10 / 30
同意のない行為はつらすぎて
しおりを挟む
「勝手に言ってたけど、俺は承知してないよ」
「そんなっ」
一方的だとは思うけれど、こんなのはどちらかが終わりを告げてしまえばそれまでだと思っていた。それなのに。
「やだ! も、しないっ」
どうにか体を反転させてにじって逃げようとすると、手荒くコートも脱がされ、実自身から出たものだけを絡めた指が後ろに突きたてられる。
「ヒッ、いたっ」
「何もないからさ、ごめんね。それに、そんなに嫌がられると、優しくなんて出来そうにないわ」
涙を零して背を仰け反らせるところに、ろくに解しもせず、本当に新汰は己を突き刺した。
あぐ、と悲鳴を上げそうになった頭をぐいと枕に押さえつけ、みちみちと軋む箇所に無理矢理全部押し込むと、性急に腰を使い始める。
熱で温まっている空気が、鉄錆の臭いを漂わせていた。
このままだと敷布団が汚れてしまうと、呼吸すらままならない中で、実は精一杯腰を上げた。溢れ出る潤滑液のおかげで滑りが良くなったのか、新汰はスピードを上げ、肉と肉がぶつかる音と、荒い息遣いが静かな工房に木霊する。
こんな、神聖な……とまではいかずとも、誠心誠意込めて作品を作り上げていく場所で、こんな下品な行為をすることになるなんて、と。実は音もなく涙し、それはそば殻の枕に染み込んで行った。
もう、きっと感情が付いていっていないのだろう。
初めてのときでもこんな風には感じなかった。実を気持ち良くしようとは、微塵も思っていない行為。ひたすらに痛いだけで、どうか早く終わってくれますようにと、ただそれだけを願っていた。
「せんせー、大丈夫?」
階段を登ろうとして、一段目から踏み外してしまった。
手摺りにしがみ付いたところを通り掛った男子生徒に見咎められ、反対の腕を取られ体が緊張する。
高校生の男子ともなれば、殆どが実よりも大きく、進学校ではないため容姿に気合を入れている生徒が多いから、なんとなく引け目を感じてしまう。
事務員でも区別なく、全員に「先生」と呼ばれるのがこそばゆいが、生徒にとっては学校という場に居る大人は一括りに先生になってしまうのだろう。
「顔色、真っ白。保健室つれてったるわ」
「え、ちょっ、そこまでは」
どうにかこうにか午前中の仕事をこなした後だった。
いつもは食堂か近所の製麺所に食べに行くのだが、本当に食欲がなくて飲み物だけで済ませようとしたのが悪かったのかもしれない。
朝もぎりぎりまで布団の中に居たから、ヨーグルトを一つ食べたきりだった。
見たことがあると思っていたら、去年選択授業でバーナーワークを教えたことがあるグループの生徒らしく、もう一人の連れと一緒に両肩を支えて、殆ど宙に浮くくらいの勢いでさっさと保健室に連れ込まれてしまった。
確かラグビー部だったが、道理で軽々と持ち上げる筈だ。
「風邪っていうんじゃなさそうだけど」
「うん、熱くないもんな。逆に冷たいくらい」
さほど大きくはないが、二人ともYの字体型でがっしりしている。冬でもしっかり日焼けの跡が残っていて、それなのに若いからぴちぴちと張りのある肌。
それを羨ましく見上げながら、ベッドの上に腰掛けさせられた。保健医は留守のようで、珍しいことではないから二人には礼を言って帰らせた。
人手が足りない時には、実も保健室勤務を手伝わされることがある。難しいものはすぐ近くの総合病院に搬送すればよいし、消毒くらいならば実にも出来るから、後はサボりの生徒の相手だけしていれば良い。
自分でも手足の先が冷たいのが判る。貧血を起こしているのだ。
昨晩、一回イった後、やはりアルコールの影響が強かったようで、新汰はすぐに寝入ってしまった。当然実のモノは萎えたままだった。
気を付けてはいたのだが、少しシーツが汚れてしまっていた。だが、それを洗濯するほどの体力も気力も残っていなかった実は、よろめきながら深夜に帰宅した。
