[完]優しい竜の咆哮

小葉石

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56、竜の決断 8

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「ねぇ、カーリス?」

「ん?」

 珍しく人型で木漏れ日を浴びながら昼寝をしているカーリスの隣にサリャーナもゴロンと寝そべる。

「私は何をすれば良いの?」

 そもそも、番とは何をするべきものなのか。世間一般の人間で言う夫婦の様なもの?魂が繋がった一心同体の様なもの?主従関係?
 
 サリャーナは屋敷での生活に溶け込んですっかりと馴染んでしまった。余りにも居心地がいいので遥か昔からここに住んでいた様な気さえする。この森の屋敷での生活が快適すぎて全く不満が無い代わりに、何もサリャーナに求めてこないカーリスを見ていてそんな疑問が湧いてくる。

「君の好きに。我が番…」

 綺麗な瞳をこれでもかと眇めてカーリスは微笑む。今が一番幸せなんだと見ているこちらに分からせる様にか惜しげもなく美しく微笑んでくれる。
 そしてサリャーナが喜ぶだろう物事をカーリスはサリャーナが望む前に叶えてくれるから、こんなにしてもらって良いのかと逆に不安が顔を出す……
 
 心に芽生えた不安は、小さくてもすぐには消え失せない…

 
「カーリス。私はここに居るべきよね?」

 竜の番が外で暮らす事はできないだろうから。

「そうだサリャーナ。ここは家なのだから。」

 何度か目の問いかけでやっぱり、とサリャーナの疑いと不安が確信に変わってしまう。

 ここに、カーリスは入っていない…

 ここの生活の中に、この屋敷の中にカーリスの存在が無さすぎる…

「ここでは君は自由だ。どんな生活を送ろうとも誰も咎める者はいないよ。」

「私が死ぬまで?」

 子供の我儘の様な問いかけにカーリスはただ微笑む。そして静かに語りだした。

 
 かつてカーリスはエルイーシャと言う王女の番であった。まだ幼く耳の不自由なエルイーシャを自分は死ぬまで護ると決めて側にいた。けれども番は王国の王女だ。その身柄は国王配下に置かれている。その為に何も知らない幼い番は毎日竜から鱗を取る様に強要されていた。強要されていることさえ気付かずにエルイーシャは嬉々として毎日カーリスの元に日参していた。
 カーリスの鱗はカーリスが護ろうとする者に危害を及ぼそうとする者達にはその命を取る毒となる。だから当時のザクロンニア王国国王は国に仇なすだろう政敵にこれを使ってきた。これでどれだけの者達の命が落とされたのかカーリスは全く興味はなかったが、ただカーリスの姿を見つけると嬉しそうに満面の笑みを浮かべて駆け寄ってくる小さな番にこの事を話して聞かせる気も無かった。 
 だから過去のザクロンニア王国で竜カーリスがしてきた事やエルイーシャを失った悲しみからエルイーシャの血縁を含めた大勢の人々を葬り去った事、その後禁忌を犯して仲間を吸収し、自分の命を長らえさせる為に人間を生け贄としていた事は、愛すべき無垢な番サリャーナは知らなかった事だろう。

 自分は多くの血を流し過ぎた…番を愛するばかりに、報復に自分の力の為にと、ザクロンニア王国の愚かな人間達がしてきた様に血と欲と傲慢とで汚れてしまっている……サリャーナの癒しで身体の不調も心の重荷も回復はしたが、その過去は消し去る事はできないのだから。

「だから、解放しようと思うのだ。」

「カーリス?」

 何をしようと言うのか疑問に首を傾げていたサリャーナは、眩しく輝く様な笑顔のカーリスに抱きしめられた。


















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