Hand to Heart

亨珈

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携ルート

87 バレバレ

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「それは、連邦の人だから……ですか?」

 さあ、と会長は首を傾げる。

「仁先生や学園長もあちらの方だけど、そういう風には感じなかったから、やはり個人の資質なんだろうな。それにシャールはこちらの言葉ははなから憶えるつもりはないらしい。当初、もう少し他の仕事をする予定らしかったのだけど、今は裏方だけに留まっているのはそのせいだろう。出来ればこのままひっそりとしていて欲しいものだよ」

 まあ確かに、この国の教育の仕方で共通語の会話がぺらぺらな人は少ないだろうと思う。習うより慣れろっていうから、あの人と会話すれば身に付くんだろうけど……。
 さっきの様子からしても、どうもあの人は携だけ気に入ってるような感じがする。

 印刷室に着くと、カバーを取り払った印刷機にチップをセットしてパネルを操作する会長。

「カズ、そこに積んである用紙を持ってきて油紙を外してくれないか」

 ようやく指示をもらえて「はいっ」と嬉々として上質紙の束を運んでは包み紙を解いて教えられたとおりに印刷機にセットした。さっきのパソコンもそうだけど、電子機器は殆どが連邦から搬入されているものらしく、こちらの電器店では見掛けた事がないものばかりだ。携の情報通りSSCの手掛けた製品ばかりなんだろう、俺にはさっぱり使い方が判らない。
 印刷機が軽快な音をたてて刷り上った紙を吐き出していき、下に置いてある機械がそれを二つ折りにしていく。
 興味津々で眺めていると、会長の手の平が頭に載った。
 このままだと全校生徒分くらいあっという間に終わりそうなので、飽きることなく機械に見入っている俺の髪を骨ばった長い指がゆっくりと梳いてくれる。

「──物思いの原因は、氷見か」

 ふと、低く囁かれて、予想もしていなかった言葉に肩が震えてしまった。
 これじゃバレバレじゃん……。
 肯定も否定も出来ずにただ排出口を見つめる俺と、その髪を撫で続ける会長。

「相当仲が良かったと聞いているから、それがショックだったのかと思ってな……正直言うと、少し羨ましいよ。そこまで深く繋がっている友人がいる輩などそうはいないだろう。だが、友人関係は特に学生時代には形を変え相手を変えするものだ。悪いことではないと思うけれど、あまり一人だけに執心するのは良くないのではないかな」
「はい……そう思って、少し距離を取ろうと努力してるところなんですけど」
「そうすると今度はまた別の意味で問題が出てきているわけなんだな」
「はい」
 俯いたまま頷く。

「会長にも、浩司先輩にも、沢山甘えさせてもらっているのは解ってるんです。だけど……どうしても携の方にいきそうになっちゃうというか。そんな自分が嫌で……」
「それだけ傍に居たんだろう。すぐには無理だろうな。その内距離感が掴めると思う。その件に関しては軸谷の方が頼りになるかな」

 印刷機が静かに止まり、会長はチップを取り出して電源を切った。畳んでおいてあった台車を押してくるのを見て、刷り上ったばかりでインクの匂いのする紙の束を抱えて、会長が敷いた油紙の上にどさりと置いた。

「もうすぐって実感が湧いてきますね」

 プログラムに目を落としてから見上げると、会長が眼鏡越しに優しく微笑んだ。

「そうだな。まずは目先の仕事を終わらせていこう。僕たちが居る間は、いくらでも甘やかして相談に乗ってやれるからな。今のうちに精々甘えておけばいい」

 もう一度ぽふぽふと頭を撫でられて、自然と笑みが漏れた。



 台車ごと職員室に印刷物を預けてから寮へと帰る。来週の土曜日も無理だろうけれど、振り替え休日にでもちゃんとしたシナリオをやろうと会長が言ってくれた。四人組も俺と同じレベルからキャラを育てるつもりで、最初の紹介の時に見せてくれたキャラクター以外のキャラで遊んでいるらしい。
 体育会が終わったら本格的に同好会員として活動できるし、今からとても楽しみだ。

「そういえば会長は確か写真部にも在籍していなかったですか? そっちの活動は」
「個人で各々撮影して学校で現像してはそれを見せ合うくらいの温い活動だからな。自由時間にやっているよ。要するに暗室が使いたいだけだからな。体育会の最中もカメラを持ってうろつくつもりだから、カズの勇姿もしっかり残しておくぞ?」

 にやりと意地悪そうに微笑まれて、ぶわっと汗が出る。

「ががが頑張りますっ」

 ううう、みっともない姿晒せねえなこりゃ……。あ、そうだ!

「それなら是非是非浩司先輩とツーショットで! お願いしますっ」

 調子に乗って両手を組んでお願いポーズをすると、会長は呆れ顔になってしまった。

「本当に軸谷のファンだな、お前は……」
「はいっ!」

 くくっと笑うと、またぱたぱたと髪をはたくように撫でられた。

「全く本当に……子犬みたいだな。軸谷が構いつけるのも解る」
「はあ……」

 確かに、今までも何故か同級の女子たちにまでそう言われることが多かったけどさ。年上にならまあ仕方ないかと思っても、流石にお前らには言われたくねえと憤慨したもんだ。
 でも余裕で百八十を越えるような長身の会長に言われてしまうのは、仕方ないかと諦めもつく。
 確かに俺、身長云々よりも精神的に子供だもんな……。
 ぽてぽてとしょぼくれて歩く俺をじっと見下ろしていた会長が、いきなり足を止めた。丁度寮の門をくぐったところだったので驚いて俺も立ち止まって振り向く。

「ちょっと抱っこしてみていいか?」

 え? いきなりなんなんですか!
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