もう眠気よりも疲労で倒れこみたかったが、シャワーを浴びて体内の残滓を掻き出し、涙も枯れ果てて泥のように眠った。
あらぬ部分はじくじくと痛み、哲朗のことも気掛かりだったが、とても話せる状況ではない。
何を言い掛けたのか、そして突然に切れてしまった通話に怒っていないかと、ずっと心に引っ掛かったまま。
書類を捌き、入試関連の段取りを進め、電話の応対に追われて一日が過ぎて行く。
内線で他の事務員に居場所を伝えてから、上着をベッド脇の籠に放り込んで横になっているうちに眠ってしまっていた。
ぎりぎりまで待ってくれていたらしい保健医に揺り動かされ、利用手続きをしてから一度事務室に戻り、部署の仲間に謝ってから荷物を手に学校を出る。
暇な時期なら割と自由時間も取れる職場ではあるのだが、今は忙しくなる一歩手前だ。年度末のあれこれよりはまだましだが、それでも繁忙期に変わりなく、皆の視線が痛かった。
今日はもう何もしないでゆっくり眠って、明日はきちんとこなさないと。そう心に決めて駐車スペースに行くと、実の車に凭れるようにして新汰が立っていた。
「お疲れさん」
まるで何もなかったかのように笑い掛けられて、無言で会釈した。
運転席側のドアを塞がれていてはどうにもならない。仕方なく少し距離を置いたまま足を止めて視線を落とす。
「なに」
地面に向かって落ちて行った言葉は小さく低く、新汰はほんの少しだけ動揺したようだった。
じゃり、と敷石を踏みしめる音にびくりと肩を跳ねさせ、実は一歩下がった。
「そんなっ」
一方的だとは思うけれど、こんなのはどちらかが終わりを告げてしまえばそれまでだと思っていた。それなのに。
「やだ! も、しないっ」
どうにか体を反転させてにじって逃げようとすると、手荒くコートも脱がされ、実自身から出たものだけを絡めた指が後ろに突きたてられる。
「ヒッ、いたっ」
「何もないからさ、ごめんね。それに、そんなに嫌がられると、優しくなんて出来そうにないわ」
涙を零して背を仰け反らせるところに、ろくに解しもせず、本当に新汰は己を突き刺した。
あぐ、と悲鳴を上げそうになった頭をぐいと枕に押さえつけ、みちみちと軋む箇所に無理矢理全部押し込むと、性急に腰を使い始める。
熱で温まっている空気が、鉄錆の臭いを漂わせていた。
このままだと敷布団が汚れてしまうと、呼吸すらままならない中で、実は精一杯腰を上げた。溢れ出る潤滑液のおかげで滑りが良くなったのか、新汰はスピードを上げ、肉と肉がぶつかる音と、荒い息遣いが静かな工房に木霊する。
こんな、神聖な……とまではいかずとも、誠心誠意込めて作品を作り上げていく場所で、こんな下品な行為をすることになるなんて、と。実は音もなく涙し、それはそば殻の枕に染み込んで行った。
もう、きっと感情が付いていっていないのだろう。
初めてのときでもこんな風には感じなかった。実を気持ち良くしようとは、微塵も思っていない行為。ひたすらに痛いだけで、どうか早く終わってくれますようにと、ただそれだけを願っていた。
「せんせー、大丈夫?」
階段を登ろうとして、一段目から踏み外してしまった。
手摺りにしがみ付いたところを通り掛った男子生徒に見咎められ、反対の腕を取られ体が緊張する。
高校生の男子ともなれば、殆どが実よりも大きく、進学校ではないため容姿に気合を入れている生徒が多いから、なんとなく引け目を感じてしまう。
事務員でも区別なく、全員に「先生」と呼ばれるのがこそばゆいが、生徒にとっては学校という場に居る大人は一括りに先生になってしまうのだろう。
「顔色、真っ白。保健室つれてったるわ」
「え、ちょっ、そこまでは」
どうにかこうにか午前中の仕事をこなした後だった。
