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128、約束の草原 3
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「いつも、こんなに大勢で?」
人数が多ければ多い程装備やら食料やらと下準備にも相当の財力が掛かるものだ。それを冬の時期だけでなく年中なのだから、侯爵家や貴族が持つ財力の力というのは侮る事ができない。
「いや…今日はウリーの護衛も含めている。いつもは少数精鋭で幾つかの隊に別れて行動しているからな。」
「僕の、所為ですか?」
我儘を、言ったからですね?
少し、バツが悪くなってウリートは眉を寄せた。
「何をいう。大切なウリーを護るためだ。ウリーを護るために騎士を出せないならば、他の誰をも護れないだろう?」
随分と依怙贔屓なヒュンダルンの物言いだが、本人は至って真面目に真剣にウリートに言って聞かせている。
「分かりました。ありがとう…ヒュン。」
ヒュンは本気でこの様な場に相対しているんだ。ならば僕も…何があってもしっかりと見つめていこうと思う。
道なき道を進んでいる様にしか見えないのだが、しばらく行けば村から上がっているだろう煙が見えてきた。炊事のためか今の時期ならば暖を取るための煙だろう。が、その煙を見た瞬間、周期の雰囲気がガラッと変わる。
「え…?」
空気の冷たさとは違うビリビリとした緊張感がウリートにも伝わる。のんびりと馬を駆っていた騎士達の動きが機敏になる。ある者は無言で脇道に散り、ある者は数騎で村に疾走して行った。
脇道にそれた者達の前方から、金属音が響いてくる。
「始まったな。」
いつものトーンのヒュンの声。視界の端には金の煌めきが物凄い速さで通り過ぎていくのが見えた。
どうやら賊の一団と接敵したらしいのだが、ウリートにはどこに賊がいるのかさえもわからない。が、前方からは確かに怒号が響き渡る。
「ウリー、約束だ。雪原を見たかったのだろう?ここを抜ければ、かなり開けた景色が見える。」
本来ならば畑地が延々と続いている土地なのだそうで、周囲の喧騒には我関せずにヒュンダルンはそう説明してくれた。
「若様!!捕虜を捕らえますか!」
前方を行く騎士が声を張り上げている。
「要らん!一人も逃すな!!」
その問いにウリートの後ろにいるヒュンダルンも大声でそう答えた。
耳…耳が痛い……
普段では聞かない様な、ヒュンダルンの大声と声の厳しさ。その声に応えて更に前方の仲間に何かの合図を送る騎士。
ザシャア………と脇道から薙ぎ倒されて雪面に倒れ伏す賊の身体に、飛び散る赤…
ここは…戦場だ……
正しくは違うのかもしれない。けれども生死をかけた、戦場……
ここにいる賊達は以前一つの村を潰したそうだ。女も赤子も関係なく皆殺しであったとか………共に生きる道があるのならば、受け入れる事もやぶさかではないのだが…不可能な事も世にはあるのだろう。賊に相対する騎士達は誰もが真剣で、真剣に生き、またその死を受け止めていく。
これが、貴方の世界……
どれだけ怒号が響こうとも、ヒュンダルンは顔色一つ変えることはなかった。この喧騒が催し物の一つにでも見えるかの如く、ウリートには平然と雪原を見せてやろうと言う。ウリート達を乗せたヒュンダルンの愛馬と護衛達は、歩調を変えずにゆっくりと進む。リヤーナ夫人を頭として、騎士達が薙ぎ倒し蹴散らした賊達の屍を横目で見つつ、一際開けた場所に出る。
白銀が視界に広がる。緩やかな隆起はあるが、ウリートが初めてこの目にする一面の銀世界である。
「凄い………綺麗……」
そんな月並みの言葉しか出てこない。
「そうだ…ここを護るために、俺達がいる。」
見たくないと言えば、横で起きている賊の殲滅など目にすることなどなかっただろう。ただ、目の前の綺麗なものだけ見て生きていく事もできたかもしれない。けれど、貴方の隣に立ちたかった。どんな形であれ同じものを見て感じて、共にその場にいられなくても、その気持ちに少しでも寄り添いたかった…
だから…
「ありがとうございます、ヒュン。連れてきてくれた事、心から感謝します。」
「そうか………ウリー、今度は春の平原を見せよう。」
ヒュンも多くは語らない。語らなくても、しっかりと胸の内にはヒュンの思いがある。
ピューーーイーーーー
高らかに口笛の音が辺りに響き渡った。
「撤退だ。」
殲滅が、終わった………
ヒュンダルン率いる護衛達はその後しばらくその場に佇んだ後に速やかに帰路に着く。その他の騎士達は賊の処理、村の被害の確認と復興の段取りの確認のためにこの場に残るのだそうだ。遠目にはロンダル侯爵に手綱を取られたリヤーナ夫人が、返り血を浴びたままの頬を膨らませて帰路に着く様が見えた。
人数が多ければ多い程装備やら食料やらと下準備にも相当の財力が掛かるものだ。それを冬の時期だけでなく年中なのだから、侯爵家や貴族が持つ財力の力というのは侮る事ができない。
「いや…今日はウリーの護衛も含めている。いつもは少数精鋭で幾つかの隊に別れて行動しているからな。」
「僕の、所為ですか?」
我儘を、言ったからですね?
