サディスティックに恋してる!

亨珈

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俺、男なんですけど

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「お、泣いてんの。可愛いー」

 勝手なこと言って舌舐めずりして。気色悪い。不細工までいかなくても普通に見えるやつらだったのに、欲情を滲ませた表情が吐き気がするくらいみっともなくて触れられてるのが嫌で堪らなくて。
 俺は、力を振り絞って手を振りほどくと、沿道まで戻った。

「待てこら」

 怒気をはらんだ声が背後に迫り、屋台の傍にいた背の高い人影にすがりついていた。誰でもいい、あいつらに負けないような誰かに助けて欲しくて、ぱっと見て大きな人に飛び込むようにして抱きついていた。

「助けて」

 震える声で囁いて、振りほどかれたくなくて必死にしがみついたその人を見上げる。

「え」
 と思わず声が出た。

 目を見開いて俺を見下ろしているその男性は、あの郵便局の人だった。

「なに、あんた知り合い?」

 すぐに追いついてきたあいつらが、喧嘩腰にこっちを睨み付ける。
 勿論全然まったくもって知り合いなんかじゃない。顔なんか覚えられてないし、こっちが一方的に知っているだけ。
 だけどここで見放されたら、まずは暗闇に引きずり込まれて、レイプしようとしたら男でしたって事実に激昂されてのリンチだ。体はまだしも、浴衣が無事に済むはずない。それだけはダメなんだ。

「け、けんご、さん。助けて」

 必死だった。涙で濡れたまま、しがみついて絶対離れてやるもんかって腰に抱きつき直して、名前を呼んだ。これで少なくとも知り合いには見えると思うんだ。
 案の定、健吾さんは目を瞬いて、少し考えているようだった。脳内でどんな葛藤があったのかは判らないけど、彼はぽふんと俺の頭に手を置いて、それから男たちの方へと視線を投げた。
 仕事中の、だるそうなあの瞳じゃない。冷ややかに、射ぬく、イケメンの迫力。

「俺のに、なんか用?」

 特にドスを利かせたわけでもない、淡々とした言い方だった。それでも、俺も含めて、恐怖を感じさせる声音だった。
 一拍おいて息を吸い直して「いや」と男たちがきびすを返す。それを見送ってから、まだしがみついたままだった俺を見下ろして、「ん」と彼は手を差し出した。

「手、繋ご」

 差し出された手は大きくて、おずおずと重ねた手を、逃がさないというかのようにぎゅうっと握りしめられた。

 どこをどう歩いたのか判らない。広い背中を見上げて、思ったより硬い手のひらに驚きながら会話もなく歩き続けた。
 強引なのはあいつらと同じなのに、ただ一方的にでも知っている人っていうだけで、あんまり怖くない。ここのところ毎日気にしていた人だったから余計なのかも。

 あれよあれよという間に、見知った広い道が見えてくる。だけどそっちじゃなくて一本中の道に進んで、月極駐車場に停めてある車に押し込まれた。
 勝手にベルトをされて、呆然としている間に車が動き出す。ここまできてようやく俺は口を開かないとどうにもならないと覚悟を決めた。

「あのっ、さっきは助かりました。ありがとうございました」

 普通に地声で言いながら、運転席の健吾さんを見る。

「ああ、別に」

 頷いたときの声も淡々としていて、行動と乖離している気がする。こんな問答無用に車に連れ込むひとの声じゃない。
 車は静かに走り続けて、そう大した距離も行かずにアパートの駐車場に止まった。

「あ、あの」

 これからの自分が想像も予想も出来なくて、ただ巾着を握りしめる。動けない俺を放っておいて助手席のドアを開けられて、もう一度その顔をしっかりと見上げた。

「あの、俺男なんですけど」
「知ってる」

 間髪入れずに返答されて、「ですよねー」と小さく呟いた。
 やっぱ声でばればれなんじゃん。でも、それだったらなんで。

「その格好のままあそこにいたら、また誰かに連れてかれるぞ。着替え貸してやるから」

 淡々と、思ってもいなかったことを言われて、ぽやっとしている間にまた腕を引かれて、一階の角部屋に押し込むようにして連れ込まれた。
 押されるままに草履を脱いで前に進み、揃えるために屈もうにも、単身者向けらしき玄関は狭くて、背後にぴったりと立たれては前に進むしかない。仕方なく脱ぎ捨てたまま室内にはいると、室内灯も点けずに健吾さんも入ってくる。
 開いたままのカーテンの向こうから、街路灯の明かりがぼんやりと室内を照らす。

「脱いだら?」
 と言われて、ああ、俺が着替えやすいように暗くしたままなのかって納得した。とはいえ、帯は真後ろで、結び目も腰の上だから手が届かない。両腕を懸命に背中に回して奮闘していると、いつの間にか健吾さんが間近に立っていた。
 黙ったまま帯に手を掛けて、俺の前から抱き込むようにして腕を回して、何やら動かしている。帯が擦れるしゅるしゅるという音がして、ちゃんと解けていることを実感した。

「あれ、やっていい?」

 手が止まって見下ろされて、首を傾げたらにやりと微笑んだ。あ、かっこいい。

「あーれーってやつ」

 ああ、と瞬時に頷いていた。きっと直紀でもやりたがるだろうなと思っていたから、抵抗はない。

「いくぞ」

 完全に結び目の解かれた帯を持った健吾さんがぐいっと引くのに合わせて、「あーれー」と言いながら多めに回ってみせる。そのままへなへなと女座りでしゃがみ込んで恨めしげに見上げて、とどめの一言。

「なにをなさいます、お代官様」
 で、いいのかな。

 わかんねえけど、見下ろす健吾さんは満足しているようで、帯をそのまま落とすと、俺の横に膝を突いた。

「良いではないか」

 すっと、手のひらが裾を割る。そのまま太股を撫でられて、気持ちいいと感じてしまった自分にも驚いた。だけど。
 え? どこまで続けたらいいの?

「あ、あの、健吾さん?」

 手のひらは、躊躇なく内股に入ってくる。大きく足を割って足の間にからだを入れてこられて、のけぞるように両手を突いて背を反らせた。
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