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なぜ、魔王は
しおりを挟むこの世界は魔力に満ちているらしい。生まれた時からわずかながらも全ての者が魔力を有し、それが膨大であれば専門の学院で学び、巧みに扱うことが可能となれば、魔術師と呼ばれる職業になれる。
私と旅路を共にしたのは、その魔術師の中でも次期筆頭魔術師候補とされる人だった。
この世界に呼ばれたときから、私は聖女と呼ばれている。唇の動きが母国語と異なることにはすぐに気付いたから、言葉を自動的に翻訳するなにかの力が働いているのだろう。
そうでなければ、私は自分が何を求められているのかすら理解できず、更に酷い扱いを受けていたろうと思う。
文字も認識できれば、もしかしたら私は逃亡を企てたかもしれない。どうにかして帰ろうと、ひとりででも足掻いただろう。
魔術師が最初になにか、私に読ませようとした。手書きで革の表紙に綴じられた本だった。めくって示されたけれど、私には記号としか判別できず、窺うように私の表情を見守っていた魔術師は落胆の吐息をし、王子は安堵の表情ののち鼻で笑った。
いちから文字を憶えさせる手間を惜しんだのもあるだろうけれど、やはり余計な知識を得られる可能性が減ったことが、彼らにとっては良かったのだろう。
なにが真実なのか、判らない。
神官たちによって、聖女としてこうしなければいけないということのみを刷り込まれた。
神の力を借りて浄化を行うこと、または己の生命力を分けて治癒を行うこと、それが私に求められるすべて。
力の練り方、発現の仕方は魔力と同じため、使い方は道々魔術師に叩き込まれた。
魔王が顕現した場所へと向かう行程で、魔物と呼ばれる生き物を浄化しながら。
王子と魔術師、そして護衛の騎士らが扱う武器や魔術でも、魔物たちを屠ることはできる。
ただ、魔王と呼ばれる存在が、人間の暮らせない淀んだ地域を広げていく。草木は枯れ、水は腐り、大地はひび割れる。人間だけでなく、すべての生き物が駆逐されていく。
それを元通りにするのが神官であり聖女であり、根源である魔王をすら浄化できるのが聖女だけなのだと教えられた。
なぜ、魔王は顕現するのか。
進みながらずっと考えていた。
映画やゲームに出てくるような、元いたところには存在しないおどろおどろしい生き物、それが魔物と呼ばれるものたちで、それらを屠ることに忌避感はなかった。どこからそれらが生まれるのか、不思議ではあったけれど。
だから、それらの長である魔王も、同じような外見なのだと想像していた。
まさか、魔王が――
相対した時の、私の驚きは。
そして、葛藤する間もなく、反射的に力を行使してしまったことを。
私は――
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