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バルビス公国への旅立ち
15 バルビスの公主 7
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開けられた馬車の外から流れ込む冷気は先程の比ではなかった。凍てつく冷気は既に頬を切り刻んでいるかと思える程、冷たさよりもシャイリーに痛みを突きつける。
「お待ち申し上げていた。シャイリー・ヨル・アールスト王女。お初にお目にかかる。私がバルビス公国公主、トライトス・サイツァー・バルビスだ。遠路遥々お越しになってお疲れではないだろうか?」
心地よく胸に響いてくるトライトスの低い声。微風も切り刻む様な痛みを与えて来るのに、何故だか彼の声には胸がじんわりと熱くなる。
「こちらこそ、お初にお目にかかります、バルビス殿下。御自らのお出迎えに恐縮いたします。不束者ではございますが、誠心誠意努める覚悟で参りました。」
(もっとしっかりと受け答えなければ、義姉上の事もきっとバルビス公主は気掛かりだろうから。)
しかし最初の一言二言を言い礼を取った後、シャイリーはそれ以上話せなくなる。肺に入って来る冷気が余りにも冷た過ぎて油断すると息が詰まりそうになるのだ。けれど、むせ込みもせず、凍てつく寒さにも身体を震わせずに挨拶ができたと思う。
すっと伸ばされたトライトスの手をシャイリーは自然に取った。驚いた事にトライトスは手袋をしていない。
「さあ、姫君。神殿の中へ参ろう。周囲の除雪は出来ていても外は寒くて敵わん。話ならば中でもゆっくりと出来ましょう。」
トライトスの心遣いが今は非常に有難い。シャイリーはもう1分1秒でもこの寒さには耐えられそうにもなかったからだ。
手を引くトライトスはただのエスコート役の手つきではなく、しっかりとシャイリーの手を握りしめている。慣れない寒さと凍った地面の硬さに、脚が辿々しく絡れそうになる所を手を掴んだトライトスがグッと支えてくれるのだ。
(温かい……)
身も凍る寒さの中で、ただ今握りしめられている手の熱さの何と嬉しい事か。これがトライトス自身が自分の事を思ってしてくれているのならば、何と心強い事だろう……
大理石のの床を滑らぬ様にゆっくりと踏み締めて神殿の中に一歩入れば、今までの冷気が嘘の様に温かな空気がやさしくシャイリーを包み込んだ。
「…魔法?」
直ぐ後ろは外だと言うのに、扉も壁もないのに冷気を感じる事も無いのだから不思議なものだ。
「良くご存じだ。その通り、神殿周囲は除雪を、神殿内は気温を保つ法をかけてある。姫君は我が国の特性をご存じであったようだな?」
低く心地よい声が天井の高い神殿内にやさしく響く。トライトスはシャイリーに歩幅を合わせながら、ゆっくりと話しながら進んでくれる。アールスト国の紳士達の様にシャイリーを気遣いながら。
(紳士だからなのだわ。どの様な人や時にも礼儀を忘れず、誰が見ても不快にならない所作をこんなにもすんなりと…)
本来ならば初めて会う結婚相手に早々に好意を寄せることなどできはしないだろう。シャイリーとてトライトスの絵姿を見ずにここに来て、今日初めて夫となる者の外見を拝する機会に預かり愛情よりも好奇心が勝っているのだから。
「お待ち申し上げていた。シャイリー・ヨル・アールスト王女。お初にお目にかかる。私がバルビス公国公主、トライトス・サイツァー・バルビスだ。遠路遥々お越しになってお疲れではないだろうか?」
心地よく胸に響いてくるトライトスの低い声。微風も切り刻む様な痛みを与えて来るのに、何故だか彼の声には胸がじんわりと熱くなる。
「こちらこそ、お初にお目にかかります、バルビス殿下。御自らのお出迎えに恐縮いたします。不束者ではございますが、誠心誠意努める覚悟で参りました。」
(もっとしっかりと受け答えなければ、義姉上の事もきっとバルビス公主は気掛かりだろうから。)
しかし最初の一言二言を言い礼を取った後、シャイリーはそれ以上話せなくなる。肺に入って来る冷気が余りにも冷た過ぎて油断すると息が詰まりそうになるのだ。けれど、むせ込みもせず、凍てつく寒さにも身体を震わせずに挨拶ができたと思う。
すっと伸ばされたトライトスの手をシャイリーは自然に取った。驚いた事にトライトスは手袋をしていない。
「さあ、姫君。神殿の中へ参ろう。周囲の除雪は出来ていても外は寒くて敵わん。話ならば中でもゆっくりと出来ましょう。」
トライトスの心遣いが今は非常に有難い。シャイリーはもう1分1秒でもこの寒さには耐えられそうにもなかったからだ。
手を引くトライトスはただのエスコート役の手つきではなく、しっかりとシャイリーの手を握りしめている。慣れない寒さと凍った地面の硬さに、脚が辿々しく絡れそうになる所を手を掴んだトライトスがグッと支えてくれるのだ。
(温かい……)
身も凍る寒さの中で、ただ今握りしめられている手の熱さの何と嬉しい事か。これがトライトス自身が自分の事を思ってしてくれているのならば、何と心強い事だろう……
大理石のの床を滑らぬ様にゆっくりと踏み締めて神殿の中に一歩入れば、今までの冷気が嘘の様に温かな空気がやさしくシャイリーを包み込んだ。
「…魔法?」
直ぐ後ろは外だと言うのに、扉も壁もないのに冷気を感じる事も無いのだから不思議なものだ。
「良くご存じだ。その通り、神殿周囲は除雪を、神殿内は気温を保つ法をかけてある。姫君は我が国の特性をご存じであったようだな?」
低く心地よい声が天井の高い神殿内にやさしく響く。トライトスはシャイリーに歩幅を合わせながら、ゆっくりと話しながら進んでくれる。アールスト国の紳士達の様にシャイリーを気遣いながら。
(紳士だからなのだわ。どの様な人や時にも礼儀を忘れず、誰が見ても不快にならない所作をこんなにもすんなりと…)
本来ならば初めて会う結婚相手に早々に好意を寄せることなどできはしないだろう。シャイリーとてトライトスの絵姿を見ずにここに来て、今日初めて夫となる者の外見を拝する機会に預かり愛情よりも好奇心が勝っているのだから。
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