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智洋ルート後日譚
赤堀くん頑張ってます 1
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さあてどうやってアプローチしようか。赤堀徹は今日も授業の合間に考える。夏期は毎回教室を移動するからせわしないが、途中でばったり会えたりしないかなあなんて周囲のチェックも怠らない。
今まで観察している分には、昼休みは必ず屋上でいちゃついているようだ。寮で見かけるときにはいつも誰かと――主に亮太と、それからおまけの背後霊的存在の明憲と一緒にいるか浩司とカードで遊んでいるかだったりするので、ちょっと近寄り難い。
ううんと考えた末、いつもはシャワーで済ませているけれどたまには大浴場に行ってみようかなんて思いつく。いいかもしれない。元黒凌生はシャワーで済ませる習慣があるため足が向かなかったけれど、最初に一通り見て回ったときになかなか良い感じの浴場だった。もしかしたら他にもめぼしい人が見つかるかもしれないし、と瞳が煌めいた。
そんなこんなで何回か時間をずらせて通っているうちに、誰が大体いつ頃利用しているかも判り、智洋と和明が端と端に離れて浸かっているのを見て吹き出しそうになる。
しめしめと口元を綻ばせて、堂々と智洋の隣に浸かると、しばらくぼうっとしていて気付かなかったところ、ちょんちょんと脇腹をつついたら飛び上がりそうなくらいに仰天した。
「なっ、あああ赤堀!」
「酷いなあ、クラスメイトに対してその反応」
驚いた後には徹の居ない方へと尻をずらせていく智洋に、にっこりと笑顔を向ける。
髪が濡れていて殆ど隠れるくらいの隙間から覗いている野生的な鋭利な目が綺麗だ。纏めているときよりもこうやって下ろしているときの方が幼く見えて、しかも突っ張っている気配までなくなっているように感じるから不思議だ。可愛いなあ、とほくそ笑む。けれど徹はいつもの智洋の方が好みだ。
「お前とここで会うの初めてだよな」
「そうだね、時間が惜しいから皆シャワーで済ませる癖が抜けなくて」
おっとりと応える徹を見て、智洋は少し考えて気の毒そうに眉を寄せて口の端を下げている。
きっと黒凌のあれこれについて思い出しては罪悪感を覚えているのだろう。そんなの気にしなくていいのに。そうは思うけれど、見た目より人の好い彼だから落としたいと思ったのだ。
本気では、なかったけれど。機会さえあればいつだって狙っている。
「なんでわざわざ離れて入ってんのさ」
小首を傾げて尋ねると、智洋はぐっと息を飲んだ。別の人がいるからもう逃げられないと判断して、もう少しにじり寄る。
「無理だし」
ぼそりと囁くように答えて、ちらりと一瞬だけ目配せする。だがその理由にとんと思い当たらない徹は「はあ」と訝しそうに顔を寄せた。たじろいでいるけれど、これ以上挙動不審な態度は取れないと智洋は判断したのか、内緒話をする距離でせめて顔を逸らしている。
「全然わかんないんだけど」
寄せたまま動こうとしない徹の吐息が智洋の頬に当たる。忌々しそうにしながらも、のろのろと口を開いた。
「だ、だから……あいつの見たら、まずいんだって」
他の大抵の男子より赤く瑞々しい徹の小さな唇がぽかんと開き、まん丸な目を見開いて隣の美形を凝視している。
徹は、自分がどんなに頑張っても半勃ちにすら至らなかった智洋のものについて脳内リピートして絶句していた。
まさか、三年間磨いたはずの己のテクニックが、自分より可愛くない男の裸に負けるなんて――
あまりにも無言で、殆ど自失状態の徹を変に思ったのか、ついに智洋がその肩を揺すった。
「おい、赤堀」