少し、バツが悪くなってウリートは眉を寄せた。
「何をいう。大切なウリーを護るためだ。ウリーを護るために騎士を出せないならば、他の誰をも護れないだろう?」
随分と依怙贔屓なヒュンダルンの物言いだが、本人は至って真面目に真剣にウリートに言って聞かせている。
「分かりました。ありがとう…ヒュン。」
ヒュンは本気でこの様な場に相対しているんだ。ならば僕も…何があってもしっかりと見つめていこうと思う。
道なき道を進んでいる様にしか見えないのだが、しばらく行けば村から上がっているだろう煙が見えてきた。炊事のためか今の時期ならば暖を取るための煙だろう。が、その煙を見た瞬間、周期の雰囲気がガラッと変わる。
「え…?」
空気の冷たさとは違うビリビリとした緊張感がウリートにも伝わる。のんびりと馬を駆っていた騎士達の動きが機敏になる。ある者は無言で脇道に散り、ある者は数騎で村に疾走して行った。
脇道にそれた者達の前方から、金属音が響いてくる。
「始まったな。」
いつものトーンのヒュンの声。視界の端には金の煌めきが物凄い速さで通り過ぎていくのが見えた。
どうやら賊の一団と接敵したらしいのだが、ウリートにはどこに賊がいるのかさえもわからない。が、前方からは確かに怒号が響き渡る。
「ウリー、約束だ。雪原を見たかったのだろう?ここを抜ければ、かなり開けた景色が見える。」
本来ならば畑地が延々と続いている土地なのだそうで、周囲の喧騒には我関せずにヒュンダルンはそう説明してくれた。
「若様!!捕虜を捕らえますか!」
前方を行く騎士が声を張り上げている。
「要らん!一人も逃すな!!」
その問いにウリートの後ろにいるヒュンダルンも大声でそう答えた。
耳…耳が痛い……
普段では聞かない様な、ヒュンダルンの大声と声の厳しさ。その声に応えて更に前方の仲間に何かの合図を送る騎士。
ザシャア………と脇道から薙ぎ倒されて雪面に倒れ伏す賊の身体に、飛び散る赤…
ここは…戦場だ……
正しくは違うのかもしれない。けれども生死をかけた、戦場……
ここにいる賊達は以前一つの村を潰したそうだ。女も赤子も関係なく皆殺しであったとか………共に生きる道があるのならば、受け入れる事もやぶさかではないのだが…不可能な事も世にはあるのだろう。賊に相対する騎士達は誰もが真剣で、真剣に生き、またその死を受け止めていく。
これが、貴方の世界……
どれだけ怒号が響こうとも、ヒュンダルンは顔色一つ変えることはなかった。この喧騒が催し物の一つにでも見えるかの如く、ウリートには平然と雪原を見せてやろうと言う。ウリート達を乗せたヒュンダルンの愛馬と護衛達は、歩調を変えずにゆっくりと進む。リヤーナ夫人を頭として、騎士達が薙ぎ倒し蹴散らした賊達の屍を横目で見つつ、一際開けた場所に出る。
白銀が視界に広がる。緩やかな隆起はあるが、ウリートが初めてこの目にする一面の銀世界である。
「凄い………綺麗……」
そんな月並みの言葉しか出てこない。
「そうだ…ここを護るために、俺達がいる。」
見たくないと言えば、横で起きている賊の殲滅など目にすることなどなかっただろう。ただ、目の前の綺麗なものだけ見て生きていく事もできたかもしれない。けれど、貴方の隣に立ちたかった。どんな形であれ同じものを見て感じて、共にその場にいられなくても、その気持ちに少しでも寄り添いたかった…
だから…
「ありがとうございます、ヒュン。連れてきてくれた事、心から感謝します。」
「そうか………ウリー、今度は春の平原を見せよう。」
ヒュンも多くは語らない。語らなくても、しっかりと胸の内にはヒュンの思いがある。
ピューーーイーーーー
高らかに口笛の音が辺りに響き渡った。
「撤退だ。」
殲滅が、終わった………
ヒュンダルン率いる護衛達はその後しばらくその場に佇んだ後に速やかに帰路に着く。その他の騎士達は賊の処理、村の被害の確認と復興の段取りの確認のためにこの場に残るのだそうだ。遠目にはロンダル侯爵に手綱を取られたリヤーナ夫人が、返り血を浴びたままの頬を膨らませて帰路に着く様が見えた。
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