サディスティックに恋してる!

亨珈

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罰ゲームその一

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主人公が数回女装します。
また、大人の玩具など器具を使用します。ハッピーエンドですが、後半に他の男性に陵辱されるシーン、暴力表現があります。
苦手な方はご遠慮下さいませ。


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「これ、読んでください」

 ずい、と眼前に突き出された手を見て、背の高い男性は足を止めた。
 住宅地の中の小さな郵便局。その出入り口である自動ドアが開いて、中から冷気が漂ってくる。
 少しウェーブのかかった長めの前髪の向こうから、気だるげな眼差しが、両手でうやうやしく差し出された封筒を捉え、それからちらりとこちらを見た。色素の薄い瞳が、垂れた目の端から確認し、意外にもすぐに封筒を手にする。
「はあ」と息のような声が漏れ、無造作に紺色のスラックスの尻ポケットにそれをねじ込むと、からからと台車を引いて中に入っていく。
 ガク、と少し引っかかるようにして、自動ドアはゆっくりと閉まっていった。
 半分お辞儀したまま固まっていた俺は、ひと呼吸置いてから脱兎の如く駆け出す。目指すは数十メートル先のマンションの植え込みだ。


「見てたか、見たよな、よし、これで完遂だ」

 ぜえはあと肩で息をして、建物と生け垣の間に飛び込むと、「おつかれー」と賑やかな声に囲まれる。

「さっすが人見、違和感全然ないね」
「マジでなー。あの局員もぜってー女と思ってるって」

 けたけたと笑う級友の男女三人に囲まれ、俺は仏頂面を作ってセーラーカラーからリボンを抜いた。カラーとお揃いのグレーのチェック柄のプリーツスカートから覗く臑は、どう見ても女のものじゃない。いくら細くても本物の女子の足はもっとなんというか柔らかそうなもんだ。

「ちょっと、こんなとこで脱がないでよ」

 ボタンをはずしてブラウスを腕から抜こうとするのを、この制服の持ち主である莉央が窘める。

「でもあちーし。ランニング着てっから問題ねえよ」

 そのままスカートのホックも外すと、わざとらしく手で顔を覆った直紀が指の間から俺を見てにやついている。

「もー人見ちゃんったら人前で大胆っ」
「うっせー、ちゃん付けんな。呼び捨てろ」
「なんて勇ましい。惚れ直すぜヒトミ」
「今なんか違うイントネーションだった」

 そうこう言いながらも、汚さないように跨いでスカートを軽く畳み、莉央にぐいと突きつける。念のためスカートの下にランニングパンツ履いといて正解だった。なんならこのまま家まで走って帰ってもいい。
 期末試験の終わった昼近い時間だけど、部活で走ってるところもあるから怪しくないし。まあ、蝉時雨の中、熱中症だけは心配ではあるけど。

 ひとりとその場で別れ、自転車でファミリーレストランに場所を移す。俺たちの通っているのは商業高校なので、圧倒的に女が多い。が、ハーレム状態かというとそうでもない。なんというか、女同士の先輩後輩の絆が凄くて、宝塚みたいに女同士でファンクラブがあるやつまでいるのだ。女子校のノリなのかもしれない。
 そんなこんなで、帰ったツレも女だった。テスト明けからバイトだなんてご苦労なことだ。
 昼飯を済ませて、この後予定のない俺たちはドリンクバーでお代わりを繰り返しながらうだうだしている。窓ガラス一枚隔てた向こうは、歩道があってその向こうは二車線の車道。境に植えてある街路樹に止まっている蝉の声が、中まで聞こえてくる。それだけでもうんざりするのに、車道には蜃気楼みたいに揺らいでいる熱気が見える。外に出たくねえ。

「これでひとつクリアだけど、次あるの忘れんなよー」
 げんなりと頬杖をついていたところを、隣から伸びてきた手に髪をくしゃくしゃにされる。

「まじでー」
 がくんとテーブルに突っ伏すと、対面からはくすくす笑い声。

「次はちゃんと大人っぽいのにするよ。補導されたら洒落になんないって」

 莉央の言葉にも、ちっとも気分は浮上しない。

「赤点一つに付き、罰ゲーム」
 誰が言い出したんだったか、その時その場にいた同級生と、学期末前に賭けをした。ひとりひとりに別々の罰ゲームを割り当てられて、皆も楽しめるもの。
 ちなみに莉央だとビキニでプールだったんだが、全てが楽々高得点クリアだ。こいつが頭いいのは知ってたけど、俺も直紀もちょっとだけ期待してたんだ。もしかしたら、弘法も筆の誤りとかな。答え書くとこ間違ったとかな、あるかもしんねーじゃん。
 あ、解答欄一個ずれは俺でしたねすみません。数学も最初の問いに躓いて、あとぜーんぶ関連問題駄目だった。公式だけ合ってたから、お情けで先生が五点くれたくらいだ。
 というわけで、俺の罰ゲーム、女装で話しかける、をさっきクリアーしたところ。女子高生からの告白、なシチュなら怒ることもねえだろって。ついでに仕事中なら追いかけてもこないだろうし、っていう予防線もあってのことだ。

「はー、それにしてもさっきの局員さん、イケメンだったじゃん」

 アイスティーをくるくるとストローで混ぜながら、莉央は笑みを浮かべている。カラーリングしていない黒髪をポニーテールにして、後れ毛が白いうなじにまとわりついてセクシーだ。くるんとした大きな目も、化粧っけのない顔も好みで、目の前で他の男を褒められるといい気はしない。

「ま、まあ、背ぇは高かったけどなっ。俺だってあんくらいの年になったら高ぇはずだし」
「えー、ヒトミの成長期っていつだよ。男だって二十歳までに伸びなきゃもう期待薄だろー」

 直紀がまた隣から頭をかき混ぜてきて、鬱陶しいからその手をはたいてやった。

「じゃあまだ二年あんじゃんか」
「期待して待ってるー」

 あはは、と莉央も笑っている。その屈託ない顔を視界に入れながら、そうかあんなのがイケメンなんだって、さっきの人の顔を思い出してみた。
 緊張してて、あんまちゃんと覚えてなかった。おつ。
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