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 落ち着いてよく見ると、よく分かる。

 豪華な天蓋付きのベッドはつぎはぎだらけだし、高価な調度品もそこここに色が剥げかけだらけ。
 もう捨ててしまおうか、でもまだ使えるかもって品々がここに集合しているみたいだ。
 使用人も必要時以外に部屋には訪れてはこないし、時には呼ばないと食事まで運ばれてこない。

 それにこの部屋の空気の悪いこと。目が覚めてからはそんなに気にならなかったのに、時間が経つ毎に空気が澱み変なモヤまで見えてくる始末。使用人達が訪れるとその澱みが濃くなっていく様な気がする。

 毎朝窓を開けているのだが、ドヨドヨしたモヤは窓の外から出て行ってはくれなかった。
 その内部屋の中に悪臭が漂い始めて、辛抱溜まらず勉強用の紙を取り出してはパタパタと外に向かって扇いでみた。

「なんなんだろ?これ、くっさい~」

 部屋の中でしか生活していない様な現在、常時この悪臭と共に過ごすのには限度がある。

「もぅ~~~!外はあんなにキラキラしてるのに、どうしてここだけこんなに汚いの?こんなんじゃまた、ルーチェリアの身体が悪くなっちゃうじゃない!」

 そう、今の自分はルーチェリアの身体の中にいるのだから、宿主が弱ってしまったらここにいる自分もどうなるかわかったもんではないだろう。
 どう言う理由から分からないが、自分はここにいるしかないのだろうから元に帰るまでは平穏無事に過ごしたい。

「早く、消えなさい。ここを森林の中のような清浄な空気にするの!」

 せめてこの悪臭だけでもと何度かパタパタとモヤを払い、紙だけでは埒があかぬと手を使って払い始めた。

 不幸な家庭で生まれてしまったルーチェリアにこれ以上の負担は可哀想だ。いつ自分とまた入れ替わるか分からないと言うのに…!

「消えて!!」

 この部屋で一層濃くなったモヤに手を突っ込み願いながら振り払う。

 パァァァ……

 一瞬、辺りにキラキラと光った粉が舞った様な気がする。

「ふぇえ?」

 眩しくて、キュッと目を閉じて…そっと瞼を開けると、そこにはもう黒いモヤなんか初めから無かったみたいに爽やかな空間が広がっていて………

「わ…ぁ…消えた…?」

 どこに行ったのか、一瞬で分からない。

「ん、もう臭わないかな?」

 クンクンと鼻を鳴らす。

「…!?………くっさ!!!!」
 
 清浄な空間が戻ってきたと思ったのに、まだ臭い…!

「何これ?くさ!」

 鼻を塞ごうにも顔に手を持っていけば更に臭い!

「うぇ!」

 あまりの臭さにばっと両手を見れば、自分の両手はドロドロとしたタールの様な物で真っ黒で、一応上質と言えるだろう室内用のワンピースまで全面ドロドロだ…………

「………………………」

「どうしたんです?」

 普段はちっともやってこない使用人の一人がなぜか今日はルーチェリアの部屋に駆け込んで来た。

「!!??」

 その使用人の心配顔も一瞬で、ルーチェリアの惨状を見た途端に甲高い悲鳴が屋敷中に響き渡った…………








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