いつもは食堂か近所の製麺所に食べに行くのだが、本当に食欲がなくて飲み物だけで済ませようとしたのが悪かったのかもしれない。
朝もぎりぎりまで布団の中に居たから、ヨーグルトを一つ食べたきりだった。
見たことがあると思っていたら、去年選択授業でバーナーワークを教えたことがあるグループの生徒らしく、もう一人の連れと一緒に両肩を支えて、殆ど宙に浮くくらいの勢いでさっさと保健室に連れ込まれてしまった。
確かラグビー部だったが、道理で軽々と持ち上げる筈だ。
「風邪っていうんじゃなさそうだけど」
「うん、熱くないもんな。逆に冷たいくらい」
さほど大きくはないが、二人ともYの字体型でがっしりしている。冬でもしっかり日焼けの跡が残っていて、それなのに若いからぴちぴちと張りのある肌。
それを羨ましく見上げながら、ベッドの上に腰掛けさせられた。保健医は留守のようで、珍しいことではないから二人には礼を言って帰らせた。
人手が足りない時には、実も保健室勤務を手伝わされることがある。難しいものはすぐ近くの総合病院に搬送すればよいし、消毒くらいならば実にも出来るから、後はサボりの生徒の相手だけしていれば良い。
自分でも手足の先が冷たいのが判る。貧血を起こしているのだ。
昨晩、一回イった後、やはりアルコールの影響が強かったようで、新汰はすぐに寝入ってしまった。当然実のモノは萎えたままだった。
気を付けてはいたのだが、少しシーツが汚れてしまっていた。だが、それを洗濯するほどの体力も気力も残っていなかった実は、よろめきながら深夜に帰宅した。
もう眠気よりも疲労で倒れこみたかったが、シャワーを浴びて体内の残滓を掻き出し、涙も枯れ果てて泥のように眠った。
あらぬ部分はじくじくと痛み、哲朗のことも気掛かりだったが、とても話せる状況ではない。
何を言い掛けたのか、そして突然に切れてしまった通話に怒っていないかと、ずっと心に引っ掛かったまま。
書類を捌き、入試関連の段取りを進め、電話の応対に追われて一日が過ぎて行く。
内線で他の事務員に居場所を伝えてから、上着をベッド脇の籠に放り込んで横になっているうちに眠ってしまっていた。
ぎりぎりまで待ってくれていたらしい保健医に揺り動かされ、利用手続きをしてから一度事務室に戻り、部署の仲間に謝ってから荷物を手に学校を出る。
暇な時期なら割と自由時間も取れる職場ではあるのだが、今は忙しくなる一歩手前だ。年度末のあれこれよりはまだましだが、それでも繁忙期に変わりなく、皆の視線が痛かった。
今日はもう何もしないでゆっくり眠って、明日はきちんとこなさないと。そう心に決めて駐車スペースに行くと、実の車に凭れるようにして新汰が立っていた。
「お疲れさん」
まるで何もなかったかのように笑い掛けられて、無言で会釈した。
運転席側のドアを塞がれていてはどうにもならない。仕方なく少し距離を置いたまま足を止めて視線を落とす。
「なに」
地面に向かって落ちて行った言葉は小さく低く、新汰はほんの少しだけ動揺したようだった。
じゃり、と敷石を踏みしめる音にびくりと肩を跳ねさせ、実は一歩下がった。
0
あなたにおすすめの小説
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
寂しいを分け与えた
こじらせた処女
BL
いつものように家に帰ったら、母さんが居なかった。最初は何か厄介ごとに巻き込まれたのかと思ったが、部屋が荒れた形跡もないからそうではないらしい。米も、味噌も、指輪も着物も全部が綺麗になくなっていて、代わりに手紙が置いてあった。
昔の恋人が帰ってきた、だからその人の故郷に行く、と。いくらガキの俺でも分かる。俺は捨てられたってことだ。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる