272 / 313
智洋ルート後日譚
over the moon 4
しおりを挟む
「俺もよく解ってないけどな……あー……もう、なんで俺がこんな風に振り回されなきゃなんねえんだよ」
ぐしゃぐしゃと髪を弄ってさらさらストレートを綺麗に横に流しているのを自分で乱し、俯いてしまう。そんな幸広を浩司は呆気にとられた顔で見下ろし、ウォルターは少し離れて面白い見せ物だとばかりに見守っていた。
「つまりだ」
ぴたりと幸広の動きが止まる。
「軸谷のギャップに翻弄されてんだ。だからやっぱりお前のせいだよ」
訳の分からない糾弾をされて不満に思いつつも、この乱れようは変だろうと浩司は首を捻った。
「わけわかんね」
「俺だってわかんねえよ、くそ。けどなあ、もういっそはっきり言わせてもらうけどなあ」
ようやくがばりと顔を上げ、更に幸広は立ち上がる。見下ろされているのが嫌になったらしい。
「なんでよりにもよってお前がっお前がっ」
至近距離で鼻先を指さしているその手が震えている。突きつけられている浩司は眉を顰めて続きを待った。
「お前がっ……」
怒りで紅潮している、と浩司が判断していた顔が、切なそうに歪んだ。それからしおしおと手が降りて、視線も落ちて、チッと舌打ちするとキュッと唇を引き結ぶ。
「森本」
掛けられた声を無視して教室から出ていく幸広を見送り、なぜだか困った顔で固まっている浩司の傍にウォルターは歩み寄った。
「なんだ、あれ」
さあねえ、と微笑みながら、浩司の肩に手を置いてその耳の下にキスをする。
「ちょっ、なにすんだよ」
「するのかと思った。さっきの森本」
にやりと笑い掛けられて、まさかと浩司は一笑に付した。
そうかなあ、とウォルターはスラックスのポケットに手を入れると、幸広の机に手を突いてそこから窓の向こうへと視線を投げたのだった。
その頃、廊下の窓枠の下でしゃがんでいた明憲は、相変わらず表情は淡々としたまま心の中では大興奮していた。
試験の前後でセッションがなく、初めて土曜の夜に寮に残ったのだ。折角だからと冒険してみての大収穫は思わぬ方へと転がっている。
これは事細かにめめさんに報告しなきゃとガッツポーズをして、いつものように傍にしゃがんでいるはずの亮太とこの興奮を分かちあおうとしたのだけれど。
一年の廊下より人通りの少ないのは当然だが、小さな幼なじみの姿は忽然と消えていたのだった。
すたすたすたすた。ぴたりと止まると、半秒遅れてもう一つの足音も止まる。
屋上の扉を開けて南国風の庭園に幸広が出てしまうと、ゆっくりと自然に閉じた扉を前にして亮太は躊躇した。ついつい付いてきてしまったけれど、声を掛けたいわけじゃない。ただ妙に気になっていたのは確かで、でもそれは幼馴染みが引きずり込んで不幸になっては申し訳ないからだと思っていた。なにも聴診器なんて渡さなくても良かったのだ。
僕たちは好きでやってることだけど、学園から一歩出ればいくらでも女性が寄ってくる先輩からしたら未知の世界だよね。
知らずにいれば平和な学園生活だったのに、よりによって軸谷先輩のアレだもんな、そりゃショックだよ……。
ごめんなさいという気持ちが大きくて、でもどうすればいいのか判らないから取り敢えずくっ付いている。そんな感じだった。
普段明憲を盾にして人目から隠れることの多い亮太だったが、流石明憲と長年共にいるだけあって、周りが見えていないというか、それで本当にこっそりやっているつもりなのかというくらいに堂々と、しかしちょこちょこと付いてきたのだ。
そんな亮太も、ここから先は流石にばれるだろうと思案しているところで、けれどこのままじっとしていても埒が明かないとぐっと拳を握ると、思い切って重い扉を押し開けた。
ぐしゃぐしゃと髪を弄ってさらさらストレートを綺麗に横に流しているのを自分で乱し、俯いてしまう。そんな幸広を浩司は呆気にとられた顔で見下ろし、ウォルターは少し離れて面白い見せ物だとばかりに見守っていた。
「つまりだ」
ぴたりと幸広の動きが止まる。
「軸谷のギャップに翻弄されてんだ。だからやっぱりお前のせいだよ」
訳の分からない糾弾をされて不満に思いつつも、この乱れようは変だろうと浩司は首を捻った。
「わけわかんね」
「俺だってわかんねえよ、くそ。けどなあ、もういっそはっきり言わせてもらうけどなあ」
ようやくがばりと顔を上げ、更に幸広は立ち上がる。見下ろされているのが嫌になったらしい。
「なんでよりにもよってお前がっお前がっ」
至近距離で鼻先を指さしているその手が震えている。突きつけられている浩司は眉を顰めて続きを待った。
「お前がっ……」
怒りで紅潮している、と浩司が判断していた顔が、切なそうに歪んだ。それからしおしおと手が降りて、視線も落ちて、チッと舌打ちするとキュッと唇を引き結ぶ。
「森本」
掛けられた声を無視して教室から出ていく幸広を見送り、なぜだか困った顔で固まっている浩司の傍にウォルターは歩み寄った。
「なんだ、あれ」
さあねえ、と微笑みながら、浩司の肩に手を置いてその耳の下にキスをする。
「ちょっ、なにすんだよ」
「するのかと思った。さっきの森本」
にやりと笑い掛けられて、まさかと浩司は一笑に付した。
そうかなあ、とウォルターはスラックスのポケットに手を入れると、幸広の机に手を突いてそこから窓の向こうへと視線を投げたのだった。
その頃、廊下の窓枠の下でしゃがんでいた明憲は、相変わらず表情は淡々としたまま心の中では大興奮していた。
試験の前後でセッションがなく、初めて土曜の夜に寮に残ったのだ。折角だからと冒険してみての大収穫は思わぬ方へと転がっている。
これは事細かにめめさんに報告しなきゃとガッツポーズをして、いつものように傍にしゃがんでいるはずの亮太とこの興奮を分かちあおうとしたのだけれど。
一年の廊下より人通りの少ないのは当然だが、小さな幼なじみの姿は忽然と消えていたのだった。
すたすたすたすた。ぴたりと止まると、半秒遅れてもう一つの足音も止まる。
屋上の扉を開けて南国風の庭園に幸広が出てしまうと、ゆっくりと自然に閉じた扉を前にして亮太は躊躇した。ついつい付いてきてしまったけれど、声を掛けたいわけじゃない。ただ妙に気になっていたのは確かで、でもそれは幼馴染みが引きずり込んで不幸になっては申し訳ないからだと思っていた。なにも聴診器なんて渡さなくても良かったのだ。
僕たちは好きでやってることだけど、学園から一歩出ればいくらでも女性が寄ってくる先輩からしたら未知の世界だよね。
知らずにいれば平和な学園生活だったのに、よりによって軸谷先輩のアレだもんな、そりゃショックだよ……。
ごめんなさいという気持ちが大きくて、でもどうすればいいのか判らないから取り敢えずくっ付いている。そんな感じだった。
普段明憲を盾にして人目から隠れることの多い亮太だったが、流石明憲と長年共にいるだけあって、周りが見えていないというか、それで本当にこっそりやっているつもりなのかというくらいに堂々と、しかしちょこちょこと付いてきたのだ。
そんな亮太も、ここから先は流石にばれるだろうと思案しているところで、けれどこのままじっとしていても埒が明かないとぐっと拳を握ると、思い切って重い扉を押し開けた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
139
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる