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淋しい婚姻の果てに

15 ここにいても 5

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 霊廟で過ごした後、バルビス公主トライトスはほんの僅かな睡眠をとる。ひどい時には朝焼けがうっすらと見えてきてからベッドへ入っているのだ。

 そんなトライトスをいつも見ている妃シャイリーはトライトスの身体が心配でなんとかしたいと思うのだ。が、現実はただここで見ている事しかできない。

(神官長様は何が言いたかったのかしら?)

 供物姫は必ず必要で両国の和平は絶対だ。だけれどそこに必ずしも愛情は必要はないのだ。それを覚悟で嫁いできたのだから、出来れば早くトライトスには前を向いてもらいたい…

(……もう陽が上がった…?)

 眠る事がないシャイリーはいつも取り留めのないことを考えて夜を過ごす。今日ももう陽が昇り辺りは明るくなっていて、それなのに、侍女が来ない?

(いつもでしたら、もうお目覚めの時間だわ?)

 どれだけ遅くベッドに入った後でも陽が登ると同時に侍女は朝を告げに来るようになっていた。今日は声が掛からないばかりか、交代の騎士達の足音もやけにひっそりとしたものだった。陽はとっくに登っているというのに、トライトスの私室だけが明けぬ夜を引きずっている感覚だ。

(何かあって?)

 何かあったのだとしたら邸内は静かすぎる。健やかに眠っているトライトスの息遣いまでが聞き取れるほど邸内は静かなのだから。朝の気配が無い…訳では無いのだが皆息を顰めて活動している。

 その日、侍女は陽が大分登った後にトライトスの部屋へと来た。トライトスはよく眠れたのだろう。この頃物凄く疲労を浮き彫りにしていた顔色が良くなっていたから。
 
 しかしその反面トライトスの機嫌が悪そうなのはなぜだろう?

「仕方がありませんよ?神官長から直々にお達しが有りましたので。」

 おそい目覚めにトライトス自身も驚きながら朝食も取らずに執務室にやってきたトライトスに、既に仕事に手をつけていただろう補佐官と侍従達が必要書類を手に手に持って報告しにきた。

「ホートネルは何と?」

 渋い表情のまま次々とトライトスは書類に目を通して行く。

「はい、かなりお疲れのご様子故、半日ほど寝かせるようにと、朝早馬が寄越されたようです。」

「そんな事の為に、ホートネルは貴重な馬を使ったのか!?」

 馬も貴重な国の財産だ。今は雪深い時期。もしもの事故にでもあったら馬や貴重な人材を失うかもしれないというのに。

「勿論でございます!殿下。我らにとっては貴方様が1番大切なのですから、少しはご自覚頂いてもいいですか?」

「分かっている………」

 機嫌の悪いトライトスに怖気付かない腹心の言葉にトライトスはこれ以上何も言えない。

「神官長も心配しておいでなのです。見えざる力をお持ちなのですから、殿下の事もお見通しなのかも知れませんよ?」

 疲れているようだと言うのはシャイリーが昨晩ホートネルに話した事である。

(神官様が動いてくださったのね…)

 シャイリーはホッと胸を撫で下ろした。なぜここに居るのか分からないけれど、トライトスの役に立っているのならば、それもいいのかもしれない、と。

 



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