その時、ふたりが背にしていた洗い場からやってきた人物が声を降らせた。
「――智洋」
なにやらゴゴゴゴゴ、と効果音さえ聞こえてきそうなほどに空気が冷えて、智洋は竦み上がって恐る恐る振り仰いだ。
今まで観察している分には、昼休みは必ず屋上でいちゃついているようだ。寮で見かけるときにはいつも誰かと――主に亮太と、それからおまけの背後霊的存在の明憲と一緒にいるか浩司とカードで遊んでいるかだったりするので、ちょっと近寄り難い。
ううんと考えた末、いつもはシャワーで済ませているけれどたまには大浴場に行ってみようかなんて思いつく。いいかもしれない。元黒凌生はシャワーで済ませる習慣があるため足が向かなかったけれど、最初に一通り見て回ったときになかなか良い感じの浴場だった。もしかしたら他にもめぼしい人が見つかるかもしれないし、と瞳が煌めいた。
そんなこんなで何回か時間をずらせて通っているうちに、誰が大体いつ頃利用しているかも判り、智洋と和明が端と端に離れて浸かっているのを見て吹き出しそうになる。
しめしめと口元を綻ばせて、堂々と智洋の隣に浸かると、しばらくぼうっとしていて気付かなかったところ、ちょんちょんと脇腹をつついたら飛び上がりそうなくらいに仰天した。
「なっ、あああ赤堀!」
「酷いなあ、クラスメイトに対してその反応」
驚いた後には徹の居ない方へと尻をずらせていく智洋に、にっこりと笑顔を向ける。
髪が濡れていて殆ど隠れるくらいの隙間から覗いている野生的な鋭利な目が綺麗だ。纏めているときよりもこうやって下ろしているときの方が幼く見えて、しかも突っ張っている気配までなくなっているように感じるから不思議だ。可愛いなあ、とほくそ笑む。けれど徹はいつもの智洋の方が好みだ。
「お前とここで会うの初めてだよな」
「そうだね、時間が惜しいから皆シャワーで済ませる癖が抜けなくて」
おっとりと応える徹を見て、智洋は少し考えて気の毒そうに眉を寄せて口の端を下げている。
きっと黒凌のあれこれについて思い出しては罪悪感を覚えているのだろう。そんなの気にしなくていいのに。そうは思うけれど、見た目より人の好い彼だから落としたいと思ったのだ。
本気では、なかったけれど。機会さえあればいつだって狙っている。
「なんでわざわざ離れて入ってんのさ」
小首を傾げて尋ねると、智洋はぐっと息を飲んだ。別の人がいるからもう逃げられないと判断して、もう少しにじり寄る。
「無理だし」
ぼそりと囁くように答えて、ちらりと一瞬だけ目配せする。だがその理由にとんと思い当たらない徹は「はあ」と訝しそうに顔を寄せた。たじろいでいるけれど、これ以上挙動不審な態度は取れないと智洋は判断したのか、内緒話をする距離でせめて顔を逸らしている。
「全然わかんないんだけど」
寄せたまま動こうとしない徹の吐息が智洋の頬に当たる。忌々しそうにしながらも、のろのろと口を開いた。
「だ、だから……あいつの見たら、まずいんだって」
他の大抵の男子より赤く瑞々しい徹の小さな唇がぽかんと開き、まん丸な目を見開いて隣の美形を凝視している。
徹は、自分がどんなに頑張っても半勃ちにすら至らなかった智洋のものについて脳内リピートして絶句していた。
まさか、三年間磨いたはずの己のテクニックが、自分より可愛くない男の裸に負けるなんて――
あまりにも無言で、殆ど自失状態の徹を変に思ったのか、ついに智洋がその肩を揺すった。
「おい、赤堀」
その時、ふたりが背にしていた洗い場からやってきた人物が声を降らせた。
「――智洋」
なにやらゴゴゴゴゴ、と効果音さえ聞こえてきそうなほどに空気が冷えて、智洋は竦み上がって恐る恐る振り仰いだ。
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