どこまでわたしの人生に付き纏うつもりだ――

『ラファトゥマ……』
「それが、転生者の名前か。初めて言ってくれたな」
「転生者?ゲームの話スか?」
「おまえには言ってない……」
「園村くーん、独り言がパネェっスよ」
「とりあえず連絡先は交換した」
『無関係ではないからな。気は緩めるな』
「なんか連絡先聞かれちゃうとか、そういう展開は予想外だったっスけど!」
「深い意味は、ないからな?」
「またまた、照れちゃって。アタシはいつでもウェルカムっスから!サービスしますよ?ダンナ」
「……」
「いや、マジでキれないで下さいね?……冗談スから」

 新浜という少女も色々と紆余曲折のある人生を歩んできたようだ。本人はあっけらかんと話してはいるが、内心はどうだか。

 正直、本心が読みづらい。こういうタイプが一番厄介なのは、前世での職業柄、よく分かっている。

 とりあえず新浜夜寿華と別れて、状況を整理する必要がありそうだ。基樹は新浜と別れると、再び繁華街へと向かって行った。

 *

「で、いつまでそこに隠れてるつもりスか?」

 園村基樹が新浜夜寿華と離れて、繁華街の方に姿を消すまで、その少女は陰から2人のやり取りを見ていただけだった。

「……マジで殺されるかと思ったんスから、助け舟ぐらいだしてほしかったっスよ、っち」

 ビルの陰から、黒髪の如何にも優等生というオーラを纏った清楚な格好をした美少女がゆっくりと新浜の前に歩いていく。

「園村、やっぱり近くにいたんだね」
「そんなに気になるんなら、自分で話しかけりゃいいのに。……昔っからっスね、ヒルコっちは」
「行くとこない時に泊まらせてやってる恩を少しでも返そうとは思わないの?」
「……だから、返したじゃないっスか」
「まあ、私があんまり、ねぇ?」
「難しい話はよく分からないっス」

 蛭子悠希絵ひるこゆきえは、繁華街へと消えていく、園村基樹の後ろ姿をしばらく眺め、新浜とともに路地裏へと消えていった。

 
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